9月12日10時、三菱マテリアルは同社加工事業にあるタングステン事業についてハイブリッド(会場・ウエブ・電話)で説明会を開催した。Q&Aを含め80分の予定が、同社の中経2030における加工事業の戦略だけで80分オーバーとなった。そのため、日本新金属の秋田工場の説明が10分程度となった。なお、説明に使われた資料はこちら。説明会の内容については、説明資料をご覧になりながら下記をお読みください。
<タングステン事業戦略説明会>
〇中経2030における加工事業の戦略
●中期経営戦略2030(中経2030)の概要(資料4ページ)
タングステン事業は加工事業カンパニーの中にあるので、まず、加工事業カンパニーについて説明する。
同社全体の中期経営戦略2030で、会社の目指す姿として、人と社会と地球のために、環境をデザインし、持続可能な社会を実現する。1番大きな生業は、銅製錬、銅の資源循環であるが、加工事業カンパニーに、タングステン。我々の作っている製品全てにおいて、原料となっており、タングステン自体が、レアメタいうこともあり、我々も、こちら上の方が動脈になるが、下の静脈部分の回収ということで、資源を、ぐるぐる回していくフローが書いてある。我々として、は強みを基に金属資源の循環を構築して、対象範囲、展開地域、規模の拡大によってバリューチェーン全体で成長を実現していきたいと考えている。
真ん中に色々と書いてあるが、左側は、金属需要カンパニー、右側が高機能製品カンパニーと加工事業カンパニー。加工事業カンパニーは製品の製造、あとはユーザーに最終的に使ってもらうものも含めて、最終製品を提供して、それを我々のチャネルを使って、回収も行って、再生していくっていうことに関して言うと、我々のマテリアル全体の事業の中でも、数少ない資源の循環のループが閉じている。我々だけでも回していけるというところが、加工事業カンパニーの特徴。
●中経2030 事業別戦略一覧(資料5ページ)
左側に、それぞれカンパニーが書いてあるが、①資源循環の拡大、②高機能素材・製品供給の強化が、それぞれのカンパニーに振られている。加工事業カンパニーは、資源循環の拡大については特にタングステンの超硬工具向けに加え、二次電池向け等に事業規模を拡大していく。あと、環境対応力を強化していく。製品の販売については、右側にあるように超硬工具を中心に素材とコーティングの強みを活かして製品をユーザーに届けるのが、基本戦略となっている。
●加工事業カンパニー(資料6ページ))
2024年度は、自動車向けの販売の成長が大きく想定を下回った。超硬工具、大きな市場であった中国が急速にEVにシフトしたことがあって、中国国内の需要のみならず、中国に部品を入れていた例えばドイツとか日本のサプライヤーも、かなり需要が冷え込み、全世界的に、超硬工具需要が冷え込んだ年であった。これは同社だけでなく、海外の競合各社も同じような傾向であったと思っている。
25年度は、自動車・航空機中心に、キーアカウントに注力した営業活動で推進して、さらに全世界的に講習会、ユーザーを囲い込むような活動を増やして、ユーザーに寄り添った活動を展開していくことで全体としては考えている。
それで財務数値については、記載しているが、戦略部分の施策で言えば、赤枠で囲った、やはりタングステン事業というのが非常に大きな位置付けを占めている。従来、H.C.Starckの買収前までは日本新金属しか持ってなかった。規模的にも、世界のランキングで言うと上位にあるわけではなくて、ちょうどミドルクラスのタングステンのサプライヤーだった。H.C.Starckを取得することによって、西側においては、タングステンの製錬及びリサイクルにおいては最大のサプライヤーになり、これをベースに事業を伸ばしていく。
〇タングステンビジネスについて
●タングステンを取り巻く環境(資料8ページ)
タングステンについては、製造業を支える不可欠な素材であり、資源循環強化が新たな成長機会を創出である。タングステン自体が、レアメタルで、戦略物資ということもあって、ダイヤモンドに次ぐ高度と、高い摩耗性を持っており、金属加工分野を中心に様々な用途で使われている。
超硬工具は、物量的な用途としては今まで一番大きかったが、今後は、電子機器部材、半導体、石油精製、軍需部品なんかにも、タングステンが使われている。
やっぱり硬くて比重が非常に重いことが、そういう分野に応用される要因になっている。今後も世界的な需要増が見込まれる物質であり、2034年までのCAGRは年率で2.1%と、今後も拡大していく材料だと考えている。
直近のタングステン市場の動向ということで3点記載している。まず、今、足元はタングステン価格の高騰している。タングステンの中間生成物であるAPT(パラタングステン酸アンモニウム)。パラタングスは、国際的なコモディティになっており、価格が急騰している。特にこの12か月の間に価格がドーンと上がった。これは、タングステン精鉱の80%を産出、占める中国が米中貿易摩擦を背景にして2月から輸出を規制している。4月以降、じりじり価格が上がってきたが、この12ヵ月、特に価格の上りが大きい。右側にタングステン鉱石(2024年)と書いているが、中国由来の鉱石が全体の82.3%と非常に高い比率を占めている。2位がベトナム、3位ロシアとなっているが、当然ロシアから買う人がいなければ、ロシアも外に売らない今状態帯になっている。その以下、EU(スペイン、イギリスなど)などがあるが、非常に小規模。とにかく、中国の存在感が圧倒的に高いのが特徴。
2番目に、リサイクル。精鉱生産が中国に偏っていることもあって、リサイクル率を向上させることで安定的な原料調達が、重要になってくる。リサイクル市場は拡大しており、スクラップの回収の整備も進んでおり、同社としても、その回収されたスクラップを、いかにリサイクルをしていくかというのが大きな鍵になってくる。横にタングステンのリサイクル率、世界全体で25%ということで、これ非常に低い。
要は回収されていないものがたくさんある。物理的に回収できないタングステンもあったりするが、大体のものは切削工具として使われているので、工場から産廃として出てくるものの一部になっているので、その辺りの回収を強化していく必要がある。
3番目、タングステン事業のリスク。同社としても、紛争地帯に該当しない、供給元からの調達を当然遵守しながら、グループを上げてバージン原料の確保、あとはタングステンスクラップのリサイクル、タングステンスラップを確保してリサイクルを強化していく。安定的な材料調達・材料供給を担保していきたい。
●タングステンのマテリアルフロー(資料9ページ)
見難い図になっているが、一番上にアップストリーム、ミドルストリーム、ダウンストリームと書いている。W鉱石、W精鉱、APT、WO3、WCと書いているが、これは原料部分になる。どうゆう順番で製品になるか、流れを示している。後ほど日本新金属で説明するが、どういう用途に繋がっているか、どうゆう回収ルートになっているのかを示している。左側の切削工具市場、耐摩・建設工具市場、電子材料・半導体市場、化学・LiB新市場に%が振ってあるが、これはその市場でのリサイクル率を示している。切削工具は目につきやすいため、回収するのは比較的簡単。回収しきれていないのが耐摩耗工具・建設工具。耐摩耗工具は鉄鋼の圧延するロールに、タングステンが大量に使われているが、非常に大きいものになるので、これをスクラップにするのが大変。工作工具は、トンネルを掘るときにビットというのがあるが、岩をたたいて掘り進める、その先にタングステンが使われており、掘り進めるうちに、ビットが落ちて岩と混じってしまい回収が困難になる。あまり大きく回収されないこともあって15%ぐらいしかない。電子材料や化学品なんかに使われているのは、非常に微量で回収に及んでいない。
タングステンの需要としては、実は下エリアが、非常に大きく。上2つを合わせたのと、ほぼ同等の比率を占めている。
ミドルストリームのAPTがあるが、これが高純度タングステンとかAMTにといった物質に生成されていが、これらの物質が電子材料とか化学品で使われるヘテロポリ酸、これらは最終製品として電子部品、半導体、LiB添加剤、触媒、防衛、医療、核融合炉などに使われる。この辺りが、タングステン需要として高い成長が見込まれるエリアであり、今後販売を振り分けていくのがタングステンの勝ち筋だと考えている。
上半分は、従来から使われている切削工具、超硬工具というのは、比較的戻ってきやすいが、下半分はなかなか回収が大変で、回収しても、処理の能率が悪いこともあり、今後の研究テーマで、製造プロセスをアップグレードしていく方向性だと考えている。
〇三菱マテリアルのタングステン事業戦略について
●タングステン事業の戦略(資料11ページ)
日本新金属とH.C. Starckのシナジーにより、タングステン資源循環のデファクトスタンダードを確立していく。リサイクル分野でも世界ナンバーワンのポジションを維持していく。
■共同研究開発と新規事業の拡大
共に長い歴史を持った会社。日本新金属は、豊中の方でも、一部研究開発部門も持っており、Starckについては、ドイツの本社工場の中に研究施設を持っている。同社も中央研究所の方で、リサイクルの研究を進めており、この3社で材料開発力の強化を合わせていく。日本新金族とStarckでは、同じタングステン事業とはいえ最終的に出てくる製品は少し違う。お互いの製品をクロスセルしていくことによって、販売の機会を増やしていく。あとは、共同開発製品において新たなユーザーに技術提案をしていく。
■効率化の推進
両社のサプライチェーンを最大限に活用して、タングステンの調達を強化していきたい。基本的にはリサイクル中心で回していくものの、やはり部分的には、バージン材の調達というのは、まだまだ不可欠というところもあるので、各会社で、それぞれ調達ルートを持っているので、それを最大活用していくということが大事かと思う。
生産技術から販売チャンネル、ITシステムいったシステムといった分野を今後は、両社間の仕組みをなるべく統合して、効率の良い事業活動をしていきたい。
■リサイクル推進
両社のリサイクル率80%の達成を目指す。あと、両社のリサイクル拠点の拡充。やはり今後は、米州あるいはアジアといった地域でタングステンの資源循環のデザイン強化していきたい。やっぱりアメリカやりたい。
将来的な投資の方向性は、そこは非常に大きい部分ではあるが、それぞれの地域で、まだまだ拡張の余地があるので、優先順位をうまく見極めながら投資をしていきたい。あとは、両社のリサイクル拠点を活用した回収に力を入れていかなくてはならないと考えている。また、リサイクル・産廃業者からスクラップを買っている部分は、少なからずある。それを工具も販売しているので、我々の販売チャネルで、うまく活用してスクラップを集めて、それをリサイクルに戻していうことを目指していきたい。
●デファクトスタンダード実現のための事業ポートフォリオ戦略(資料12ページ)
図表の丸の大きさは意味が無い。ポジショニングだけ示している。2025年のポジションが黄色い丸。今後2030年に向けて目指していくタイポジションを示している。縦軸が市場成長率、横軸が相対マーケットシェア。やはりですね、我々としては、タングステ化成品、タングステンのリサイクル、これを、どんどん右上の方に持っていきたい。一方、工具向けのタグステンについては、やはり切削工具の需要が、自動車の需要全体で若干頭打ちになってきているので、成長率はあまり大きく見込めないとみている。マーケットシェア維持していく。重工部品とか半導体向け、あと次世代材料向けは、やはりどんどん成長率も上がってきているので、マーケットシェアを増やしていきたい。キャストタングステンは、表面処理用、使われるもので、表面層のコーティングと違って金属材料の表面に吹付けをして、材料の性質を強化していくといったものも。この辺りで力をつけていく。
続きは、「三菱マテリアル:タングステン事業戦略説明会を開催(Starck、日本新金属)」へ
<参考>
図表、タングステンAPT価格推移(ドル/MTU)

出所:IRU作成
(IRuniverse 井上 康)