2025年11月18日から20日にかけて、愛知県産業労働センター(ウインクあいち)にて「第66回電池討論会」が開催された。電池討論会は、電気化学会電池技術委員会が主催しており、講演会だけでなく企業・自治体・研究機関による展示も行われ、産学官の参加者が活発に交流する場として広く認知されている。
本稿では東京大学、広島大学、日本原子力研究開発機構、豊橋技術科学大学など26法人が参画する、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業((ARIM)について紹介する。
ARIMが牽引する先端材料開発
マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)は、2021年度まで実施されたナノテクノロジープラットフォーム事業を発展的に継承し、先端設備の共用、高度専門技術者による技術支援に加えて、リモート・自動化・ハイスループット型の新設備を導入した研究基盤である。装置利用によって創出されるマテリアルデータの利活用を目的に2021年に設立され、2023年度からはデータ教養プログラムを試験的に開始し、2025年より本格運用に移行する。また、ARIMは文部科学省の「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト(DxMT)」とも連携し、日本のマテリアル革新の加速に寄与している。
中核となる「マテリアルDXプラットフォーム」では、全国26大学・研究機関が登録する先端設備を共用でき、利用者の承諾を得た測定データは構造化されたうえで、世界初の仕組みとされるデータ共用システムを通じて蓄積・利活用が進められている。大学や公的研究機関では、オープンイノベーションの観点から、データ共有・利活用を積極的に進めているとのことだ。ARIMの設備利用は、産学官の研究開発を目的とした有償サービスとして提供しており、利用後には実験内容や考察を簡潔にまとめた利用報告書の提出が必要である。これにより、設備の高度化や運営の改善に役立てるとともに、産学官の研究活動を継続的に後押ししている。
展示担当者は、「産業発展には産官学連携が不可欠であり、オープンな場で知見やノウハウを共有しながら設備を活用する取り組みは今後の日本の競争力に直結する」と説語り、ARIMは問い合わせから利用相談、設備利用、料金支払い、利用報告書提出までを一連の手続きとして全国拠点で利用できる体制が整備されている。
現在、ARIMの中でも「エネルギー変換マテリアル領域」では、以下の4法人6拠点が連携してデータを収集している。得られたデータは東京大学が運営するマテリアルデータ基盤「ARIM-mdx」に集約・管理され、その後、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(N IMS)が運営する材料データ共有・公開プラットフォーム「RDE」へ転送・公開される仕組みにより、エネルギー変換材料のデータ駆動型研究開発を支援しており、電池産業、次世代IoT、省エネルギー・脱炭素社会の実現にも寄与している。
- 東京大学ハブ①(情報基盤)
- 東京大学ハブ②(構造解析)
- 東京大学ハブ③(微細加工)
- 広島大学スポーク(微細加工)
- 豊橋技術科学大学スポーク(微細加工)
- 日本原子力研究開発機構(JAEA)スポーク(構造解析)
ARIM活用の効果は顕著である。東京大学では2024年の利用研究課題数が521件、利用者数は約1,200人に達し、発表論文数は158件、特許出願・登録は40件を数える。利用者の約2割は企業であり、大企業から中小企業まで幅広いプレイヤーが研究成果の創出に関与している。
2025年12月12日には東京大学本郷キャンパスで「第4回 革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル領域シンポジウム」が開催され、各拠点の年間活動報告に加え、共用装置を活用した研究成果の発表が予定されている。ARIMは日本のマテリアル研究エコシステムを支える基盤として、研究効率と新産業創出の両面で存在感を高めている。
ARIMは単なる設備共用プラットフォームにとどまらず、データを核とした研究開発モデルへ日本の材料科学を転換させる基盤として大きな役割を果たしていると感じた。特に、大学主体のオープンイノベーション姿勢と、それに企業が参入しつつある流れは、国内の研究競争力向上に向けたポジティブな兆候である。近年は電池材料研究の高度化・複雑化が進むなか、ARIMが提供する設備群やデータ共用の仕組みは、電池産業の競争力強化にも直結する要素が多い。設備・データ・人材を結びつけるエコシステムが整いつつある現在、ARIMは日本の材料開発だけでなく、次世代電池産業の発展に向けても重要な推進役となり、産業界をさらに牽引していくだろう。
(IRuniverse Midori Fushimi)