原材料供給の逼迫を背景に、希土類(レアアース)市場が急騰している。代表的な指標である酸化プラセオジム・ネオジム(PrNd酸化物)の価格がついにトン当たり80万元の大台を突破した。この動きは単なる一時的な需給の歪みではなく、産業構造の深い変化と、EVやヒューマノイドロボットといった新興分野からの強力な需要増が共鳴した結果と言える。
1. 市場の異変:現物価格の急騰と株価の連動
上海有色網(SMM)が2月9日に発表したデータによると、酸化プラセオジム・ネオジムの平均価格は前日比6%以上急騰し、80万5,000元/トンに達した。さらに、プラセオジム・ネオジム金属(PrNd金属)も98万元/トンと、100万元の大台に迫る勢いで市場予想を大幅に上回る高値を更新している。
例年、旧正月(春節)前は取引が閑散とする傾向にあるが、今年は様相が異なる。大手磁石メーカーによる積極的な在庫積み増しが確認され、市場の先高観を裏付けている。この「現物市場」の熱気は「資本市場」にも波及し、盛和資源がストップ高を記録したほか、中国希土類、包鋼股份、北方希土類といった主要関連株も軒並み上昇。「現物と株価の共鳴」という強力な強気相場を形成している。
主要企業の業績予想もこのトレンドを後押しする。
- 盛和資源: 2025年純利益予想は前年比 281.28%~339.20%増
- 北方希土類: 同 116.67%~134.60%増
正海磁材、金力永磁: 堅調な業績推移
2. 供給側:政策による「硬直的制約」と構造的不足
今回の価格急騰の直接的な引き金となったのは、ある分離工場の年明け後の生産停止情報だが、より根本的な要因は供給構造の「硬直性」にある。
中国は「希土類管理条例(2022年施行)」に基づき、採掘から精錬分離に至るまで厳格な生産割当(クオータ)管理を行っている。2025年第1四半期の管理指標の増加率は限定的で、急増する需要に追いついていない。
さらに、環境基準の厳格化や資源税改革によるコスト増、国際物流費の高騰が重なり、供給サイドは価格弾力性を失っている。
海外(中国外)の供給能力も依然として脆弱だ。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、2030年時点でも中国は世界の精錬分離能力の85%以上を占めるとされ、短期間での代替供給源の確保は困難な状況が続く。
3. 需要側:EVと「ヒューマノイドロボット」が新たなエンジン
供給制約が導火線なら、需要の構造的拡大は価格上昇の「加速装置」だ。
- 新エネルギー車(NEV): NEV1台あたり約2~3kgの高性能希土類磁石が必要とされる。2025年の世界販売台数が2,000万台を突破すれば、それだけで数万トンの新規需要が生まれる。
- ヒューマノイドロボット(人型ロボット):
- その他: 風力発電、省エネインバーターエアコン、低空経済(ドローン・空飛ぶクルマ)など、脱炭素・省エネトレンドが需要の底上げを支えている。
新たな巨大市場として注目される分野だ。中信建投証券によると、ロボット1台あたりの磁石使用量はNEVと同等の2~3kgに達する。将来的に億台規模の市場となれば、需要構造を根底から覆すインパクトを持つ。実際、金力永磁はすでにロボット用ローターの小ロット納入を開始しており、実需のフェーズに入りつつある。
4. サプライチェーン:利益は「川上」と「高度加工」へ
価格高騰は産業チェーン内の利益配分を再編している。
- 上流(資源採掘): 最大の勝者。北方希土類や盛和資源など、採掘権と割当を持つ企業は、資源プレミアムと価格決定権を享受し、利益を急拡大させている。
- 中流(精錬分離): 二極化。環境対応を済ませた大手は恩恵を受けるが、中小工場はコスト増と環境規制の板挟みで淘汰の圧力に晒されている。
- 下流(磁石製造): 技術力が選別基準。金力永磁や正海磁材のようなハイエンドメーカーは、価格転嫁力と製品構成の最適化(量・価格ともに上昇)により利益を確保しているが、汎用品メーカーはコスト増に苦しむ可能性がある。
5. 国際情勢:解消されない「中国依存」のジレンマ
米欧は「重要鉱物」としての希土類の脱中国依存を急ぐが、道のりは険しい。
米国は1,200億ドル規模の備蓄計画を、EUは「重要原材料法」を掲げるものの、精錬分離技術の複雑さと環境負荷の高さが障壁となり、海外でのプロジェクト進行は遅々としている。
結果として、海外で採掘された鉱石さえも精錬のために中国へ送られる「資源は外、加工は内」という構造は崩れていない。中国は技術革新と産業統合でその支配力をさらに強固にしており、世界の希土類貿易フローは依然として中国を中心に回っている。
6. 将来展望と投資ロジック
展望として、希土類市場は「短期的にはボラティリティが高いが、長期的には上昇トレンド」を描くだろう。
- 供給: 割当管理と環境規制により、供給は引き続きタイトに推移。
- 需要: 2026年以降、需給ギャップはさらに拡大する可能性(CITIC証券予測)。
投資の視点では、以下の3つの領域が有望視される。
- 上流資源企業: 割当と資源を持つ「川上」の支配者。
- ハイエンド磁石企業: 技術障壁が高く、ロボットやEVなど成長分野に入り込める企業。
- リサイクル企業: 政策支援が厚く、持続可能性の観点から成長余地が大きい。
結論
酸化プラセオジム・ネオジムの80万元突破は、希土類市場が新たなステージに入ったことを告げるシグナルだ。これは単なる資材価格の高騰ではなく、エネルギー転換と産業の高度化(ロボティクス等)という世界的メガトレンドが、希少資源の価値を再定義しているプロセスである。
中国の供給支配が続くなか、世界は「安定調達」と「脱炭素」の両立という難題に直面している。企業にとっては、技術革新による省レアアース化やリサイクルの推進、そして代替材料の開発が、持続的成長の鍵となるだろう。
(趙 嘉瑋 編集MIRU)