大同特殊鋼、プラスチック金型用鋼「S-STAR」の鏡面性強化―担当者インタビュー

インタビューに答えてくれた森川室長(右)と松林室長
大同特殊鋼はこのほど、1997年に販売を開始した高硬度・超鏡面耐食プラスチック金型用鋼「S-STAR(エススター)」の製造工程を刷新し、鏡面性を強化した。工具鋼事業部企画開発部企画管理室の森川秀人室長と同事業部工具鋼営業部工具鋼東京営業室の松林克明室長に詳しい内容や今後の戦略について話を聞いた。
――具体的にはどのような刷新を実施したか
森川室長:1番はやはり、溶解のプロセス。不純物を少なくする工程の条件を見直すことで不純物の少ない、よりクリーンな鋼が製造できるようになった。表面がツルツルと滑らかなプラスチック製品を成型するためには、原料を流し込む金型の表面も鏡のように滑らかな鏡面性が必要となる。金型メーカーでは、切削・金型加工した後に砥石やサンドペーパーで研磨し、最終的には、ダイヤモンド粒子を油脂に均一に分散させて混ぜて作った研磨剤である「ダイヤモンドペースト」で仕上げを行うが、この時に鋼の中にアルミナ(Al2O3)などの非金属介在物が混ざっていると、それが脱落することで金型の表面に穴(ピンホール)ができる。
大きさとしては数十ミクロン単位だが、これが成型されたプラスチック製品に転写され、製品表面のわずかな突起へとつながってしまう。それを防ぐため当社では一次溶解と二次溶解の精錬条件を最適化することでアルミナ系の非金属介在物を減少させることに成功した。既存のSUS420J2系材料と比較しても介在物の指数が少ないことが測定結果で明らかになっている。
――「S-STAR」はどのようなプラスチック製品向けの金型として需要があるか
森川室長:プラスチック製品が世の中に溢れていることもあり、用途は多岐にわたる。自動車のランプや内装部品のほか、医療の現場で使用される器具や機械などの製造にも活用されている。もう少し身近なところでいえば、化粧品のボトルなどにも使われていると聞いている。高級感を演出できる滑らかで光沢のあるプラスチックは、鏡面性の高い金型でしか製造できないため、一定の需要がある。もちろん、用途によっては鏡面性がもう少し低くても問題ないというケースも存在するため、当社では多彩なプラスチック金型用鋼のラインアップを揃えており、様々な顧客のニーズに対応できるようにしている。
松林室長:鏡面性(磨き番手)のグレード別に多彩なラインアップを揃えている。もっとも生産量の多い汎用雑貨品向けの「PXA30」のほか、プリハードン鋼の一つであるNAK材を使用し、5000~8000番(磨き番手)まで磨けるNAK系、1万4000番まで磨ける「S-STAR」などがある。これらを軸にしつつ、硬さ(HRC)があるものや、プラスチック製品の透明性を高めるもの、耐食性に優れたものなども販売している。
――「S-STAR」の今後の販売戦略は
松林室長:直近ではハイブリットカーが再注目されている傾向もあるが、自動車業界ではEV化がさらに進むと予想している。同業界のように、高硬度や耐食性といった性質を持つ高機能なプラスチック製品が求められる分野に焦点を当て、PR活動を展開することでシェア拡大を目指したい。
森川室長:「S-STAR」などのハイグレード製品の市場は伸長していくものと見込んでおり、現在のラインアップでは、さらに多様化するニーズをカバーできなくなる可能性もある。耐食性と硬さのバランスなど新たな要望が出てくると想定されるため、研究所とも連携しながら新たな商品の開発も検討している。
――最後に
森川室長:約5年前から鏡面性向上を目的とした品質改善に取り組み、顧客の方々に満足してもらえる刷新が行えたと思う。鏡面性以外の部分については競合製品である既存のSUS420J2系材料と同等の品質を確保できているため、導入を前向きに検討いただきたい。
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大同特殊鋼は「S-STAR」の工程刷新に続き、ギガキャスト工法に対応した超大型ダイカスト金型用鋼「DHA-GIGA」の販売開始もこのほど発表した。まずはギガキャスト工法の適用が先行している中国市場で本格的な発売を開始し、日本国内など他地域でも順次供給体制の整備を進めていく考えだ。
ダイカストは、金型を組合せてできる隙間に、溶けた金属を高温・高圧力で押し込んで固め、肌の綺麗な鋳物を短時間で大量に作る方法。同工法は自動車部品の製造に多く導入されており、プラスチック向け、金属向けともに自動車業界をターゲットとした戦略に共通点がみられる。同社の金型用鋼事業の動向に注目したい。
(IRuniverse K.Kuribara)
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