リサイクルタウンの中核担うスーパーカーテンダー九州―タウ・宮本社長に聞く

宮本社長(左)と赤間室長
産業廃棄物となり得る損害車を国内で買い取り、独自に構築したインターネットシステムを通じて世界126ヵ国以上へ販売するタウ。同社は自動車の循環利用や適正リサイクルの促進を目指した「リサイクルタウン構想」を推進しており、その一環として2024年1月に自動車解体工場を併設した複合施設「スーパーカーテンダー九州」(佐賀県みやき町)を開設。自動車業界の永続的で明るい未来と社会の実現に注力してきた。開設から1年3カ月が経過した同施設の強みやリサイクルタウン構想の今後の展開について、宮本明岳社長と赤間裕樹リサイクルタウン推進室長に聞いた。なお、赤間室長は6月25日に開催予定の「自動車リサイクルサミットⅣ in 東京」に登壇予定。
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循環型社会や災害支援への対応
―そもそもスーパーカーテンダー九州を立ち上げた理由は
宮本社長:スーパーカーテンダー九州を立ち上げた理由の一つは当社が提唱するリサイクルタウン構想の推進にある。この構想は自治体と連携しながら、地域から発生する車両を含めたあらゆる不要品のリユースを促進し、地域の環境や経済への貢献を目指すもの。当社は24年10月に佐賀県みやき町と浜屋(埼玉県東松山市、小林一平代表)と協働し、「リサイクルタウン」を本格的に始動した。これに先立って開設した「スーパーカーテンダー九州」はこの取り組みの中核といえる。損害車の保管・輸出用ヤード、自動車解体工場、鈑金整備工場、中古車販売の機能を兼ね備えた同施設で、住民や地域事業者に対して効率的な処理モデルを提案していきたいと考えている。
宮本社長
なお、近年頻度が増え、規模も拡大しつつある自然災害への対応もリサイクルタウンの目的の一つ。災害時の被災車両の引取や保管、リユース、廃車といった一連の処理活動は我々のような事業者の重要な責務であるが、当社だけでは日本全国をカバーすることはできない。3月にも使用済み自動車のリサイクル事業を展開する大晃商事(秋田県潟上市、土門志吉社長)と「リサイクルタウン」パートナーシップを締結したが、同じ志を持つ仲間を今後も増やしていきたいと考えている。
もちろん、事業戦略としても「スーパーカーテンダー九州」は大きな役割を持つ。地方のディーラーも他業界同様に人手が不足であり、修理見積りも買取価格の提示もできる施設の存在はかなり魅力的だと考えた。
赤間室長:同施設は損害車の保管・輸出用ヤード、自動車解体工場、鈑金整備工場、中古車販売の機能を兼ね備えており、取引先の幅広いニーズに対応できる。それぞれの機能は元々、各事業者が個々で担っていたが、同施設ではワンストップ体制でそのすべてがまかなえる。結果的に中間マージンや物流コスト、労力を削減することができ、顧客にとっての大きなメリットとなる。
――2024年1月の「スーパーカーテンダー九州」開設から1年3カ月が経過したが、これまでの成果は
赤間室長:同施設における解体・リサイクル事業の取り扱いは現在、月間120台ほど。当初の目標は開設3年後に月間200~300台と設定したためもう一歩という状況ではあるが、おおむね計画通りに増加している。また修理事業も月間約40~50台と計画以上で推移している。
インタビューを受ける赤間室長(左)
スーパーカーテンダー事業に限定した話ではないが、当社の販売先は126ヵ国・約15万社にまで拡大した。モルディブやモンゴル、タンザニア、ケニアなど新興国に拠点を持つ事業者様も多く、当社の大きな強みといえる。損害車リユースで培った海外販売ネットワークをリサイクル事業における中古パーツ販売にも活かし、スーパーカーテンダーとして事業全体の価値を高めていきたい。
また、同施設はカーボンニュートラルの取り組みも重視している。「カー・トリアージ」に基づいた車両の解体や資源化によって車両1台あたり平均約0.6tのCO2を削減。SCT九州で実施した車両の解体や修復販売による取扱台数をCO2に換算すると、年間で約650tのCO2排出を抑制する成果をあげている。
―今後の展開は
宮本社長:スーパーカーテンダー事業としては、今後も全国の主要都市近郊で開設を検討している。九州でのトライを経て、スーパーカーテンダーが業界の構造改革の起点となり得ること、またリサイクルタウンや災害支援など地域との共創機会を創出するきっかけにもなり得ることに大きな手応えを得てきた。先ほども話した通り、九州以外の地域においても企業や自治体をパートナーとして巻き込むことで、社会や自然環境の課題を解決していきたい。現在の社会においては地下資源よりも地上にある資源の方が圧倒的に多いため、それらをきちんと循環させていかなければ地球はこれ以上もたないと思う。
スーパーカーテンダー九州 外観
赤間室長:スーパーカーテンダー九州としては、解体・リサイクル事業の取り扱い台数をさらに増やしていくために、中古パーツの国内外の販売先の開拓に力を入れていくほか、中古車業界や自動車リサイクル業界の課題に対してパートナー企業とも連携して長期的に取り組んでいきたい。さらにはリサイクルタウン構想による共創の幅を広げ、地域への貢献度を高めていきたい。パートナー企業や地域社会にもビジョンをきちんと説明し、長期的なお付き合いができる関係性を構築できるように努めていく。
―自動車リサイクル業界全体における喫緊の課題は何か
宮本社長:オークションの規制強化が挙げられる。オークションというビジネス自体を否定するわけではないが、違法な解体事業者が高値で落札し、優良な解体事業者が適正価格で仕入れできていないケースが増えている。これからの社会環境を考慮すれば、その後の処理・流通プロセスもしっかりとトレースできるような体制を構築すべきではないか。
当社は買取事業だけを展開しているわけではないので、利益を確保できているが、知り合いの解体業者は赤字続きで悲鳴をあげている。適切な解体設備を保有し、適切な解体を行っている事業者は、コスト面では違法業者に太刀打ちができない。正しいことをしている人たちが損をして、悪いことをしている人間が得をするような社会であってはいけない。外国人を差別する気持ちは一切ないが、社会問題にもなっている外国籍の違法な事業者の企業運営を取り締まることも必要となる。
地球規模の循環型社会へ、協同組合設立
宮本社長:2022年11月には当社を含む自動車関連企業5社が協同し、地球規模の循環型社会の実現を図る「エートス協同組合」を設立した。「エートス」とは、ギリシャ語で『ある社会集団に浸透している約束や規範』を表す言葉。この組合は被災地支援や自動車業界の人材不足に貢献することを目指しており、違法業者の取り締まりを目的としたものではないが、適正な取り引きや処理を通じて、あるべき姿に近づけたいと思っている。私が同組合の理事長を務めていることもあり、タウとしても組合の活動に注力していく方針だ。今年4月には埼玉県新座市と「災害時等における車両の移動等に関する協定」を締結するなど、現在も着実に活動の幅を広げている。
―最後に
赤間室長:世界的な潮流を見れば、自動車だけではなくてあらゆるもので資源が足りなくなっており、従来のやり方を変えなければいけない時期がきている。自社だけ、自国だけでは解決しない社会問題も多い。当社としても将来的にはフィリピンやマレーシアなどの海外市場に、日本の仕組みを導入したいと考えているほか、逆に海外で有効活用できていない資源を国内に持ち込んで適切なリサイクルを行うといった、世界規模の資源循環を創造していきたい。リサイクルタウン構想はまだ始動したばかり。同構想の理念に共感してくれる企業・団体様には、パートナーシップの締結を前向きにご検討いただきたい。
宮本社長(左)とインタビュアーを務めたIRuniverseの棚町代表
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【略歴】
宮本 明岳(株式会社タウ 代表取締役社長)
1998年、大阪支店入社。自動車事業部長などを経て2004年10月常務執行役営業本部長、2009年1月専務取締役営業本部長に就任。同年12月には代表取締役社長に就任し、2022年10月からエートス協同組合理事長を兼任。1967年1月生まれ。青森県むつ市出身。
赤間 裕樹(株式会社タウ リサイクルタウン推進室長)
2019年、経営企画室入社。営業調査部を兼任しながら、解体事業準備室にてスーパーカーテンダー九州の立ち上げに携わる。2023年11月よりリサイクルタウン準備室(現リサイクルタウン推進室)で室長を務め、佐賀県みやき町のリサイクルタウン始動に貢献。1982年6月生まれ。東京都青梅市出身。
(IRuniverse K.Kuribara)
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