中国は、米国やその同盟国との緊張を回避するため、南海航路を経由せずに欧州への輸出を可能にする代替鉄道ルートを構築しているようだ。中国の内陸都市、重慶は中国では3番目の人口を抱える大都市だが、今や「中央班列」の主要拠点となりつつあるようだ。
10月1日のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙は、重慶市が中国の貿易ネットワークにおける戦略的支点として急速に台頭しており、このモデルが今後も成功し続ければ、中国政府が中国西部で同様の投資を行うきっかけとなる可能性があると報じている。
中欧班列とは
トランス・ユーラシア・ロジスティクス、China Railway Express, 中国語では「中欧班列」と呼ばれ、中国とヨーロッパを結びユーラシア大陸を横断する貨物列車で、中国政府からは一帯一路の中核と位置付けられている。ドイツ鉄道とロシア鉄道および中国国家鉄路集団による合弁事業。
路線図としては、以下のように、ロシア経由の北ルート、モンゴル経由の中央ルート、カザフスタン経由の西ルート、ひいてはカスピ海横断の「中央回廊」ルートに大別され、中国各地と欧州25カ国 200以上の都市を結んでいる。

(出典: アゼルバイジャン、バクー研究所)
短い輸送時間
陸路での配送時間は従来の海路よりも10~20日短縮され、通関手続きも大幅に簡素化される。 2023年のASEAN高速鉄道開通により、ハノイと重慶間の輸送時間はわずか5日に短縮され、そこから2週間以内にヨーロッパへ商品が届くようになるようだ。
上図で示されているように、バクー研究所の運航日数の試算としては、海洋ルート(濃ブルー)の場合は45日から60日、北ルート(緑)の場合は15日から20日、中央回廊(赤)の場合は10日から15日という感じになっており、海路よりははるかに短い日数で運航されるという訳だ。
重慶-デュースブルク路線は、海上輸送よりも迅速で信頼性の高い輸送手段を提供する。鉄道貨物は通常2週間以内に到着し、海上輸送では30~40日かかる。このルートは、簡素化された通関手続きとコンテナの「ワンボックス」システムによって支えられており、貨物輸送を効率化している。
重慶市の持つ強み
重慶市は毎日、数百ものコンテナ貨物を扱っており、高速貨物列車を利用してベトナムやシンガポールなどの東南アジア諸国とドイツやポーランドなどの欧州を結んでいる。
戦略的な立地に加え、重慶は主要な生産拠点でもあり、世界のノートパソコンの約3分の1を生産している。また、電気自動車の主要生産拠点であり、中国車の4分の1の主要輸出拠点でもある。
地学的側面
一部の識者は、中国がこの都市を利用する動機は、物流面だけでなく地政学的側面もあると考えている。ドナルド・トランプ大統領率いる米国との貿易戦争は、スエズ運河やホルムズ海峡・マラッカ海峡といった西側諸国の影響下にある国際海上交通路に依存することの危険性を露呈した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、海上サプライチェーンの脆弱性を露呈させ、リスクをさらに悪化させた。
ウクライナ紛争の継続と、2023年には中国からの貨物の一部が差し押さえられる可能性により、ロシア経由の輸送はよりリスクが高くなっている。しかし、両国間の二国間貿易額は2024年に2400億ユーロに達しており、北京はロシアと海峡を迂回するため、カザフスタンとカスピ海を通る「中間回廊(Middle Corridor)」の開発を推進している。
しかしながら、北京は通関手続きの遅延、高コスト、インフラの未整備、そして財政の持続可能性といった多くの課題に直面しており、特に「一帯一路」構想における多くのルートは、輸出業者にとって利便性を高めるため、政府の補助金に頼ってきた。
成都―ゼロカーボン貨物列車運行
四川省の成都も中国の中では第7位の人口を占め、中央班列では大きな役割を持っている。今年の8月には武漢漢欧国際物流が、武漢市からの中欧班列として初のゼロカーボングリーン貨物列車を自動車部品や日用品などを積み、新疆ウイグル自治区アラシャンコウ(阿拉山口)市から国境を越え、ドイツ北部のハンブルクとデュイスブルクに至った。
日本からの接続
中欧班列は既に中国国内数十の出発駅から欧州に向けてのサービスがあるが、これを日本、韓国から接続して利用しようとする動きは今のところそう顕著ではない。但し、郵船ロジスティクス(株)を含む複数のフォワーダーがベトナムと中国を結ぶ中越班列を利用した欧州向け国際鉄道輸送サービスの提供しており、ASEANと欧州を安定的に結ぶクロスボーダー輸送サービスは今後ますます強化される兆しがある。
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。