脱炭素へ国内CCSが事業化に向け動き本格化、JOGMECが9事業選定

北海道・苫小牧地域でのCCSの大規模実証で使われた設備(日本CCS調査提供)
二酸化炭素(CO2)を回収して地下に貯留するCCS事業に向けた動きが、国内で本格化する。今年5月に貯留事業の許可制度などを整備した法律「CCS事業法」(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)が成立。続いて、6月には、経済産業省やエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、今後、民間と連携しながらプロジェクトを進めていく「先進的CCS事業」9件を選定した。オセアニアなど海外との協力も推進しており、CO2貯留を海外で行う4件も含む体制で最終的な検討が進められる。課題は山積するが、脱炭素の「最後の砦」ともいわれる技術実装の模索が続く。
政府は、2023年7月に閣議決定した「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)で、30年までに国内でCCS事業を開始するため、事業環境を整備する目的などで、模範となる先進性の高いプロジェクトを支援していく方針を明記した。これを受けて、9件の事業が選定された。
先進的CCS事業は、応募があった計画から、審査の結果、立ち上がりの実現性が高い「トップランカー」の事業が選ばれた。回収するCO2排出源が国内の複数産業にまたがっていることなどの条件を満たした事業だが、CCSそのものは「相当な資金がかかり、収益性が高い事業ではない」(JOGMEC先進的CCS事業課)。
そのため、9件は、政府などの支援は受けられるものの、30年度にCO2貯留を開始する大きな目標に向けて、毎年度末ごろに適正に必要な事業が進捗しているかのチェックがなされる。投資判断タイミングのマイルストーンとされる26年度末ごろまでは、事業の精査が継続されていくという。
選ばれた事業は、国内各地にある発電所や製油所、製鉄所、化学工場などの排出源から回収したCO2を年間約140万トン~300万トン程度、地下の岩石の空洞部分やこれまでに開発したガス油田で枯渇しつつある部分などに圧入して貯留する計画だ。
国内で唯一となる大規模なCO2貯留が実証的に進められた北海道・苫小牧地域では、石油開発大手の石油資源開発や出光興産などが取り組むほか、石油開発国内最大手のINPEXや日本製鉄などが組んで千葉県外房沖で進める事業も選ばれた。苫小牧地域では、国などが進めた実証試験で、16~19年の3年間、合計30万トンのCO2を地下に圧入し、モニタリングによって状態が安定していることが確認されているという。
海外での貯留事業4件、CO2運搬などに課題も
日本は、アセアン各国などと連携して知見の共有などを目指す産学官プラットフォーム「アジアCCUSネットワーク」を主導して21年6月に発足させた。こうした経緯もあり、9件のうち、4件がマレーシア沖を中心とした海外での貯留計画を含んでいる。三菱商事やENEOS、JFEスチールなどの事業ではマレーシア・マレー半島沖北部で貯留するほか、三井物産やコスモ石油、レゾナックなどはマレー半島沖南部で貯留する計画だ。マレー半島沖南部での貯留は、9件のうち最大規模となる年間約500万トンの貯留が計画されている。
こうした点について、JOGMEC先進的CCS事業課は、「東南アジアなどは日本から地理的に近いうえ、もともと石油天然ガスの開発実績がたくさんある。CCSでは、逆にそうした場所の地下に、CO2を入れる事業になる。そのため、東南アジアなどはCCSにとっても有望な地域になる」と説明する。
政府は、30年までに年間600万~1200万トンの貯留量の確保を目標に掲げているが、今回の9事業が計画通りに進めば、合計2000万トンの貯留量が積み上がる。
ただ、まだ確立したビジネスモデルがないCCS事業は、課題が多いのも事実だ。国内の多くの事業では、貯留予定地などで、地質構造のデータ分析がまだ十分に進められていないという。永続的に貯留するためには、地震が起こりやすい地下断層などの把握も必要になる。
また、海外に貯留する事業では、国内で回収したCO2を液化して船舶などで輸送する必要がある。長距離を効率的に輸送するためには、低温低圧を維持する必要があり、船舶からの積み下ろし時にドライアイス化して配管を詰まらせたり、腐食性があるため、配管などを破損させたりすることも懸念されているという。
JOGMEC先進的CCS事業課は「まずは足元に注力して、9事業のうち30年に立ち上がるプロジェクトを一つでも多く残して、政府目標を達成したい。設備建設などを考慮して逆算すると、もう時間はない。何とか間に合わせていかなければならない」と話している。
(IRuniverse Kogure)
関連記事
- 2025/06/16 三菱ケミカル 三菱化学高分子材料(南通)有限公司移転決定
- 2025/06/16 豪Livium社 レアアースリサイクル推進へ 複数の抽出技術開発企業と協議中
- 2025/06/16 環境大臣政務官が、自動車リサイクルの最前線リバー川島・ELV川島事業所を視察
- 2025/06/16 アーバンエナジーの太陽光発電コーポレートPPA サービス導入100MW突破
- 2025/06/15 週刊バッテリートピックス「アイシンがファスナー式太陽電池」「FDKが高出力電池量産」など
- 2025/06/13 DOWA子会社が村田製作所からサプライヤー表彰を受賞―リサイクル金属の循環スキームを共同構築
- 2025/06/13 日本が中国製ソーラーパネル調査開始
- 2025/06/13 環境省 中環審の脱炭素型資源循環システム構築小委員会開催〜高度化法概要について
- 2025/06/13 トクヤマ他 使用済太陽光パネル資源循環推進・北海道コンソーシアム設立
- 2025/06/13 レゾナック、日本製鉄他 排出 CO2 の有効活用によるグリシン製造研究開発が、NEDO 採択