18カ月にわたる政治と規制審査を経て、日本製鉄は2025年6月18日、米国鉄鋼の完全買収を完了したと発表し、取引総額は149億ドルに達した。この多国籍買収案件は世界の鉄鋼産業の構造を再構築しただけでなく、米国政府が「黄金株」メカニズムを通じてかつてない企業支配権を獲得したため、国家安全保障と外資参入規則に対する激しい討論を引き起こした。
今回の買収により、日本製鉄の粗鋼生産能力は8600万トンに跳躍し、日本本土、インド、米国をコア市場とする「鉄の三角」戦略の着地を加速させる。ペンシルベニア、インディアナなどの州での米国鉄鋼の5大生産拠点を掌握することで、日本製鉄はトランプ政権が輸入鉄鋼に課した50%の関税を回避しただけでなく、北米のハイエンド自動車市場に直接サービスを提供するルートを獲得した。
米鉄鋼にとって、この取引は「生死の転換」と言える。米国の工業化を支えてきた100年の企業は、近年需要の弱さで連続赤字を計上し、2025年第1四半期の純損失は2・3億ドルに達した。日本製鉄はハイエンド鋼材製造技術の注入と「100日改革計画」を策定することを約束しているが、労働組合組織の厳しい監督に直面しなければならない。米鉄鋼労働者連合(USW)は取引に反対しなかったものの、雇用保障条項の執行に引き続き注目すると強調した。
一、直接的影響:中国の対米鉄鋼輸出余地の一層の縮小
1、関税障壁による現地生産優位性の強化
トランプ政権が輸入鉄鋼に50%の高関税(英国除く)を課す中、中国の対米輸出は2018年250万トンから2024年約120万トンまで大幅に減少した。
日本製鉄は米国スチール買収で現地生産を実現し関税回避が必要だ。米国におけるインフラ・自動車用鋼材市場(年間需要1億トン超)を席巻する可能性がある。中国メーカーの対米参入障壁はさらに高まる。
2、中国鉄鋼輸出の新市場開拓必要性
2024年中国鋼材輸出は1.1億トン超だが対米輸出は90万トンのみ。今後は東南アジア・中東・アフリカ等への転換加速が不可避だが、日韓メーカーとの競争激化が予測される。
二、国際鉄鋼貿易ルールの厳格化と中国企業の海外展開難度上昇
1、「黄金株(ゴールデンシェア)」モデルの他国波及リスク
米政府は「黄金株」で経営判断への拒否権(工場閉鎖・解雇・技術移転等)を獲得。このモデルがEU・インド等で模倣されれば、中国企業の海外M&A・工場建設は国家安全保障審査+政府介入条項でさらに制約される。
2、「安全保障重要産業」化する鉄鋼業の世界的潮流
各国が鉄鋼を戦略産業と位置付ける中、中国企業の海外展開は政治的抵抗に直面。日系企業は巨額の譲歩で買収承認を得たが、これが外資参入コストを押し上げる先例となる。
三、世界産業構造の再編:日鉄の台頭が中国高級鋼材市場を圧迫
1、生産能力ランキングと戦略的配置の変化
合併後の日本製鉄の生産能力は8,600万トン(米国スチール分1,418万トン追加)で、世界3位の鞍山鋼鉄集団(5,955万トン)に迫る。「鉄鋼トライアングル」戦略(日本+インド+米国)で三大成長市場をカバーする。
2、高付加価値分野での技術競争激化
日本製鉄が水素還元製鉄・自動車高張力鋼技術を米国スチールに導入すれば、北米市場の高級製品競争力が向上する。中国企業はEV用鋼板・特殊鋼分野で更なる競争圧力に直面する。
(趙 嘉瑋)