Molybdenum and silicon market outlook
<モリブデンとシリコンの市場の概観>
By. Dr. Nils Backeberg:Project Blueの共同設立者
この講演は、MoとSiの需要と供給の実績と今後の見通しを示したものです。Mo、Siとも、周知のとおり、鉄鋼の合金元素の需要と、それ以外の合金、単体での用途に分けられますが、それぞれについて新たな需要予測などを行っています。
大変興味深い内容ですが、筆者としては、質問したい項目が複数残りました。それについては後半で申します。なお、本文には発表者のコメントに加え、筆者の認識も加筆しております。
1.最も多様な合金元素としてのSiの需要見通し
SiはMnと並び、鋼の強度アップに最も用いられる合金成分であり、鉄鋼用のSi合金鉄は鋼の生産量増加に伴って、需要が増大する見込みです。鉄鋼生産は、今後仮に中国での過剰生産が是正されるとしても、インドでの増産が見込まれ、世界的な増産傾向は続くと思われ、Siの需要も継続して増加する見込みです。
最大生産国である中国の生産は2024年にピークを迎えたと思われます。他の生産国は、ブラジル、ノルウェー、米国、フランス等です。
以下は筆者の私見です。
厚板用に限定すれば、先進国の鉄鋼では、合金添加の代わりに熱処理で強度を確保するTMCP鋼が普及しつつあり、合金鉄原単位が伸び悩む可能性があると筆者は認識します。熱延鋼板に於いても、高[Si]鋼は鋼板表面に一種のガラス層ができるシマスケ(縞状スケール)の品質問題があります。ただそれでSi消費が減るとは思えませんが・・・。
逆に高[Si]化を目指すのは、特殊用途と言える電磁鋼板ですが、これは量的には少なく、Si系合金鉄の量に大きな影響を与えるほどではないと思われます。
もう一つの可能性を考えると、高炉=転炉から電炉にシフトすることで、合金鉄の種類が変化する可能性があります。その場合、Mnとの関係で考える必要があります。
転炉法では、酸素の吹き込みによる脱炭で[C]を随意に下げられるため、Mn添加には比較的安価なHCFeMn(ハイカーボンフェロマン)を使えますが、電炉で低炭鋼を作る場合は、比較的高価なLCFeMn(ローカーボンフェロマン)が必要になります。それなら代わりにSiMn(シリマン)を使って、[Si]と[Mn]を同時に添加する方が合理的になります。
高炉から電炉への転換は、日本だけでなく世界的傾向ですが、それによって使用される合金鉄が変化する可能性は高く、今後も注視する必要があります。
非鉄系の合金、あるいは非合金用途も増加傾向にあります。Mn,Cr,Si,Ni,Mo,V,Nb,Tiの諸金属元素の中では、Siが圧倒的に多く、主役的存在です。しかし絶対量としてみると、鉄鋼の合金成分用途に比べて、かなり少ない量になっています。
Si単体の用途では、半導体(集積回路用と太陽電池用)、Liイオンバッテリー用が考えられますが、太陽電池用についてはこれも中国での生産過剰問題があります。ポリシリコンの需要と供給は2021年以降に急増していますが、中国では2025年に一旦凹む見込みです。
メタルシリコン→シランガス(SiH4)→ポリシリコン(半導体とLiイオンバッテリー用)
今回の発表ではRECsillicon社が米国ワシントン州のモーゼスレーク工場でシランガスの製造が紹介されました。
以下は筆者による補足です。
実は同工場ではポリシリコンの生産を断念し、シランガスの製造に特化していますが、これは製造したポリシリコンの品質や歩留まりが、予定したレベルに届かなかったことが理由とされています。同社はモンタナ工場を既に閉鎖し、親会社のハンファグループではジョージア州のQcell工場へのポリシリコン供給が困難になり、米国内でのソーラーパネルの生産に支障がでています。
一方、韓国の主要なポリシリコンメーカーであったOCI社は、2020年以降の中国製品との過酷な価格競争によってポリシリコンの生産を中止しています。一方、英国の主要な電池の陽極(正極)メーカーであるNexeonとは、2023年にモノシランガス(SiH4)の供給契約を結んでおり、こちらもシランガス製造に特化する傾向です。
ソーラーパネルの供給過剰は中国だけでなく、全世界での問題であり、この分野でのポリシリコンの供給は曲がり角にきていると筆者は理解します。
また、筆者の個人的見解ですが、製鉄・鉄鋼用に比べれば量は少ないものの半導体用途のSiは圧倒的存在で、安定していると考えます。
シリコン半導体に代わりうる高性能半導体としてSiCが発明され、低損失で高電圧に耐えることからインバーター等のパワー半導体の主役として期待されています。
しかし、米国の代表的なSiC半導体メーカーであるウルフスピード社は経営破綻し、その影響で日本のルネサスやロームの経営も悪化しており、SiCの普及は容易ではないようです。無論、SiCにおいてもシリコンは必要であり、半導体用途のシリコンは順当に、需要・生産ともに増加していくと、筆者は考えます。
2.合金用途として裏付けられるモリブデン需要の堅調な増加傾向
Moの需要は主に合金用途であり、(SiやMnを除いた)他の合金元素、V、Nb、Tiに比べると、増加傾向は顕著で安定しています。用途的にみると、構造・機械用鋼、ステンレス鋼、他の合金鋼、非鉄合金用、化学用に分かれますが、各用途とも増加傾向にあるものの、ステンレス鋼での増加傾向が最も顕著です。これはSUS317系等の対孔食性や高耐食性が求められるステンレス鋼が増加していることを意味します。
最終用途では、石油掘削・精油、建設、発電、輸送機器、軍事防衛に分かれます。
国別のMoの生産量をみると、中国が圧倒的で、需要、生産量とも最大で、かつ増加傾向にあります。価格も上昇傾向でしたが、2023年以降、低下しています。
世界全体でみると、需給バランスが変化し、2025年以降再び在庫が拡大する可能性があります。
また銅鉱山から副産物として採れるMoやRh(レニウム)について考えます。Moはその2/3以上が銅鉱山の副産物として生産されます。またRhの場合、供給量の全てが、銅鉱山由来のMoから採取されるという特徴があり、Moの生産量に左右されます。チリ、米国、ペルーの銅鉱山から生産量をみると、Cu、Mo、Rhとも採掘量はほぼ安定していますが、Mo、Rhは漸減傾向です。Rhは耐熱性や耐摩耗性がありジェットエンジンの部材に用いられますが、航空機需要の低迷により、生産量も低下しましたが、2025年以降の回復が見込まれます。
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