Americas Weekly 37 ハリケーン「へリーン」が電気自動車火災を招く リチウムイオン電池の脆弱性露呈

米国南部を襲ったハリケーン「へリーン」は、フロリダ州に上陸した後、ジョージア州やノースカロライナ州、テネシー州などに甚大な被害を与え、死者は少なくとも215(10月4日現在)にのぼった。洪水や土砂崩れなど各地で壊滅的な被害となったが、高潮や洪水で水に浸かった電気自動車(EV)などのリチウムイオン電池が発火する事態も相次いだ。被災した数日後に発火する可能性もあることから、自治体などは、水に浸かったリチウムイオン電池を選別して危険廃棄施設に捨てるよう住民に呼びかけている。豪雨災害の際のリチウムイオン電池の脆弱さが浮き彫りとなった。
ハリケーン「へリーン」は9月26日夜、フロリダ州に上陸した。その直前、デサンティス知事は、電気自動車を高台に移動させるよう市民に呼びかけた。
フロリダ州は全米でも電気自動車の普及が進んでいる。米エネルギー省によるとフロリダ州の電気自動車の台数は約25万5000台で、全米トップのカリフォルニア州の約120万台には及ばないが、2番目の普及台数を誇っている。
特に「へリーン」の進路となったタンパには4万2000台の電気自動車があるとされ、電気自動車が海水に浸かり次々に火災が発生すれば、災害を大きくし、住民救助にあたるはずの消防隊らの任務にも支障をきたす可能性があったため、デサンティス知事の異例の呼びかけとなった。
フロリダ州当局の懸念の通り、「へリーン」が上陸した26日だけで、リチウムイオン電池が原因とされる火災が16件発生した。州の消防保安官によると、出火元はテスラの自動車や他社の電気自動車、ゴルフカートや電気機器だったという。
タンパの西側に位置するピネラス郡の当局者は、浸水した住宅のガレージにあった電気自動車が燃え上がる防犯カメラの映像を公表した。
浸水はタイヤの3分の1程度、車体の腹の部分に付くか付かないかぐらいの高さだったが、突然、大きな音をたてて腹の当たりから炎が出た。その後、何度か爆発を繰り返し、車は下の方から炎に包まれ、ガレージに白煙が充満した。
タンパのデイビス諸島では「へリーン」が過ぎ去った27日朝、大型住宅2棟が燃えた。消防当局は、このうちの1棟は火元が電気自動車だとみて調べている。焼けた住宅は壁が一部残っただけで、ほとんどが倒壊してしまった。空爆を受けた建物のようにも見え、火災の激しさを物語っていた。
リチウムイオン電池は水に触れることでショートし、発熱と発火を引き起こす。電池背面のセルの間に熱がたまり始めると、「熱暴走」と呼ばれる連鎖反応が起きて、激しい火災となる。
最近のリチウムイオン電池ではセルの間に絶縁バリアを設置するなど「熱暴走」が起きないよう予防策が施されている。また、湿気の侵入を防ぐ措置が講じられているが、米運輸当局は、発生した熱が外に放出される仕組みが十分ではないのではないか、とみている。
ハリケーンなどの豪雨災害で、電気自動車が火災を起こす問題は2012年、ニューヨークを直撃したハリケーン「サンディ」のころから注目され始めた。
しかし、全土を網羅した詳細な調査や統計はない。2022年にフロリダ州などに上陸したハリケーン「イアン」では、被災地で約5000台の電気自動車のバッテリーが損傷し、このうち36台が火災を起こしたとされている。
ハリケーンが陸地に接近すると、潮位が一気に上昇し、海水が陸地沿岸部に流れ込んで水害が起きる。一般的な豪雨による被害との違いはこの点にある。
AP通信によると、今年初めにあったカリフォルニア州での大雨による洪水では、電気自動車の火災はほとんど報告されていないという。このためAP通信は、リチウムイオン電池の火災は塩水に大きな原因があるのではないか、と分析している。
リチウムイオン電気による火災は、被災からしばらくたっても起きることがある。水に浸かったリチウムイオン電池の水分が蒸発しても、電気を通す塩分が残ってしまい、発火する可能性があるからだ。
被災地の自治体などは、火災などが起きなかった電気自動車については、メーカーのチェックが終わるまで始動しないよう呼びかけるとともに、電気機器などに使用されていいたリチウムイオン電池がダメージを受け、処分する際は、絶対に一般ごみには出さず、危険物廃棄施設に持ち込むよう、住民に要請している。
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Taro Yanaka
街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
趣味は世界を車で走ること。
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