ジュネーブで行われた国際バッテリーリサイクル会議ICBR21で、リン酸鉄リチウムイオン電池(以下LFP)に関するプレゼンテーションを行なったTES-AMMは、シンガポールを本拠地とし、欧州を初め世界に展開する大手リサイクル業者で、LFPリサイクルを手がける数少ないプレーヤーの一人だ。
今回のプレゼンテーションは、原料コストが低く、長寿命、有害性や火災の危険性も低いという多数の利点がある一方で、正極材原料のリサイクル価値が低いため、リサイクラーからは敬遠されるLFPベースの電池のセカンドライフとリサイクルがテーマだ。
コバルトを含むNMCなど、よりエネルギー密度の高い活物質に押され、一度は主流から外れると思われたLFPは、2020年の世界市場占有率20%から2021年には25%と、5%の上昇を示した。これは、VW・ Ford・Teslaなどの自動車メーカーが、EV用にLFPを採用したことによるもので、今後もこのトレンドが続くとの予想がある。また、この25%という数字から、生産スクラップも大量に発生すると見られており、ドイツ国内の例では、2024年までに15,600トンになると見積もられている。そのため、使用済み電池を待たずして、LFPリサイクルの必要なスクラップが発生すると見られ、LFP電池のリサイクル能力を引き上げる必要がある。だが、現状では、中国の例を除き、世界のLFPのリサイクル能力は極めて低い。
TES-AMMは、LFPサイクル能力を持たない欧州において、その処理技術開発プロジェクトに注力している。同社は、2019年に仏リサイクラーRecupylを買収し、LFP処理技術を含む湿式処理の特許技術を入手した。その後、シンガポールや欧州の施設へも投資を行い、現在LFPリサイクル技術のさらなる開発プロジェクトを進行させている。
MIRUでは、ICBR21会場にて、TES-AMMのイノベーション部長Farouk TEDJAR博士へ、同社のLFPリサイクルについてコメントを求めた。
LFPリサイクルにおけるコストと収益
Q:LFPスクラップは、有価で仕入れるのでしょうか?あるいは逆有償で?
A:スクラップは、回収システムにより回収される動力工具、電動自転車、EVなどから入ってきます。当社がリサイクルをサービスとして提供し、料金が支払われています。コバルトやニッケルを含まないアルカリ一次電池(マンガンと亜鉛ベース)と同様で、LFPは有価物質がないため、リサイクル処理は、電池の回収原料と処理費用における差額が負担される必要があります。
Q:LFPリサイクルの収益が上がるための条件とは?
A:最良の処理条件は、エネルギー消費、使用する化学物質のコストを最低限に押さえ、アウトプットの量を大幅に増やすことです。イノベーションが利益性を保証するようになると思います。
Q:LFPリサイクルの現状を教えてください。
A:当社は、LFP処理技術を含む特許技術を所有しており、2008年から稼働しており、最先端の技術を所有しています。また、ドイツでもプロジェクトを行なっています。今年の1月には、欧州委員会による2件のプロジェクト支援も決定しており、これはフランスとドイツの2箇所で行われます。もう一件は、シンガポールで、これは自社投資によるものです。当社はLPFリサイクルプロジェクトに尽力しているのです。
Q:処理技術の詳細については?
A:まだ詳細はお話しできませんが、現在所有している特許に加え、当社が現在行っているラボ規模の試運転では、新たな特許が生まれる可能性があります。今の時点で公表できることは、原料が循環型へと返還され、水をクローズドループシステムにする「ダブル・クローズドループ」を可能にする湿式処理の特許ということです。
Q:LFPリサイクルの収益が上がり、EPRスキームによるコスト負担が必要なくなるという可能性は?
A:LFPの物質構成では、それは難しい。もし、欧州の規制に従って「クリーン」な処理方法で、高い回収率を達成しようとするなら、コストを分担することは必須です。そうでなければ、低カーボンフットプリントによる「クリーン処理」サービスの提供を維持することは難しい。
重要なのは原料が循環すること
Q:御社としてはLFP からLFPというクローズドループをお考えでしょうか?
A:完全なクローズドループは考えていません。重要なのは、「製品が経済へ還元される」ことで、必ずしも元の姿に戻る必要はないと思います。例えば、PETボトルの再生材を使用し、車のシートに使用しています。必ずしも、ボトルではない。
コバルトの多くは、非鉄産業で回収されている。全ての製品を元に戻すことは、今日のイノベーションのお陰で可能ではあります。しかしながら、問題は、経済性という障壁です。
真のリサイクラーとは
Q:コストが高く、収益性が低いLFPのサイクルに注力する意図は?
A:私は欧州では古いリサイクラーの一人です。貴金属だけを追い求めるのは、真のリサイクラーではない。我々は、過去にほとんど利益にならないマンガンや亜鉛電池もリサイクルしてきました。リサイクラーは、選択するだけでなく、市場へ貢献する必要があります。我々は、市場に対し、全ての電池におけるソリューションを提供する責任があると思っています。単に高価値原料にだけ焦点を当てるのではなく、市場へ既存の技術全てを提供し、社会に対する責任のもとで処理事業を行う、これが真のリサイクラーです。
取材協力:Dr. Farouk TEDJAR, Director of Innovation, TES-AMM
(ICBR関連記事)
・国際バッテリーリサイクル会議ICBR2021 ジュネーブで開幕
・国際バッテリーリサイクル会議ICBR2021 No. 2 新電池規則の内容と行方について
(Y.SCHANZ)
********************************
SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
*ヨーロッパに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。
*********************************