東京製鐵・伊藤氏、老廃スクラップアップサイクルの大義強調―第4回CEシンポジウム

東京製鐵の伊藤岳大阪支店長は9日、学士会館で開催された第4回サーキュラーエコノミーシンポジウムに登壇し、「電炉で世界を緑に変える」のテーマの下、講演を行った。同氏は、日本最大電炉メーカーとして東京製鐵が掲げる「Tokyo Steel EcoVision 2050」について説明する中で、 “老廃スクラップ”をアップサイクルし、カーボンの削減につなげる取り組みの重要性を強調した。
「EcoVision 2050」は東京製鐵が2017年に策定した長期環境ビジョンであり、環境に優しい電炉鋼材のシェア拡大を通じ、50年のカーボンニュートラルと生産量1000万トンの実現を目指すもの。「技術開発・製品開発の推進」や「顧客との協働による鉄スクラップ回収率の向上」、「鉄スクラップ事業者とのパートナーシップの強化」などを短期的なアクションプランとして、多角的に活動を進めている。
伊藤氏は、「EcoVision 2050」の達成には克服すべき様々な課題があるとし、特に「老廃スクラップを使いこなす」ことの重要性を訴求した。
電炉鋼材製造工程においては、鉄スクラップが原料として使用されることは周知の事実であるが、高炉メーカーの電気炉は高級スクラップか還元鉄を原料としている。その一方で、国内には安価な老朽スクラップが豊富に存在し、十分に利用しきれていない状態だという。東京製鐵では、高級スクラップを市場バランス以上に購入せず、老朽スクラップを原料のメインとして鋼材生産を実施。その上で2020年から生産量を伸ばし続けてきた。
講演資料より引用
また、鋼鈑製造に比重を置くことも同社が重視するこだわりの一つだ。同社は1991年に日本電炉初のホットコイル進出を果たし、99年に最も早く自動車用鋼板に採用されている。伊藤氏は講演の中で、日本の鉄鋼生産(2021年)に占める電炉のシェアが、熱延コイルでは4.6%に留まっていることを理由に、「ここ(鋼鈑製造)を拡大しなければ意味がない」と主張した。
99年の自動車用鋼板への採用はコストダウン目的だったものの、東京製鐵の製造する高品質な鋼板は現在も高く評価されており、世界最小クラスの4人乗り電気自動車「FOMM ONE」にも採用されている。同車両の骨格部分の72%は同社製の鋼鈑で構成されているという。
講演配布資料より引用
なお、伊藤氏は電炉のデメリットとされている不純物の含有についても言及し、「中に入っている材質をできるだけ受け入れて成分のメリットを利用し、価値を向上させている」と、東京製鐵の技術思想を語った。環境省事業の「鉄スクラップの自動車部品への高度利用化技術調査」で、電炉鋼板が高炉同等以上の性能を持つことが実証されたことも説明された。
講演の最後に伊藤氏は、「電炉置き換えは大儀がある」と述べたうえで、「EcoVision 2050」への協力を呼び掛けた。
同社は今年7月にグリーン鋼材ブランド「ほぼゼロ」の販売を開始。カーボン削減への取り組みを加速させている。この新ブランドは、電気が化石燃料由来ではないことを示す「非化石証書」を購入し、通常の鋼材価格に上乗せする仕組みで、製造時の電力起因のCO₂排出量を“ほぼゼロ”に抑えることが可能となる。電炉業界をけん引する東京製鐵しか成しえない長期環境ビジョンの達成が期待される。
(IRuniverse K.Kuribara)
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