2025年9月17~19日、幕張メッセにて第24回SMART ENERGY WEEKが開催され、「BATTERY JAPAN:第19回[国際]二次電池展」や「FUSION POWER WORLD:核融合発電ワールド」など多彩な展示が行われた。本稿では「FUSION POWER WORLDにみる核融合発電の最前線 国際連携の動向と日本企業への期待(前編)」に続いて、ITER計画についての国内企業の最新動向について紹介する。
三菱重工のITER計画の取り組み

三菱重工株式会社はITER計画において、日本を代表する重工メーカーとして核融合研究の核心を支えている。特に、核融合炉の運転に不可欠な磁場を発生させる超電導コイルの製造を中心に担っており、世界最大規模となるトロイダル磁場コイルの一部の製作を手がけている。これらのコイルは直径十数メートルに達する巨大構造物であり、極めて高精度な加工と組み立てが求められるため、三菱重工の神戸造船所および高砂工場の高度な製造技術と品質管理能力が活かされて製作された。トロイダル磁場コイルは2023年8月に全数出荷され、輸送に時間を要したためフランス到着は2番目となったが、完成自体は日本が最初であったとのこと。
また、同社はダイバータの重要構成要素である「外側垂直ターゲット」の製作を受注している。ダイバータとは、核融合炉内で発生する高温プラズマからの熱や粒子を吸収・排出し、炉心の安全な運転を支える装置のことで、ITERで使用されるダイバータは一辺が数メートルに及ぶ大型構造物となる。三菱重工は高精度な部材の加工・組み立て技術を駆使し、国際規格に基づく厳格な品質管理の下で製作を進めている。プロトタイプは2024年3月に完成し、1回目の受注で6基、2回目で12基、現在は3回目の受注で20基の量産を行い、ITERに必要な50機のうち38機は三菱重工が制作を担当しているとのこと。
加えて、同社はプラズマ加熱装置や中性粒子ダクトライナ交換用遠隔装置などといった重要機器も製造し、日本国内で組み立てや検査を行った後、フランス・カダラッシュのITER建設現場へ輸送している。輸送や現地での据え付けも極めて精密な作業を要するため、現場での技術支援や国際パートナーとの調整も三菱重工が担っている。
日立製作所のITER計画の取り組み
株式会社日立製作所はITER計画において、日本を代表する重電・先端素材技術を有する企業として、中性粒子入射装置(NBI)に用いる超高電圧電源設備の開発を担っている。これはプラズマ加熱および電流駆動に不可欠な装置であり、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と共同で開発を進めている。現在は変圧器を受注し、設計作業を開始するとともに、実機設計における重要課題についてQSTと協議を進めている段階にある。製作には既存の工場ラインを応用することで、速やかな移行を実現したとのこと。同社はモックアップでの認証を得た世界で2番目のメーカーとなり、2022年にはイタリアへの納入を完了し、量産前段階における技術基盤を確立した。
さらに同社は、ダイバータや中性粒子ビーム注入装置など、炉内プラズマの制御や加熱・電流駆動に直結する重要機器の開発・製造も担っている。特に外側垂直ターゲットのプロトタイプ製造・認証を通じて、その精密加工力と高度な試験対応力を示した。これはプラズマ対向面に直接さらされる部位であり、最大で20MW/m²に及ぶ熱負荷を受ける。この極限環境に耐えるためには、タングステンモノブロック構造や銅合金製冷却管、さらに高耐熱ブレージングによる接合技術が不可欠となる。同社はQSTと連携し、2022年からプロトタイプの開発を開始し、2025年3月に実寸大モックアップを完成。続く2025年7月には、ITER機構が実施する厳格な高熱負荷試験に合格し、その技術力を国際的に証明した。
ITER計画は2040年代にかけて実証を進める長期計画であるが、内閣府は2025年に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定し、米中に先行されないよう、2030年代に核融合で得られた熱を蒸気として取り出し、発電機を稼働させる安定実証を目指す方針を明記した。担当者は「従来の想定より大幅に前倒しされた取り組みであり、国際競争が激化する中、日本企業は存在感を示すべく、日進月歩で開発・製作を加速させている」と述べている。
三菱重工や日立製作所といった日本を代表するメーカーは、ITER計画において世界に大きな影響を与えている。その高い技術力と精密な製造能力は、超電導コイルやダイバータといった核融合炉の核心機器の開発・製作において不可欠であり、国際的な信頼を獲得している。これにより、日本企業は単なる部品供給者にとどまらず、ITERプロジェクト全体の進行や技術基準の形成においても存在感を示している。今後も、こうした国際連携の中で培われた経験と技術は、核融合の商業化や次世代エネルギー産業の構築に向けた日本の競争力を支える基盤となるだろう。
(IRUNIVERSE Midori Fushimi)