【年末企画・タングステン】中国査察に沸いた1年 25年は米中政争の具か
2024年のタングステン価格は山形の様相だった。年央に中国の環境査察に伴う中国価格の盛り上がりで上昇したが、下期にはそれも一巡。ただ、年初時点よりはやや高く、高止まりしている。足元では米中対立でタングステン貿易が利用されるとの見方が強まりつつあり、2025年は価格が乱高下する危険をはらむ。
■APT6%高、中国鉱石17%高
過去1年間のタングステンAPT価格の推移(EU Free market)($/MTU)
ベンチマークであるタングステンAPTの国際価格は11月21日に仲値$331.5/MTUを付けた。年間では6.1%の上昇で、6月6日-7月10日のおよそ1か月間は$347.5まで上げた。中国当局が6月初旬~中旬にかけて環境査察を実施。中国の鉱山の一部が操業を停止して中国国内のタングステン価格が急騰し、国際価格も影響を受けた。APTに同調しやすい酸化タングステンも、1年間で約6%値上がりした。
過去1年間の中国タングステン鉱石価格の推移(WO3 65%)(RMB/mt)
その中国の鉱石価格は、2024年は絶好調だった。5月25日-29日にRMB15万6500/mtまで上げて過去最高値を更新した。12月13日の仲値はRMB14万2000で、年間の上昇率は16.9%。鉱山の操業停止で供給が細るとの見方が広がった後、一部鉱山の再開遅れ観測などから査察終了後も供給不足懸念が続く。
中国国内価格の影響を受けやすいタングステンバー、タングステンカーバイト、フェロタングステンも、軒並み年間2ケタの上昇となった。
■需要は「雨」も供給不足懸念
2025年もタングステン価格は高止まりが予想される。ただ、需要は「米国曇り、日欧雨、中国?」(タングステンを扱う日系商社幹部)。タングステンの使途の約7割を占める自動車製造時などの超硬向けが戻らないため需要は鈍く、先の商社幹部は「需要だけ見ればAPTで$250くらいに値下がりしてもおかしくない」という。
それが高水準を維持しているのは、ひとえに供給側の問題だ。中国メディアの新浪財経などが11月13日に伝えたところによると、中国金融機関の中国国際金融(CICC)研究部門の非鉄金属チームは、世界のタングステンの供給不足が2027年まで続くとの予想を発表した。炭鉱開発が鈍く需要に追い付かないとみられるためで、中国国内ではタングステンはAPT価格も値上がりしている。
ただ、それは国際価格には波及しづらい。中国は環境問題などを背景に既に2000年代初頭からタングステンの輸出を制限しており、西側諸国はスクラップの利用など独自のサプライチェーン(供給網)を形成してきた経緯がある。中国は世界のタングステン鉱石生産量の9割近くを独占するが、サプライチェーンに分断があり、中国価格の影響を直接に受ける製品は限られている。
■2025年はいよいよ政争の具か
そんな複雑なタングステンは、2025年にはいよいよ米中対立の具になりそうな様相を帯びてきた。米通商代表部(USTR)は12月11日、タングステンバーなど一部の中国産タングステン製品への輸入関税について、2025年1月1日から25%に引き上げると発表した。
関連記事: 米国、中国産タングステンの一部に追加関税 太陽光発電用ウエハも、1月1日から | MIRU
米国の発表資料によると、関税引き上げを決定するにあたり、一部では75%まで引き上げるとの意見もあった。さすがにそれは見送られたが、米側にはタングステンの輸入を細らせることに一定の自信があるもようだ。今回の関税引き上げの対象となったのが、価格が中国国内価格に連動しやすいタングステンバーだったことも注目される。
もちろん、中国側も埋蔵量が多いタングステンの武器としての利用価値は見極めているだろう。2025年はいよいよ、タングステンが政争の具になりそうな気配だ。
(IR Universe Kure)
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