【年末企画・コバルト】下値模索の1年 LGは2割安で8年ぶり安値、供給過剰続く
2024年のコバルト市況は下落した。ベンチマークとなるLGコバルトは12月10日に仲値$11.05/LBを付けた。年初からは18.7%下げた。10月には$10.75まで下げ、2016年1月以来7年10か月ぶりの安値に落ち込んだ。構造的な供給過剰が解消されず、メーカーはコスト割れとの戦いを強いられた。
■硫酸コバルト過去最安値圏、EV失速の傷深く
コバルトの需給バランス予測
業界団体のコバルト協会(Cobalt Institute)が10月28日に発表した2024年7-9月期のコバルト市場リポートによると、2024年のコバルト需給は前年比2万4000トンの供給超過になる見通しだ。中国勢がコンゴ民主共和国(DRコンゴ)で大量増産を続ける一方で、電気自動車(EV)普及の失速やコバルトを使わないリン酸鉄リチウム(LFP)電池の普及などで需要面の当てが外れ、構造的な供給過剰が続く。
過去1年間のLGコバルト (Co99.3%)($/LB)価格の推移
需給バランスの回復には「2025年いっぱいは期待できない」(外資系商社の日本人担当者)と、先の見えなさを指摘する声が多い。下値が見えない中、LGコバルトは$40を超えていた2022年5月からは2年半でほぼ4分の1に値下がりした。
過去1年間の硫酸コバルト価格の推移(20.5%min China)(RMB/Mt)
EV需要を見込んで先行投資をしてきただけに、傷は特にEV向けで深い。電池材料向けの硫酸コバルトは11月21日から仲値RMB2万7000/mtで推移する。統計がさかのぼれる過去20年間の最安値に落ち込んだ。下げ止まる気配が見えず、悲壮感が漂う。
過去1年間のHGコバルト (Co99.8%)($/LB) 価格の推移
軍用を含めた航空機需要があるため比較的堅調とされたHGコバルトもさえなかった。特に6月以降はLGと歩調を合わせて滑り落ち、12月16日時点で$14.2/LBと年間では11.1%下げた。2020年8月以来4年4か月ぶりの安値圏にある。LGコバルトに比べれば下値は堅いが、HGコバルトはコバルト全体の需要の1割程度しか占めず、コバルト市況全体に及ぼす影響も乏しい。
過去1年間のLMEコバルト価格の推移($/ton)
国際価格のLMEコバルトもじり安。2024年は結局一度も$3万台を回復できなかった。$8万台を付けた2022年からは、やはり4分の1に下落した。
■CMOC増産、グレンコア減産
中国レアメタル採掘のCMOCが10月28日に発表した2024年1-9月期の決算資料によると、同期間の同社の主要製品の生産・販売状況のうち、コバルト生産量は前年同期の2.3倍の8万4722トンだった、一方、スイス資源大手グレンコアの1-9月期のコバルト生産量は前年同期に比べ18%減の2万6500トンだった。
両社は2023年、生産量の首位争いを演じた。しかし2024年は既に9月まででCMOCがグレンコアに対し4倍近い差をつけており、勝負にならない。むしろ、グレンコアはコバルト価格が下落する中で減産している。
CMOCは顧客に中国政府筋や車載電池大手などを抱え、生産を増やしても販売先には困らない。一方、他国のメーカーはコストに見合わなくなって事業縮小を余儀なくされている様子が浮かび上がる。
5月15日のブルームバーグ通信は、米国のホセ・フェルナンデス経済成長・エネルギー・環境担当次官が同通信のインタビューに対して「コバルトの場合、CMOCという会社が供給過剰を助長し、価格を抑えている」と話し、CMOCの行いによって現在展開されているのは「略奪的な価格設定のバリエーションだ」と語ったと伝えた。中国勢による市場の寡占化と価格引き下げに他国は危惧を抱いている。
関連記事: 米国 コバルト過剰の原因は中国CMOCと指摘 | MIRU
中国勢が意図的かどうかはともかく、CMOCは利益も出ており、販売先も確保済みでコバルト増産を止める理由はない。では需要はと見ると、現時点ではEVへの風当たりはなお強く、コバルトフリー電池の普及も拡大中だ。
低空飛行での膠着が続く中、「ともかく何かが起きなければ」(外資系商社の日本人担当者)という関係者の声は切実だ。すがる想いは2025年も続きそうだ。
(IR Universe Kure)
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