ニッケル産業についての連載第5弾は技術革新、市場拡大及び設備の新設や閉鎖を見て行きます。網羅的なものではありませんが、過去数十年にわたる産業の‘大きな流れ’が見て取れます。
ニッケル産業は、過去 40 年の間に大きな変革を遂げてきました。生産技術の進歩、従来から知られた鉱床の開発、ESG 問題についての関心の高まりなどすべて業界に変化をもたらしました。多くの生産国において法規制、社会的圧力や基準の進化などにより環境対策は大幅に改善されました。
新たな資源発見
過去 40 年間に新たに発見されたニッケル資源は多くありません、しかしかなりの既知資源の開発が特にアジアにおいて行われました。硫化鉱においてはカナダのボイジーズベイがこの時期に発見され生産開始した最も注目すべき案件です。
ラテライト鉱床は地表に露出しているため発見が容易であり、広範に開発されてきました。豪州、ニューカレドニア、フィリピン、パプアニューギニア及びマダガスカルなどで多くの最近の技術的進歩以前から知られていた鉱床が最近開発されました。インドネシアのウェダベイは 1996 年にすでに発見されていましたが、最近開発された大規模ラテライトプロジェクトの一つです。
インドネシアの台頭が過去 20 年間のニッケル生産を特徴づける大きな要因となってきました。1990 年以来ニッケルの鉱山生産は年平均 4% の複利成長を遂げており、これは世界のGDP 成長を上回るものです。生産は増加していますが、長期的研究(註1)にあるように鉱石品位は低下がみられます、しかしカナダの硫化鉱品位は比較的安定を保っています。
資源量に関しては鉱種により事情が異なります。硫化鉱床については採掘が続いているにも拘わらず埋蔵量はほぼ安定しています、これは採掘中にも新たな鉱量を発見しているためと思われます。対照的にラテライト鉱床は多くの場合生産が進むにつれ減少しますが、生産開始時には鉱床についてより正確な情報が得られているという事情があります。

加工工程における進歩
全てが新しい加工プロセスは多くありませんが、重要な進展も見られます。その一つが 1990 年代後半から始まったニッケル・リモナイト鉱を対象にした高圧酸浸出(HPA L)の復活台頭で
す。1959 年にキューバで初めて使用された技術ですが、何十年も休眠状態にありました。21 世紀初頭あたりから豪州において HPAL プラントの建設ラッシュが起こりましたが長期的に成功したのは一つだけでした。その後、次世代の HPAL プラントはフィリピン、ニューカレドニア、マダガスカル、パプアニューギニア、トルコなどに建設され、さらに近年ではインドネシアにおいても導入・拡大が進み、この技術への信頼が着実に高まっています。
もう一つの重要な革新はヴァーレ(旧インコ)社の、ボイジーズベイ硫化精鉱に対応する塩化物補助酸圧力浸出法の開発でした。ニッケル精鉱の直接浸出法は 1950 年代まで遡りますが、ロングハーバー製錬所が 1970 年代から概念としては知られていた塩化物を使用し酸溶液中に硫化物を浸出させる初の商業生産を行いました。最大の変革的な転換は 2000 年代半ばのニッケル価格の急騰時に起こりました:ニッケル銑鉄(NPI, <15% Ni)など低品位の鉄ニッケル合金の出現です。NPI は当初中国において転用された高炉で輸入鉱石を使用して生産されましたがインドネシアにおいてロータリーキルン電気炉 (RKEF) の使用により生産は急速に拡大しました。ロータリーキルン電気炉は高品位サプロライトからフェロニッケル(FeNi, >15% Ni)を生
産するのに長年使用されてきましたが、中品位鉱石(1.6–2% Ni)を処理しステンレス鋼分野に適合する合金を生産するよう改造されました。
NPI の生産増によりステンレス鋼向けクラス1ニッケルの需要は減少しました。しかしながら電池グレード材料の需要増加に伴い NPI や FeNi の生産者のうち数社はニューカレドニアで最初に採用された硫黄添加によりニッケルマットに転換するようになりました。
近年では新たな中間製品である混合水酸化物沈殿物( M H P)が注目を浴びています。HPAL により生産されるMHP は特にアジアにおいて純ニッケル金属の精練よりコスト効率が高いことから、特にアジアにおいて電池材料の原料として好まれています。
ESGへの関心の高まり
過去 40 年の間に環境及び社会問題は規制強化と公衆の期待の後押しにより中心課題となってきました。大気及び水質汚染の抑制について特に環境規制法規の厳しい地域においては大規模投資が行われています。
二酸化硫黄を回収し硫酸に転換するのはこの副産物の市場にアクセスできるスメルターにとり一般的になりましたが、アクセスのないスメルターは閉鎖に追い込まれています。また、多くの地域で水処理や鉱山跡地の修復も改善が進んでいます。
ニッケル協会は、過去20年間にわたり、ライフサイクルアセスメント(LCA)の開発を通じて、ESGパフォーマンスの向上に重要な役割を果たしてきました。これらの分析は、生産者が環境上の「ホットスポット」やデータの欠落を特定し、継続的な改善を支援するのに役立ちます。

将来を見据えて
陸上の資源としては硫化鉱及びラテライト鉱ともに世界の需要を十分満たす量が存在します。新たな硫化鉱の発見は可能性はありますが多くは地下に埋もれており発見が困難です。今日ではAIや機械学習を利用して探鉱能力を高めています。
マンガンノジュールや熱水性地殻などの海洋資源も将来性はありますが、合意された国際的な規制枠組みがなく、開発は制限されています。
生産工程は今後も銅精練における先進技術など他産業の確立された技術を導入する事により進化を続けるでしょう。硫化精鉱の加圧酸化浸出も現在は一機のみですが設置が増加する可能性もあります。ラテライト鉱のヒープリーチングは引き続き注目を集めており、最近ブラジルでは小規模の商業生産が開始され、数年後には本格生産に移行する見込みです。
他の革新的技術―例えば低温浸出のための微粉砕、HPAL 浸出液からの直接溶媒抽出、直流電流によるサプロライト製錬などーは今のところ商業的に成功していません。しかしながら経済性の改善と ESG 成果を追求する流れから革新の動きは止まりません。
ニッケル生産は世界のステンレス鋼、合金及び電池からのリサイクルストックが増加するにも拘わらず成長し続けるとみられます。ニッケル含有製品の長寿命のため完全な循環型サプライチェ ーンの実現は数十年先になるでしょう。しかしながら古い鉱山の堆積廃棄物からバイオリーチングなどの技術を使いニッケルを回収することへの関心は供給に占める割合は低いにも拘わらず高まっています。
鉱山業全般にわたる脱炭素に向けた努力はニッケル操業についても影響を与えています。再生可能エネルギーや電動化機器は可能な限り採用されています。しかしながら多くの製錬所-特 にオフグリッド(自家発電)で石炭発電をしている場合―は低炭素エネルギーへの転換には多くの障壁があります。水力発電および原子力は長期的な資本集約型の選択肢であり場合によっては実現可能となるでしょう。
ラテライト製錬所は炭素系燃料や薬剤に大きく依存しており、特に脱炭素化には多くの課題があります。ラテライト鉱の処理が行われている地域ではグリーン水素が近々インパクトを与えることはないでしょう。
排出に関しては公害削減のため硫黄の回収に投資をする硫化鉱操業者が増えており、より高い ESG スタンダードを目指す動きは続いています。
ニッケル協会とは
https://nickelinstitute.org/jp/
ニッケル協会は、全世界の一次ニッケル生産者から成る世界的な団体で、会員全てを合わせれば中国を除く世界の年間ニッケル生産量のおよそ85%を占めます。協会の使命は適切な用途でのニッケルの利用を促進、及び支援することです。ニッケル協会はステンレス鋼など現行及び新規のニッケル用途の市場を成長・支援を行うと共に、公共政策と規制の基本として、健全な科学、リスク管理、社会経済的便益を促進しています。ニッケル協会の科学部門であるNiPERA Inc.を通じて、人の健康と環境に関係する最先端の科学研究も実施しています。ニッケル協会はニッケル及びニッケル含有材料に関する情報を集約する拠点であり、オフィスをアジア、欧州、北米に設置しています。
