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東京科学大学 仲井教授、疲労特性に優れる生体用β型チタン合金の開発について語る

2025/10/15 16:49 FREE
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日本チタン学会・日本チタン協会産学連携委員会共同主催行事として第5回日本チタン学会 講演大会(2025年度)が、2025年10月9日(木)9:00~10日(金)12:05迄、新潟県上越市、直江津学びの交流館で開催された。

アイアールユニバースは、本学会に取材枠として参加させていただいた。

二日目10日の行われた基調講演を紹介する。

本講演では、疲労特性に優れる生体用β型チタン合金の開発経緯や特徴を概説するとともに、高疲労強度及び高疲労限度比の発現について講演された。

 

初日の基調講演については、下記記事をご覧ください。

基調講演1:汎用元素を活用したV フリーチタン合金の開発 日本製鉄 國枝 知徳氏

日本製鉄(株)國枝氏、第5回チタン学会にて安価汎用元素であるFeを代替としたVフリーチタン合金について語る

 

 

 

10月10日、 09:00   

 基調講演2:疲労特性に優れる生体用β型チタン合金の開発 東京科学大学 仲井 正昭氏

 

座長 田村圭太郎氏(神戸製鋼所)、田原正樹准教授(東京科学大学)

10月10日  09:00    

基調講演2:疲労特性に優れる生体用β型チタン合金の開発 東京科学大学 仲井 正昭教授(本年4月に近畿大学から東京科学大学 金属生体材料科学分野に着任)

東北大学で新家先生の研究室で生体用β型Ti合金の研究を初め、20年となる。

本講演では、疲労特性に優れる生体用β型チタン合金の開発経緯や特徴を概説するとともに、高疲労強度及び高疲労限度比の発現に関して現在までに明らかとなったことを講演された。

 

医療における金属材料の用途は主に、循環器科(血管を広げるなど、塑性変形を利用)、整形外科(骨)及び歯科(歯)となる。

医療機器産業を取り巻く課題について(令和5年5月25日) 経済産業省 商務・サービスグループ 医療・福祉機器産業室が公開している医療機器の世界市場(2019年)、

国別売上高によれば、 アメリカが圧倒的で40 %強、日本はドイツ、中国とともに第2位グループに入っており、約7 %を占めている。

 

 

総売上高(2019年)4089憶ドルに占める国別売上高(出典:出展資料参照)

出典資料

001_06_00.pdf

 

 

主な医療機器の世界シェア(出典:同上)

医療機器は、大別すると、

診断機器分野と治療機器分野に分けられ、日本の強み、診断機器となる。

治療機器に関しては日本の競争力は弱い。

 

歯科の場合は国内のシェアが大きい。これは金合金が、保険適用されていることによる。

Ti合金が関係する人工関節などの整形用品については日本は弱く、日本国内の約80%ぐらいは輸入に頼っている。

 

 

人工関節等の整形用品には、高い力学的・信頼性が求められている。

しかし、実際には結構壊れるようだ。 脊椎を2本で支える固定器具の場合、約68%は壊れるとのこと。

これは、 治療の方法では解決できず、材料の強化が求められる。

多くは疲労破壊であるので、医療用金属には、疲労特性が非常に重要となる。

 

ここで問題となるのが<応力遮蔽の現象>である。

これは金属の方が骨より弾性率が高いため、荷重を支えてしまって、骨への刺激が低下する。その結果として骨が脆弱化する現象である。 

脊椎の固定器具については、医者は背骨と器具の一体化を目指すので、剛性の高いものを望む傾向にあり、その場合、隣接随間障害が発生してしまう。 低弾性率の合金を使用すると、その発生を削減することができる。

SUS316は、腐食による耐久性が低下するため、 耐食性を向上させるため当初は純チタンが適用された。

その後、高強度化⇒毒性・アレルギー性の排除(VをNbに置きかえ)⇒低弾性率化の要求により 1990年後半まで様々なβ型チタン合金が検討された。

低弾性率とは、原子と原子の間の結合に関与する物性値であり、平衡位置の逆数がヤング率となる。原子間が離れている方が、結合が弱められるとヤング率が小さくなる。

すなわち、低弾性率であることは、強度的には不利となり、 一般に溶体化処理を行い、その後時効処理を行う。ただし、時効処理により、弾性率が上昇してしまう。 このようなトレードオフの関係を如何に克服するかが実用化の課題となる。つまり、弾性率を上げずに強度を上げることが要求される。その上、 疲労強度を上昇させることが更に、難しいようである。

このような状況下で、仲井教授は、

生体用β型チタン合金の脊椎固定器具への応用を検討する中で、必要とされる部分のみ高強度化する合金を考案された。

また、これまでに探索してこられた化学組成においてTi-Cr系合金は、一定の塑性変形量に対して最も大きな弾性率上昇率を示し、同金属の疲労特性を調査したところ溶体化状態のβ型チタン合金としては極めて高い疲労強度が得られることを明らかとした。この合金は、疲労強度が高いだけでなく、疲労限度比(疲労強度/引張強さ)が極めて高い値となることを見出した。

参考資料 β型Ti-Nb基合金の低ヤング率化の要因と医療応用研究の現状 仲井正昭 新家光雄

588.pdf

なお、生体用β型チタン合金の開発動向についての概説は下記が参考となります。(なお、本記事にあげている参考資料は、概要集の参考文献は英語のため、日本語で書かれたものを筆者が参考資料として選出ものである。)

参考資料 生体用β型チタン合金の開発 新家光雄

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最後に仲井教授は、低弾性率β型チタン合金の開発を進める中で、変形誘起ω相変態が生じるβ型チタン合金が極めて高い疲労限度比を示すことを見いだした。低弾性率β型チタン合金の高疲労限度比化の指針を得るため、この現象の起源について検討されている。

下記が背景及び目的を理解する上で参考となる。

KAKEN — 研究課題をさがす | 生体用低弾性率チタン合金の超高疲労限度比発現の普遍化 (KAKENHI-PROJECT-23K03595)

 

(IRUNIVERSE tetsukoFY)

 

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