バナジウム市場近況2024#7 一段安、中国鉄鋼不振の長期化で需要見通せず
2024年9月上旬までのバナジウム価格は一段安。鉄鋼向けのフェロバナジウムは3年8か月ぶりの安値圏に落ち込んでいる。中国の鉄鋼業界の不振が長引き、「需要の先行きが見通せない」(バナジウムを扱う金属素材メーカーの担当者)との声が聞かれる。夏休みは明けたが、市場のムードはさえない。
■フェロバナジウムは2021年1月以来の安値
過去3か月間のフェロバナジウム価格の推移(V78%min US$/kg EU)($/kg)
フェロバナジウムは8月22日に仲値$25.25/kgと、2021年1月以来およそ3年8か月ぶりの安値を付けた。8月8日に$26の節目を割り込んだ後も下げ止まらず、段階的に値下がりして$25前半まで下落した。
中国では不動産不況を背景に鉄鋼産業の不況が続いている。8月中旬には、世界鉄鋼最大手でもある宝武集団の胡望明主席が「鉄鋼の『厳しい冬』は、予想よりも長く、寒く、困難になる可能性が高い」と話したと伝わった。
関連記事: 「中国鉄鋼の厳しい冬は予想以上」宝網トップ、先行き悲観 現地報道 | MIRU (iru-miru.com)
前出の担当者も「中国の鉄鋼不況が早期に改善するとは考え難い」と指摘する。ただ、日本国内のバナジウム関連業者は「在庫は持っている」といい、「供給も国内産が7割を占めるため、国際価格が下落しても業界内に慌てるムードはない」とも話した。
過去3か月間の五酸化バナジウム価格の推移(V205 fob China)($/lb Vo205)
五酸化バナジウムは8月16日に仲値$4.88/lbを付けた。4月末以来の安値水準で、その後は2週間以上横ばいが続いている。FerroAlloynetは8月19日のレポートで「末端需要の弱さから価格競争が激しくなっており、一部のバナジウム投資家は取引を止めて市場回復を待つ姿勢を取っている」と指摘した。
関連記事:2024年1-7月の中国五酸化バナジウム輸出入概況 輸出は前年比1%増の3,168トンへ | MIRU (iru-miru.com)
ただ、五酸化バナジウムは$5を割り込んだところで下げ止まっているとも言え、案外下値は堅いともとれる。前出の担当者はバナジウム全体の先行きについて「当面、現状の水準での推移となるのではないか」と見ていた。
Topics
8月28日
中国バナジウム生産大手のチャイナ・バナジウム・チタノ-マグネット・マイニングが上場先の香港証券取引所で発表した2024年1-6月期決算は、売上高が前年同期比3%増の2億8900万元、最終損益が18万元の赤字で、前年同期の600万元の黒字から赤字転落した。かろうじて増収は確保したものの、中国の鉄鋼業の不振のあおりから逃れられなかった。
プレスリリース:2024082800772.pdf (chinavtmmining.com)
8月8日
カナダのバナジウムメーカーのラルゴが自社ホームページ上で発表した2024年1-6月期決算は、純利益が前年同期比36%減の7000万ドル、最終損益が2700万ドルの赤字で、赤字額は前年同期の700万ドルから拡大した。期間内のバナジウム価格の下落が響いた。
(IR Universe Kure)
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