4月3日、MIRU取材チームは明治大学生田キャンパスの電気磁気エネルギー材料研究室を訪問。同研究室を率いる小原専任准教授に、フェライト磁石をめぐる研究開発動向と市場の将来性について取材した。今回は前編としてレアアース依存脱却に向けて再評価が進むフェライト磁石の性能と、国内のフェライト磁石の研究・開発状況、次回の後編ではフェライト磁石の性能向上に向けた研究動向、日本の磁石産業の維持強化に向けた展望について報告する。
ネオジム磁石とレアアース依存低減に向け再評価進むフェライト磁石の特性
現在、一般に流通している永久磁石はフェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石に大別される。このうち、モーター用途で広く使用されているのはフェライト磁石とネオジム磁石であり、家電や自動車などで採用されている。
フェライト磁石は酸化鉄にストロンチウム(Sr)やバリウム(Ba)などを組み合わせたセラミック系永久磁石であり、低コストで資源制約が小さく、耐食性に優れ、磁気特性が安定していることから汎用性が高い。一方、残留磁束密度は約0.45T程度とネオジム磁石に比べると低く、高出力化や小型化には不利となるため家電用途のモーターなどで採用されることが多い。
ネオジム磁石は希土類であるネオジムを主成分とする永久磁石であり、残留磁束密度は1.2T程度とフェライト磁石の約3倍に達する。このため、ネオジム磁石は小型かつ高出力のモーター設計に適しており、特に自動車用途のモーターで採用されている。一方、レアアースであるネオジムを使用するため、資源供給や価格変動の影響を受けやすい。
このように、体積当たりの磁束密度で見るとネオジム磁石はフェライト磁石の約3倍であり、出力密度の観点では有利に見える。一方、磁石材料の密度はフェライト磁石が約5g/cc、ネオジム磁石が約7.7g/ccと、フェライト磁石の方が軽量である。このため重量制約の厳しいドローン向けモーターなどでは、フェライト磁石が優位性を持つ可能性がある。
また、ネオジム磁石は一般に温度の上昇とともに保磁力が著しく低下する。高温域において不可逆減磁が生じた場合、磁力は回復しない。これに対し、フェライト磁石は約180℃付近まで保磁力が向上する領域が存在し、高温環境での安定性に優れる。一方で温度の低下とともに保磁力が減少する特性を有しているため、−100℃付近では減磁しやすくなる特性も持つ。ネオジム磁石とフェライト磁石は、温度特性にそれぞれ一長一短があるものの、高温環境での使用や資源制約を考慮した用途においてはフェライト磁石の利点が生きる場面も存在する。
今後はロボットやドローン、各種電動化機器の拡大に伴い磁石需要の増加が見込まれており、これらの分野では軽量性や耐熱性が重要な要素となる。そのため、用途によってはフェライト磁石の適用余地が広がると考えられる。
ここ数年、フェライト磁石モーターは性能面ではネオジム磁石に及ばないものの、レアアースを使用せず安定した磁気特性を得られる点や汎用性の高さといった潜在的な優位性を有しており、再評価が進んでいる。2017年前後からは自動車用途において、レアアースを使用しないモーターの研究開発が始まり、2020年頃以降は資源安全保障への関心の高まりやネオジム磁石価格の上昇を背景にその開発が加速している。
このようなモーターに使用するネオジム磁石をフェライト磁石に置き換える開発動向について、小原専任准教授は「フェライト磁石による性能向上の研究が進められているものの、ネオジム磁石には到底及ばないため、置き換えに際しては大型化や出力低下といった一定の不都合を受け入れる必要がある」と指摘。また、性能と資源リスク低減のバランスをいかに取るかが今後の課題になるとしている。
国内のフェライト磁石の研究、開発状況
日本ではフェライト磁石に焦点を当てた研究開発拠点は多いとはいえず、大学では明治大学および京都大学が代表的な研究拠点となっている。企業ではTDK株式会社や株式会社プロテリアル(旧日立金属)が関連技術の開発を進めている。
大学側では磁化機構の解明や材料設計といった基礎研究が中心となり、企業は量産技術の確立や実用化に向けた開発を担う役割を担っている。このように、基礎研究と実用化開発を分担することでフェライト磁石の性能向上と実用化の両面から技術開発が進められており、例えば2025年度のNEDO先導研究プログラムでは明治大学、株式会社プロテリアル、同志社大学、京都大学が共同で新規高性能酸化物永久磁石材料の研究開発に採択されている。
明治大学電気磁気エネルギー材料研究室は、フェライト磁石の材料合成から焼結、着磁までを一貫して実施できる設備を有しており、フェライト磁石研究における国内有数の拠点となっている。レアアース依存低減とモーター高効率化の両立に向けた同研究室の取り組みは、今後のフェライト磁石市場の拡大を左右する重要な要素となるだろう。
世界的に見ると、フェライト磁石およびネオジム磁石の研究開発は日本と中国で盛んであり、電動化関連の材料開発において両国の存在感は大きい。しかし、これまで磁石分野で技術的優位を維持してきた日本に対し、近年は中国が急速に追い上げている。特にネオジム磁石では、中国企業が生産量の拡大に加えて新材料や製造プロセスの開発を進めており、価格競争力の面でも優位性を高めつつある。日本企業は高性能材料や品質面で依然として強みを持つものの、量産規模やコストの観点では競争が激化している。一方、フェライト磁石の研究開発については依然として日本が高い優位性を維持していると指摘されている。
フェライト磁石はネオジム磁石と比較して、原料となる酸化鉄の種類、粒径制御、粉砕条件、成形時の磁場印加、焼結温度など工程全体が磁気特性に大きく影響する。各工程のノウハウが最終性能を左右するため、高性能フェライトの製造には高度な経験と技術蓄積が必要となる。この点が日本の研究機関および企業が優位性を持つ要因の一つとなっている。
しかしながら、中国は大規模な人員投入と資本投下により試作と改良を高速で繰り返し、製品化を進める傾向がある。これに対し日本は高品質化と精密技術で優位を保ってきたものの、価格面では不利になりつつあると指摘される。日本が優位性を維持できなければ、自動車用途をはじめとするモーター製品の研究開発において遅れを取る可能性がある。
「明治大学フェライト磁石勉強会後編:国内の研究動向と産業強化の方向性」に続く
(IRuniverse Midori Fushimi)