3月12日、農業、カーボン、林産物、金属・鉱業、次世代エネルギー市場の総合コモディティの価格報告機関Fastmarketsが「2026年のアルミニウムスクラップ市場における貿易障壁への対応」についてのオンラインウェビナーを開催。本ウェビナーではアルミニウム・リサイクル市場の最新動向や、一次・二次アルミニウムおよびアルミスクラップの価格形成に重点を置いた発表がなされた。
前編では本ウェビナーで発表された欧州市場、東アジア市場・東南アジア市場について報告した。後編である本報ではインド市場、分析チームによる一次・二次アルミおよびスクラップ見通し、参加者による議論について報告する。
インド市場:輸入依存の拡大と将来の資源確保課題
インドのアルミスクラップ輸入量は年々増加しており、2025年の輸入量は過去最高水準に達した。国内のスクラップ供給は限られており、インドのスクラップ要求の約75〜80%が輸入で賄われている。その輸入量は約202万トン規模で、前年比16%増である。
インドの輸入量の推移は以下の通り。
- 2018年:約130万トン
- 2020年:コロナで減少
- 2021年:需要回復で約160万トン、前年比29%増
- 2022年:約175万トン
- 2023年:約189万トン
- 2025年:再び記録更新
二次アルミ生産能力は年200万~220万トン規模へ拡大しており、その背景はインドの自動車、建設向け需要、ADC12など合金需要増がある。2025年のインドへの主な供給国・供給地域は以下の通り。
- 米国:約43万トン
- 英国:約17万トン
- UAE:約21万トン(前年比22%増)
- サウジアラビア:約17万トン
中東はインドにとって重要なアルミスクラップ供給地であり、中でもUAE、サウジアラビア、レバノン、クウェート、イスラエルなどからの供給が大きい。そのため、イラン・イスラエル紛争の継続はホルムズ海峡経由輸送に直接リスクを与える。中東からの供給が滞れば、インドの買い手は欧州や米国からの代替調達を迫られ、結果として材料価格、運賃、保険料が大きく上昇する可能性がある。
インドでは急速な都市化、インフラ投資、再エネ・EV・送電網拡大を背景にアルミ需要が増加する見通しだ。同時に、一次材よりエネルギー負荷の低い二次材へのシフトが進み、二次アルミの比率は現在の25~30%から、2070年には50%へ上昇する見込みである。
この転換を支えるには、追加で1500万~1800万トン規模のスクラップ確保が必要になるという問題意識が示された。つまり、インドにとって最大の課題は、将来の二次アルミ生産拡大に必要な原料を輸入だけでなく国内循環からどう確保するかである。
Zorba、Tense、Twitch等の主要スクラップ価格は、過去数カ月で全般に上昇傾向にある。この背景には世界的な需給逼迫、欧州・米国の供給不足、中国や東南アジアの買い圧力がある。為替も影響しており、ユーロやポンド高局面では欧州売り手がドル建てを嫌い、ユーロ建て決済を要求する場面もあった。
米国、インド、東南アジアのZorba価格比較では昨年半ばまで比較的安定していたが、その後は地域差が拡大。拡大の要因は2026年1~2月に各地域とも強気で価格が推移し、直近では週当たり50~100ドル程度の上昇したためである。
分析チームの見通し:価格変動の拡大
分析チームからは、アルミ市場に対し短期的には依然強気との見方が示された。需要面では再エネなど新産業向けのアルミ需要は堅調だが、建設や自動車など伝統分野は弱含んでいる。それでも、現在は一次・二次とも現物市場がタイトであり、供給制約が価格を支えている。
中東はアルミ供給・原料供給・エネルギー供給の面で重要であり、紛争長期化シナリオでは、LMEアルミ価格、スクラップ価格地域プレミアムがさらに上昇する可能性があるとした。
2026年には36万トンのアルミニウム不足が予想されており、中東の緊張が長期化すれば、赤字や推定60万から80万トン拡大する可能性がある。分析チームからは今後6~12カ月は大きな価格変動を受け入れる必要があると強調された。Zorbaやクリーン・使用済み押出材などについても強気見通しが示されたが、市場はすでに非合理的な動きを見せ始めているとの警戒感もあった。
質疑応答
MRAIの代表からは、現在の中東情勢はインドのアルミリサイクル業界にとって単なる物流問題ではなく、人命・家族・コミュニティ・ビジネス全体に関わる不安要因であると述べられた。インドは中東との人的・経済的結びつきが非常に強く、在留インド人も多いため、紛争の影響は広範である。
この指摘に対し、欧州の輸出制限や中東の不安定化が重なるなかでインドが供給不足をどう埋めるかが論点となった。MRAI側は中国もかつて輸入依存が強かったが、時間をかけて国内回収・国内供給を育ててきた点を引き合いに、インドも今後10~15年で国内スクラップ循環を強化すべきとした。そのためには廃車政策、回収制度、実行力ある制度運用が必要である。ただし、インドでは消費基盤がまだ若く、製品ライフサイクルが長いため、国内発生スクラップの本格増加には時間がかかる。この議論では、政策発表だけでなく実行が最大の課題であるとの指摘があった。
国際連携の必要性も議論され、中東自身でもアルミ生産能力拡大に伴いスクラップ消費が増えており、将来的にインド向け輸出余力が縮小する可能性があると指摘された。これに対し、インドがUAEやオマーン、欧州などとパートナーシップを深め、資源・設備・循環システムを共同で構築することが重要との見解が示された。これに対して、例えば中東系大手がインド国内に拠点を設けることも有力な方向性が言及された。
最後に、インドがすでに世界でも高いスクラップ価格を支払っている中で、今後東南アジアや極東が同水準の価格競争に参加するかが問われた。これに対し、輸送費調整後でも東南アジア価格は競争力があり、とりわけADC12価格上昇や、ベトナム・インドネシアの能力増強、EV関連需要が強まれば、東南アジアも今後より高値でスクラップを確保しに来る可能性があると議論された。
今回のウェビナーでは、アルミスクラップがもはや単なる副産物ではなく、低炭素化・地政学・通商政策が交差する「戦略資源」になったという点が強調された。今後のアルミリサイクル市場は、価格だけでなく、炭素、政策、物流、回収制度、国際提携を一体で見なければ読めない市場になっていくだろう。
(IRuniverse Midori Fushimi)