AIカメラで太陽光発電の銅線盗難防止の決め手に――サービス提供のJIA武内健治執行役員に聞く
ソリューションの狙いを語る武内健治・執行役員経営企画部長
銅価格の高騰を背景に、多発する太陽光発電所の銅線盗難。社会問題化している被害を受けて、AI(人工知能)を駆使した監視ソリューションの提供が始まった。警察庁のまとめでは、この半年ほどの間に4100件を超える被害が出ているという。被害発電所では、稼働を全面停止せざるを得なくなるケースもあるほか、多発のあおりを受けて、関連する保険料が値上がりするなど、業界全体を大きく揺さぶっている。運営発電所で遭った実際の被害が、ソリューション開発のきっかけの一つだったという「ジャパンインベストメントアドバイザー」(JIA、東京都千代田区)の執行役員経営企画部長の武内健治氏に、事業や業界への影響などについて聞いた。
――AIに着目されて、太陽光発電所の盗難防止ソリューション「AIZE Security」(アイズセキュリティ)の提供を始めました。
武内健治氏:
AIカメラで撮影して、感知するとアラートが鳴るシステムだ。当社も従来から赤外線センサーなどを導入していたが、発電所は基本、田舎の農村部などに設置されているため、どうしても野生の動物などを感知してしまう。そうすれば、余計な誤感知が起きてしまう。それをなくすために、注目したのがAIカメラの画像認識だ。
赤外線センサーは数メートル飛ばすことができるが、あくまでも線なので立体的にカバーできない。くぐったり、またいだりして赤外線を避けることができてしまう難点があった。網羅するために、どれだけ多くのセンサーを取り付けるかという話になってしまっていた。
AIカメラであれば、全体を俯瞰することで広範囲をカバーできる。不審者が感知されれば、現地では視覚的に警告したり、サイレンが鳴ったりして警告システムが発動される。監視側にも通知が来て、ただちに警備会社と連携し、原則30分以内に駆けつけてもらう仕組みだ。まだ、完全に警備システム全体を置き換えるまでにはなっていない。将来的には置き換えるまでになればいいが、現在は、警備会社との駆け付けサービスと一緒に併用している。
カメラで常時撮影して監視するケースはあったが、画像AIを駆使して識別するソリューション提供を本格化するのは初めてだろう。
太陽光発電所の銅線ケーブル盗難の被害状況
――サービス開発のきっかけは。
武内健治氏:
当社は金融業が主で、太陽光発電所と投資家をマッチングさせる事業を2014年から始めた。発電所自体は当社が運営、管理を行い、売電収入を投資家らにリターンとして分配し、当社は運営手数料をもらっている。現在、日本全国で25拠点、発電出力が合計71・3MWに及ぶ施設を稼働させているが、当社管理の複数個所の施設でも、発電所と系統を結ぶ銅線ケーブルが盗難の被害に遭ってしまった。23年1月に関東地方の発電所で初めて盗難に遭って以降、これまでに被害が相次いでいる。
ある発電所では、赤外線センサーを導入していたが、夜間などにセンサーをまたいだり、金網をベンチで切ったりして内部に侵入された。盗難に遭う銅線は当社を含めて、一般的に百メートル超になるとされていて、30分程度では作業できない規模感だ。
また、地中に銅線を埋めた場合でも被害が出る例もあるといい、その場合は窃盗団に、電気工事の技術者クラスの知見を持つ人がいると想定されている。
被害に遭うと、発電が全面的に停止するケースもある。少なくとも発電効率が下がるわけで、復旧するには2か月くらいかかってしまう。発電所規模にもよるが、ケーブルの復旧費は1000万円~2000万円に及ぶことがあり、加えて発電停止により売電収入がなくなってしまい、被害額は大きく膨らんでしまう。
そうした被害が相次いだこともあり、社会課題として早急に解決すべきとして、画像認識に知見があり、AIプラットフォーム提供を展開する「トリプルアイズ」(東京都千代田区)に、話を持ち掛けた。プロ棋士に勝てる囲碁AIの技術開発などを手掛ける有数の企業だ。碁盤を上部からカメラで撮影しながら分析するAIで、画像認識や機械学習などの様々な技術を培っている。当社が、一部出資している縁があった。
――開発で工夫された点は。
武内健治氏:
当社も被害が出たため、「カメラ撮影中」といった看板を現地に掲げる対策などをしてみたものの、被害は収まらなかった。全国的には、同じ発電所で複数回の被害に遭う例も出ているという。窃盗団は相当、下見を重ねていて、傾向と対策を仲間で共有していることがわかる。
23年9月からトリプルアイズと、ソリューション開発に向けた実証実験を始め、当社の発電所で試行錯誤を繰り返してきた。精度を上げるために、AIに学習させていくしかない。人間的な動き、あるいは人間的でない動きなど、両面からたくさんAIに学習させればさせるほど、正しい識別能力を持つようになる。実証の繰り返しで、ある程度の精度が高まり、このたび商用化するに至った。
提供を始めたソリューションでは、不審物を感知すると焦点を当てるなど高機能を有したカメラを導入した。現地調査をして、発電所内に死角がないようにカメラを複数設置していく。また、カメラ自体を絶えず動くような設定ができたり、感知した不審者に追跡するように動いたりもできる。撮影した画像は、警察などとも連携して、窃盗団らを追跡していく資料にもなる。
――被害多発の影響は、業界内外でどう広がっていますか。
武内健治氏:
これまでは当社の施設だけで活用してきたが、ニーズがあれば、外販することにした。すでに損害保険会社などから問い合わせを頂いている。盗難被害の多発で保険会社は支払額が多額になっている現状があり、何らかの対策を取る必要が生じているのだろう。当社としては、このソリューションと保険商品をパッケージにするなどの提案をしていきたい。
実は、当社を含め太陽光発電事業者の間では、窃盗多発のあおりを受けて、保険料が高騰している問題が重くのしかかっている。保険料が2~3割値上がりしているともいわれる。事業者には大きな負担だ。盗難に有効なツールができれば、被害リスクが下がり、保険料も値下げできる面がある。当社のソリューションが、それくらいの信頼度が高まればいいと思っている。
盗難防止ソリューションとして広く認知され、発電所に当社のソリューションが設置してあれば、「盗難は難しい」というイメージを広めていく。そのうえで、二次的に業界が困っている保険料の値上がり対策につなげていければと考えている。
一方で、業界で流通市場をシャットアウトしなければ、窃盗された銅が換金できてしまう以上、こういう被害もなくなりにくい面があるだろう。
将来的には、ドローンなどを組み合わせていく防犯システムも考えていきたい。当社は、実際に発電所を運営している事業者でもあるので、同じ業界の中でのネットワークを生かして、ソリューション提供のアプローチをしていきたい。対象は、発電所を運営している事業者や、保守・メンテナンス業者のほか、保険会社などにも及ぶ。
あくまでも盗難を予防させていくことが主目的だ。太陽光発電所セキュリティーのブランドに育てていきたい。
(IRuniverse Kogure)
関連記事:太陽光発電所の銅線盗難防止ソリューション事業開始へ業務提携―トリプルアイズとJIA
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