トランプEV後退、重要鉱物需要への影響は軽微か 世界の識者は冷静、中国需要が支え
米国でトランプ新政権が1月20日に発足した。同大統領は初日にバイデン前政権が後押しした電気自動車(EV)普及策の廃止を検討する大統領令に署名し、米国のEV促進には急ブレーキがかかった。しかし、世界の識者の間ではEV材料としての重要鉱物需要への影響は軽微との冷静な見方が多い。
■リオCEO、ダボス会議でリチウムに強気発言
(出所:世界経済フォーラムHP)
「リチウム需要は今後15年間で5倍に増加すると見込まれる」―1月20日からスイスのダボスで開かれている世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、英豪資源大手リオ・ティントのヤコブ・シュタウスホルム最高経営責任者(CEO)はこう述べたと伝わった。世界経済フォーラムのパネルディスカッション資料でも、同氏はEVについて国際的なサプライチェーン(供給網)の複雑さを指摘。米国の及び腰による需要減観測にもかかわらず、鉱物需要への強気姿勢を示した。
プレスリリース:The future of the EV supply chain amid US-China tensions | World Economic Forum
■世界のEV販売、6割が中国 足元も伸び続く
EV材料の堅調期待はほかでも聞かれる。ロイター通信の1月21日報道によると、オーストラリアの投資銀行のアナリストや、豪資源ライオンタウン・リソーシズ(Liontown resources)の経営陣も同日までに、「米国の政策変動は短期的に米国のEV需要に影響するが、中長期に世界的にEVが普及していく流れに変わりはない」との見解を示した。
理由の1つに、中国需要の強さがある。英調査会社のローモーションが1月17日に発表した2024年の世界のEV販売台数は前年比25%増の1710万台で、このうち中国が1100万台と6割超を占めた。中国のEV販売台数の伸びは40%増で、世界全体を大きく上回っている。対して、北米は9%増の130万台と全体の8%を占めるにすぎない。
2024年の世界のEV販売台数の推移
(出所:ローモーションHP)
プレスリリース:Over 17 million EVs sold in 2024 - Record Year - Rho Motion
中国のEV販売台数は2024年12月単月では前年同月比36%増の130万台超と単月での過去最高記録を更新し、年間を通じて伸びが加速した。もともと少ない米国でのEV販売が補助金撤回により鈍っても、中国の伸びがけん引し、大勢への影響は限られるとの見方につながっている。
関連記事: 中国の自動車生産販売は16年連続で世界一をキープしており、2025価格競争は極めて激しいかもしれない | MIRU
■EV以外の電子機器にも勝機
EV以外の電子機器への重要鉱物需要が増えるとの観測もある。ロイター通信によると、廃電池リサイクルの米サーバ ソリューションズ(Cirba Solution)トップは、EVだけでなく無数の電子機器の需要により、米国の重要鉱物の需要が2030年までに急増すると予想した。
トランプ氏は1月20日の就任演説で「グリーン・ニューディールを終わらせ、EV義務付けを撤回する」と述べた。バイデン氏が2021年に署名した「30年までに新車販売の半分をEVにする」との大統領令を撤回し、新たな大統領令には「他の技術よりEVを優遇する不当な補助金や政府主導の市場のゆがみの撤廃を検討する」と明記。充電ステーションへの国の補助金停止も盛り込んだ。
トランプ氏が同時に、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からの離脱の大統領令にも署名したのは周知のとおりだ。気候変動や脱炭素に後ろ向きな姿勢は人々の不安をあおるが、影響については冷静に見極める必要があるだろう。
(IR Universe Kure)
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