UBC 季節外れの高値相場 自治体入札は史上最高値の300円超――脱炭素への挑戦 皮肉な展開生む!?

UBC(使用済み飲料缶)市況の高値追いが止まらない。国内外企業入り乱れて資源争奪戦の様相を呈しているという。「この時期に1キロ300円超えなんて、どうなっているのか」。業界の事情通も、常識に挑戦するかのような相場展開に目を丸くする。舞台裏を追ってみると、浮かび上がってきたのはCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)の世界。脱炭素に向けた新たな模索が、思わぬ形でスクラップの国際流通市場に波紋を広げた。そんな構図が、おぼろげながらもみえてきた。
「大手メーカー2社の足元の買取価格は、1キロ302円、同305円。18日スタートの来週からはそれぞれ307円、310円水準になるのかとみている」。需給ひっ迫感を映して製缶・合金メーカーが競うように足元の買取価格を上げているという。
1キロ302.30~305.30円――。1月渡しのアルミUBCの自治体入札結果にも300円超えの高値がずらり並ぶ。「10-12月渡しは260‐270円水準だった」ので、30‐40円幅で底上げされた計算になる。
関連記事:アルミUBC自治体入札2024#22 横浜市1月渡しは300円台の落札
例年、2月下旬から5月にかけて、夏場の需要期を前に飲料缶の作り込みが行われるので、原料のUBCもこれに合わせて、値上がりするのが常識的な相場パターンだが、今年は完全にそこから外れた異形の展開になっている。
問屋スポット買値を20年の軸でみても15日現在、高値290円で推移しており、この時期としては異例だ
高値警戒感も出て在庫圧縮に動いた国内業者もいるが、輸出業者も加わって引き続き強い買いが入っており、「品薄感から余計に、足元で相場上昇に弾みがついている」(同)状況だ。「さすがにここまで上げてくると上値余地は限られるだろう。ピークかな」といった声も出始めているが、未踏の領域に足を踏み入れながら、なお先高観が完全に消えたわけではない。
COP28――。何が起こっているのか、それを探ってみると、気候変動対策を決める国連の国際会議に行き着いた。現在アゼルバイジャンのバクーでCOP29が開催中(11月11日~22日)だが、それはおよそ1年前、UAEのアブダビで開催された前回のCOPの場だったという。
会期中の12月5日、COP28の場で、アルミニウム製造業者、リサイクラー、製鋼所、缶製造業者ら業界のリーダーたちは、2050年までに世界のアルミニウム飲料缶のリサイクル率をほぼ100%にするという目標を設定した。IAI(国際アルミニウム協会)の資料はそう記す。
現在、アルミニウム飲料缶の70%以上が新しい製品にリサイクルされているが、それでも、地球の気温上昇を1.5度未満に抑え、気候変動がもたらす最悪の事態回避へ貢献するには不十分だとして、緊急な取り組みの必要性が指摘された。
飲料缶の数は2020年の4,200億個から2030年までに6,300億個に増加すると予想されているが、2030年に世界中の缶をすべてリサイクルすると、年間6,000万トンの温室効果ガス排出量の削減につながると試算されているという。
その実現へ、掲げたのが飲料缶のリサイクル率を加速し、30年までに少なくとも80%、2050年までに100%近くという目標だった。国などにリサイクル目標の設定を求めるとともに、自らもリサイクル能力を拡大し、「CAN to CAN」のリサイクルを優先、最適化された合金設計とスクラップの精製を通じてリサイクル含有量の最大化に努めるなどとした。
脱炭素へのそんな取組が国際的にUBCの需給をタイトにし、価格を押し上げたとすれば皮肉というほかはないが、アルミスクラップ業界はいま、UBCの国際的なリサイクル基盤作りへ、生みの苦しみを経験しているのかもしれない。
第2次トランプ政権の誕生。そんな事態をますます複雑にする新たな材料が出てきた。アジアではいま隣の某メーカー韓国工場が、アルミ缶材3004の対米輸出拠点になっており、原料のUBCを巡る日韓ルートはその大動脈でもある。仮にトランプ政権で韓国産の3004材に高率関税(現行5%)が賦課されることになれば、「このルートが途絶えるリスクも否定できない。またそれに伴って原料ベースで見れば、日本の韓国向けUBC輸出は、滞る可能性もある」と市場関係者は語る。
「与えられた方程式が難しすぎて、正解を導き出せない」。様々なシミュレーションをしながら、そう話す市場関係者もいる。「リスクを避けるため、取引を控える気配も市場に漂い始めているのではないか」(問屋筋)。高値を追ってきた相場が見せ始めた微妙な変化の一つである。
年明けを見据えて、どう展開するのか、引き続き市場動向を追っていきたい。
(IRuniverse G・Mochizuki)
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