妥協品市場が拓くサーキュラーエコノミーの未来
サーキュラーエコノミーを広めていくうえで、しばしば「再生材需要のすそ野を拡大すること」が重要な課題として語られます。再生材は、夾雑物の混入などの理由からどうしても品質的にバージン材に及ばない部分があり、使用先が限定されがちです。そのため、品質に多少の妥協があっても受け入れる市場をいかに育てるかが、大きなテーマとなっています。
東南アジアの市場が示すもの
東南アジアや南アジアを訪れたことのある方なら、現地市場の活気に驚かれた経験があるかもしれません。掘っ立て小屋のような店先に所狭しと並ぶ商品には、日本ではまず見かけないような品々が溢れています。たとえば、保温機能もタイマーもない「炊飯するだけの炊飯器」や、カラフルで柔らかいプラスチック椅子やテーブル。日本の目から見ると「誰が買うのだろう?」と思えるような製品が、新品として堂々と販売されているのです。
しかも、その多くは中国製です。驚くべきは、中国の製造業がこうした廉価品だけでなく、世界のトップブランドと肩を並べる高品質商品までも同時に提供しているという事実です。日本の大手家電メーカーであっても、生産拠点は中国に置かれる例が少なくありません。
広い着地ゾーンを持つ中国、狭い日本
この違いは「着地ゾーン」の広さとして説明できるのではないでしょうか。中国のモノづくりは、低品質から高品質まで幅広い製品群を市場に送り出すことで、あらゆる消費者ニーズに応えています。対して日本は、JISマークに代表されるように「すべて一級品であるべし」という思想に基づき、狭い着地ゾーンで勝負しているように見えます。
これは誇るべき品質文化であると同時に、サーキュラーエコノミーの拡大にとっては足かせにもなり得ます。なぜなら、再生材を活かす場面では「多少の妥協を受け入れる市場」が不可欠だからです。
リチウムイオンとリン酸鉄電池の対比
電気自動車のバッテリーを例にとっても、この構図は明らかです。日本がノーベル賞受賞者を輩出したリチウムイオン電池に注力してきたのに対し、中国は廉価版と見られていたリン酸鉄電池(LFP電池)への投資を怠りませんでした。その結果、LFP電池は今や世界のEV市場で確固たる地位を築き、リサイクル材の活用研究も進められています。
ここで注目したいのは、LFP電池が「一級品ではないが、十分に機能を果たすもの」として巨大市場を形成したことです。私はこの特性を持つ商品を「妥協品」と呼んでいます。LFP電池こそ、再生材の受け皿として妥協品市場が持つ潜在力を示す好例だと言えるでしょう。
日本における身近な事例
妥協品市場の可能性は、日本にも少しずつ芽生えています。
たとえば、100円ショップでは、金属製のハンガーや調理器具に再生アルミや再生スチールが取り入れられる試みが始まっています。これらは高級ブランド製品に比べれば耐久性や見た目で劣る部分があるかもしれませんが、消費者にとっては「安くて使える」ことが何よりの価値です。結果として、再生材の大量活用の場になり得るのです。
また、再生プラスチックを用いた建材や家具の分野でも進展があります。欧州ではすでに廃プラスチックを混ぜたアウトドア用ベンチや舗装材が一般化していますが、日本でも地方自治体が公園ベンチに再生プラスチックを採用する事例が広がっています。高級家具市場では受け入れられにくい素材も、公共空間という妥協品市場では確実な需要があるのです。
さらに、繊維業界では古着から再生されたポリエステルが、ファストファッション向けに広がりつつあります。高級ブランドが要求する品質基準は満たさなくても、大量に消費される普段着市場では十分に使える。ここにも妥協品市場の厚みが形成されつつあると言えるでしょう。
成功の鍵は「底堅い需要」
サーキュラーエコノミーを推進する上で鍵となるのは、「どれだけ分厚く底堅い妥協品市場を創り出せるか」にあります。高品質を追求する市場だけでは、再生材の居場所は限られてしまいます。しかし、廉価で実用的な商品に再生材を組み込むことで、持続的な需要が生まれるのです。
この点で、中国やインドのように「広い着地ゾーン」をもつ国々が先行しているのかもしれません。日本もその発想を取り入れることで、新たな成長の芽を見出すことができるでしょう。
言い出しっぺとして感じていることですが、この「妥協品」という言葉には、どこかネガティブな響きがあるかもしれません。しかし、サーキュラーエコノミーの視点から見れば、それはむしろ「再生材を受け入れる懐の深さ」を意味します。高品質だけにこだわるのではなく、幅広い品質を市場として認めていく。その柔軟さこそが、持続可能な経済の基盤を支えるのです。
日本が誇る一級品質の伝統と、世界が求める妥協品市場。その両者をどう結びつけるか。ここにこそ、次世代のビジネスチャンスが広がっているのではないでしょうか。
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西田 純(循環経済ビジネスコンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、コンサルタントとして独立。SDGsやサーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。武蔵野大学環境大学院非常勤講師。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会幹事、循環経済協会会員