わが国のセメント需要はこのところ下降傾向が続いている。90年度に8,629万トン(官需4,841万トン、民需3,788万トン)のピークを付けて以降、多少の増減はあるが、おおむね減少傾向となっている。24年度は3,266万トン(官需1,358万トン、民需1,908万トン)まで減少。25年度も人手不足などから工事が進まず3,040万トン(官需1,270万トン、民需1,770万トン)になるとの予想だ。続く26年度は3,000万トン(官需1,270万トン、民需1,730万トン)になると日本セメント協会は予想している。
図表1、セメント国内需要と輸出量の推移(万トン)

出所:日本セメント協会よりIRU作成
こうした中、セメントメーカーは装置産業であるため稼働率が命だ。なので、販売数量を維持するために価格を犠牲にしてきた歴史がある。「地下水」と言われるキックバックもあったほどだ(多く販売した業者に、販売促進費用としてお金を渡していた)。また、稼働率維持のためにセメント輸出に注力したこともあった。セメントで輸出するとコストがかかるため、半製品のクリンカーで輸出するなど努力したが、その効果はさほど上がらなかった。
価格競争による薄利多売は、不況産業となり、国の指導のもと特定産業構造改善臨時措置法(産構法:1983-1988年)や産業構造転換円滑化臨時措置法(円滑化法:1987-1991年頃)により、セメントメーカーのグループ化と生産能力の集約が行われた。セメント生産能力は80年度を100とした場合、25年度は43.1%の水準まで削減された。また、国の指導が入っているころから、収益を維持するために資源リサイクル事業が始まった。
円滑化法が終わるころセメント1トン当たりの廃棄物・副産物使用量は251キログラムだったが、22年度には一時485キログラムまで拡大。ただ、その使用量は470キログラム前後で伸び悩んでいる。これは、原料代替や燃料代替として使用してきたが、これ以上投入するとセメントの品質、JIS規格に適用できなくなってきているためだ。
図表2、セメント1トン当たりの廃棄物・副産物使用量(キログラム/トン)

出所:日本セメント協会よりIRU作成
なお、投入される廃棄物や副産物は時代と共に色々変わってきている。汚泥などは一時期かなり投入されたが、水分が多く含まれているため、熱エネルギーの高い燃料代替との兼ね合いが必要になったため。廃タイヤは初期のころ燃料代替としてセメント各社は好んで投入したが、処理しているうちに熱エネルギーが高すぎ、セメント生産設備であるロータリーキルン内の耐火物レンガの寿命を縮めることがわかり、その投入量は減少していった。00年頃話題になったBSE問題で牛由来の肉骨粉の処理として投入されたが、これは、意外にもセメントメーカーにとっては好都合だった。処理コストも高く、熱エネルギーも適度であったためだ。ちなみに、当時、牛の肉骨粉を最も多く処理していたのは現三菱マテリアルだった。ちなみに、木屑や廃タイヤなど初めて投入したのは官との結びつきが強かった日本セメント(現太平洋セメント:民に強かった小野田セメントと合併し国内最大手)。
図表3、産廃物・副産物投入割合(%)

出所:日本セメント協会よりIRU作成
ただ、最近のセメントメーカーは需要が低迷する中、カーボンニュートラルへの対応もあり、課題も多い。セメント国内需要はピーク時の半分以下で国土面積の小さい韓国並みの需要しかない中で、統廃合が進んだとはいえ、太平洋セメント、住友大阪セメント、UBE三菱セメントと大手3社となったが、欧州では15年にスイスのホルシムとフランスのラファージュが合併し世界最大のセメントメーカーが誕生(00年前半にアジアに進出していたラファージュの経営者と都内で会談する機会があった。その際、同社は鉄鋼業界で世界トップだった新日鉄のように、セメント業界で世界トップを目指すと言っていたことを思い出した)。また、欧米に強いドイツのハイデルベルク・マテリアルズ。北南米で高いシェアを持つメキシコのセメックスなどは、自国以外の広大な販売エリアを有しており、規模の利益を得ている。太平洋セメントもその名の通り環太平洋でのトップを目指し、いち早く中国に進出したが、現地メーカーに負け、未だその地位を得ていない。国内の大手は、国内中心であるため、内需低迷に加え、コスト削減も限界にきていることから、現在の体制のままでは収益維持が困難であり、もう一段の業界再編が必要であろう。
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⇒「セメント見掛消費量(26年1月):需要低迷いつまで続く?」
⇒「三菱マテリアル:UBE三菱セメントが25年度3Q決算説明会を開催」
<参考>
図表4、セメント官民別需要推移(万トン、%)

出所:日本セメント協会よりIRU作成
建築基礎素材としてセメント生産量と電炉鋼生産量の関連性があるのかどうか調べてみた。電炉鋼を採用したのは棒鋼がセメントの土木や建設ななどのプレキャスト(PC)製品や建築のRCなどセメントと一緒に使われることが多いため。
図表5、セメント生産量と電炉鋼生産量の前年同月比推移(%)

出所:日本セメント協会・生産動態統計よりIRU作成
セメントの季節性については以下の通りだが、一般的に年度末に当たる3月は官需要による盛り上がり、年後半の盛り上がりは民需が多いと言われている。
図表6、季節変動指数(%)

注意:18-24年度のデータより連環比率法により算出
出所:日本セメント協会よりIRU作成
(IRuniverse 井上 康)