IRuniverse主催の「第13回 Battery Summit in TOKYO」が、3月17日から18日にかけてベルサール御成門タワーで開催された。2日目午後の「リサイクルセッション」では、韓国、ドイツ、サウジアラビア、スイス企業が登壇し、それぞれのバッテリーリサイクル戦略について発表した。前編である本稿では韓国およびドイツ企業の取り組みを紹介し、次報の後編ではサウジアラビア、スイス企業の戦略およびセッション後半に行われたパネルディスカッションの様子を報告する。
1. ABR (Advanced Battery Recycle), Yu Tack, Kim氏:バッテリー産業のリサイクルと持続可能性戦略

セッション最初の登壇者は、本サミットのゴールドスポンサーを務めるABR(Advanced Battery Recycle)のCEOを務めるYu Tack, Kim氏。ABRは韓国企業に拠点を置く企業で、環境に配慮したバッテリーリサイクル技術の世界的な普及、および大規模展開を加速させることを目的に2021年に設立された。
同社はバッテリーの製造とリサイクルを同一の国・地域内で完結させる「クローズドループ型システム」を提唱しており、Kim氏はこのシステムが資源依存の低減や環境負荷の削減、さらにはサプライチェーンの強靭化につながると強調。さらに、バッテリー産業における真のサーキュラリティ(循環型社会)を実現するうえで不可欠な考え方であると付け加えた。
発表ではEV市場の拡大に伴い、製造スクラップや使用済み電池の再資源化が重要性を増している一方、EUや米国で電池生産が進んでも精製・リサイクル工程は韓国や中国に偏在している現状が示された。特に中国は精錬・再資源化で優位にあり、他地域が参入する難しさも共有された。
ABRはこうした構造に対し、工場内で発生するスクラップをその場で再利用する「直接リサイクル」提案している。対象はNCM622、NCM811、LFPなど多様で、スラリー、塗工後、プレス後、セル、ブラックマスなど工程ごとの原料に対応する。開発は1kg/日規模の初期試験から始まり、LCA評価を行わない前提で最大80%のコスト削減を目標として検証したところ、バッテリースクラップから94-96%の回収率を確認した。この結果を受け、同社はさらに100kg/日規模のパイロットを設計し、正極材・負極材の再製造に成功した。
性能面では、再生NCMやLFPの電気化学評価も示された。例えばLFPでは未使用材が154.4mAh/g、効率93.01%だったのに対し、再生材は150.34mAh/g、効率95.79%を示し、再生材でも十分な性能が得られる可能性が示された。
発表では、水系分離技術や湿式冶金をはじめ、CO2排出削減、化学薬品使用量の低減、コスト圧縮に寄与する技術開発についても説明がなされた。
またABRは、2024年に環境省の規制サンドボックス承認を取得するなど制度面でも進展を見せており、今後は地域密着型サプライチェーンの構築と、収益性を両立するクリーンリサイクルの確立を図る。
2. SungEel HiTech Co., Ltd. , Sujin Jeong:クローズドループの守護者

セッション二人目の登壇者は、韓国に拠点を置くSungEel HiTech社のグローバルソーシング&パートナーシップ担当であるJeong SuJin氏。SuJin氏は冒頭、EV・ESS需要の拡大を背景にバッテリー市場は中長期的に成長が続く一方、鉱山開発だけでは将来の重要鉱物需要を満たせないと述べた。 本発表では2030年のバッテリー需要見通しとして、EV向けが2,427GWh、蓄電池向けけが551GWhと示し、ロボティクスやドローンなど新用途も含めて電池需要はさらに拡大すると説明された。これに対し、リサイクル材の供給比率は2020~2025年時点ではまだ限定的で、LCE(炭酸リチウム換算)6%、Ni10%、Co18%に留まるものの、2025~2030年には総需要の22%、2030~2040年にはLCE33%、Ni26%、Co8%を賄うと予測されている。これを受けて同社はリサイクルはもはや補完手段ではなく、将来の供給を支える基幹機能になると位置付けているという。
また、近年の電池材料価格の乱高下も鉱山依存の危うさを浮き彫りにした。2021~2022年には、コバルトがIT需要増と物流混乱、ニッケルがLMEニッケルショックとロシア・ウクライナ戦争、リチウムがEV需要急増により8万$トン超まで高騰した。一方、2023~2024年はLFP拡大や供給増で相場が反転し、2025年にはコバルトがDRC輸出制限で約20$/lbへ反発、ニッケルは1万5千~6千$/トンで安定、リチウムは年初に1万ドル/トン割れまで下落後、やや持ち直した。こうした変動は、資源調達の安定化に向けてクローズドループ構築が不可欠であることを示している。
各国の政策・規制も、バッテリー産業の地域化を後押ししている。EUはBattery Regulation(EU 2023/1542)により、リサイクル効率を2025年65%、2030年70%へ段階的に義務化し、2027年までにリチウム50%、コバルト・ニッケル・銅90%の回収目標を設定した。米国ではEV補助金終了後も、IRAの45X税額控除を通じて国内生産を後押しする。中国は認定企業中心の管理を維持しつつ、2025年8月から一定基準を満たすブラックマス輸入を容認。インドも国内資源確保とブラックマス輸出規制を強めている。こうした動きから、今後は「どこで回収し、どこで再資源化するか」が競争力の鍵になると強調された。
発表では、SungEel HiTechの強みとして、回収・輸送・前処理・湿式製錬までを一貫して担う垂直統合体制、トレーサビリティ対応、そして97%超の金属回収率が紹介された。2025年の実績としてはスクラップ受入量2.5万トン、EV約10万台分のリサイクル、韓国国内シェア50%、グローバル約1%を達成。回収金属はNi 3,700トン、Co 1,100トン、Li 3,100トンで、年間1.97万トンのCO2排出削減につながった。さらに、一次資源由来の電池金属と比べてCO₂排出を78%削減できる点も訴求された。
同社は韓国・日本を起点に、欧州、APAC、北米の4地域でクローズドループ拠点を整備し、「地産地還」の考え方で地域内循環を進めている。将来的には世界30拠点を構築し、2035年までにEV100万台分相当の高純度金属供給体制を目指すとして、リサイクルを単なる廃棄物処理ではなく、資源安全保障・脱炭素・産業競争力を支える戦略インフラとして位置付けていた。
3. Primobius GmbH, Michel Siemon氏:工業規模におけるバッテリーの湿式リサイクル ―信頼性、高回収、そして次世代を見据えた操業の核心

セッション三人目の登壇者は、ドイツに拠点を置くPrimobius GmbHのCEOを務めるMichel Siemon氏。Siemon氏は冒頭、リチウムイオン電池の需要拡大に伴ってリサイクルはバッテリーサプライチェーンの中核として重要性を増していると強調した。EV向け電池需要は2030年までに3TWhを超えると見込まれ、同時に2030年以降は大量の使用済み電池(EOL)が発生する見通しである。特に日本では重要原材料への地域的アクセスが限られており、使用済み電池からリチウムやニッケルなどの資源を回収し、供給を補完することが戦略的課題となっている。
一方、電池リサイクルは技術的難易度が高い。電池はNCA、NCM、LCO、LFPなど多様な化学系を持ち、組成や形状も異なるうえに最大30%程度の充電状態を保持したまま流通するケースもある。このため、安全な取り扱い、環境・健康リスクへの対応、さらに欧州をはじめとする厳格かつ進化する規制への適合が求められる。また、原料の量や品質のばらつき、サプライチェーンの不確実性も大きな課題である。
こうした中で重要となるのは多様な原料に対応できる柔軟性、入力変動に対する安定処理、不純物の精密制御、そして高回収率と電池グレード品質の両立である。Primobiusは、放電・解体、破砕・選別、湿式製錬(ハイドロメタル)までを統合したエンドツーエンドのリサイクルプロセスを提供している。
同社の前処理工程では、完全放電なしでも複数の電池フォーマット・化学系に対応し、ブラックマス(Li、Ni、Mn)の回収率は最大95%、銅60~80%、アルミ70~80%を達成。総合回収率は95%以上で、不純物(Al・Cu)は2%未満に抑えられる。さらに湿式製錬工程では異なる化学組成のブラックマスを処理しつつ、97%以上の高回収率で電池グレードの高純度金属を回収可能である。加えてゼロ排水プロセスやナトリウムフリー回路により、環境負荷低減と規制対応を両立している。
同社はSMSグループの技術基盤を背景に、ドイツ・クッペンハイムにおいてメルセデス・ベンツと連携した統合リサイクル拠点を展開している。ここでは自動車用バッテリーを原料として受け入れ、回収した材料を再びバッテリー製造に供給するクローズドループを実現している。これにより、資源循環とコスト競争力を両立した産業規模のリサイクルが可能となり、同社は高品質かつ持続可能な電池リサイクルのパートナーとして位置付けられている。

第13回 Tokyo Battery Summit―「リサイクルセッション後編」サウジアラビア、スイス企業のバッテリーリサイクル戦略およびパネルディスカッションへ続く
(IRuniverse Midori Fushimi)