ペルー文化省は6月8日、ナスカ地上絵付近での鉱業可能地域の拡大を認めた5月の決定について「無効にする」と発表した。この付近では金が採掘可能で、鉱業拡大が進めば地域経済の発展や国家収入の増加につながるが、世界遺産の保護を優先した。
ナスカの地上絵
(出所:Wikipedia)
■5月に保護区域を縮小も世界の考古学者が反発
プレスリリース:Comunicado - Noticias - Ministerio de Cultura - Plataforma del Estado Peruano
同国は2004年から地上絵付近での文化遺産保護地域について議論し、5月に保護地域をそれまでの約5000平方キロメートルから3200平方メートルに縮小すると決めた。当時は「学術的な研究の結果、本当に必要な保護区域を決めた」と、縮小の理由を述べていた。
しかし、国内外の考古学者などからの反発に遭い、決定を撤回。今後は行政府、地方政府、専門家団体、学術機関、ユネスコなどの国際機関、市民、研究者、および国内の代表的な文化人の代表者で構成されたチームが、管理区域について再び議論する。
■金価格上昇で違法採掘が急増
ペルー政府が撤回に踏み切った理由の1つは、保護地区縮小で新たに生まれた採掘可能地域で、違法採掘が激化する恐れがあることも背景にある。ペルーでは近年、金価格の上昇に伴い金の違法採掘と密輸が急増。金鉱の治安も悪化している。
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金価格はあまり悪い材料がなく、「中長期の上げ要因は依然多い」(住友商事グローバルリサーチの本間隆行経済部担当部長・チーフエコノミスト)と、今後も上昇が見込まれる。ペルーは本来ならば金価格上昇の恩恵を受ける国の1つで、鉱業の拡大も地元経済の発展と国家収入の増加にもつながるはずだ。ペルー政府には、文化的遺産を保持しつつ、上昇する金を味方につけて国民生活の発展につなげる度量が求められている。
過去1年間のNY金価格の推移($/toz)
(IR Universe Kure)