第3回中国金属リサイクル春季会議2026(主催:中国有色金属工業協会(CNIA)の再生金属支部(CMRA))が、ベトナム・ハノイ市のJW Marriott Hotel Hanoiにて、2026年5月9日から12日までの4日間の日程で開幕した。本稿では、10日の午後に行われた「世界の金属リサイクル貿易の新たな構図(The New Landscape of Global Recycling Metals Trade and Investment Hotspots)」セッションで発表された3つの講演と、パネルディスカッションの内容について報告する。
◼︎Recycled Metals : International Trade Flow Changes & Regional Market Strategy(金属リサイクル市場の国際貿易変化と地域戦略):Metycle GmbH マネージングダイレクター、Rafael Suchan氏

Suchan氏は冒頭、世界の金属生産量のうち約14億トンは一次原料由来であり、その生産過程は世界のCO2排出量の10%以上を占めていると指摘。金属リサイクルの活用はCO2排出量を60~95%削減できるとされ、脱炭素化に向けた重要な手段として位置付けられている。
アルミニウムは1トン当たり約15MWhの電力・エネルギーが素材に内包されており、リサイクルによってそのエネルギー価値を再び産業内に戻すことができる。中国では一次アルミの生産能力が約4,500万トンで上限に達しており、今後も増加する需要を満たすためには再生アルミの活用拡大が不可欠だという。このため、中国では2027年までに再生アルミ生産量を約1,500万トンまで拡大する目標が掲げられている。
Suchan氏は最後に、金属スクラップを「二次金属原料」として一次原料を代替可能な資源と捉えており、同社ではグローバルで金属売買を行いながら自社設備で加工・選別を実施していると強調し、発表を締め括った。
◼︎Building Recycling Metals Logistics Networks and Analysis of Investment Opportunities(金属リサイクルの物流網構築と投資機会の分析):冠亜国際物流有限公司(Topasia Logistics Sdn. Bhd) 再生可能資源部門長 兼 インドネシア地域ゼネラルマネージャー、Yang Tao氏

Yang氏は冒頭、低炭素政策の推進や再生材使用比率の拡大、EVの急成長を背景に、金属リサイクルなどの需要が世界的に急増していると言及。これに伴い、金属リサイクル業界では安全かつ安定的な循環型回収体系の構築が急務になっており、物流ネットワークの整備が重要課題として挙げられている。
Yang氏はマレーシアを拠点に日本、韓国、欧州、米国から東南アジアへの再生金属輸送や、中国向け輸出入物流に長年携わってきた経験を紹介。その中で、ベトナムでは2016年から2025年にかけて再生銅・再生アルミの輸入量が約4倍に拡大していると言及。一方、輸出増加は限定的であり、同国が輸出拠点から内需型消費市場へ転換しつつあると分析した。
世界の金属リサイクルの流通構造については、欧米など先進国で原料の域内消費が進む一方、人手を必要とする加工工程は東南アジアへ移転する可能性が高い。日本、韓国、ベトナムなどのアジア地域が重要な加工・流通拠点になると予測される中、中国も従来の輸出主体から将来的には輸入・輸出双方を担う市場へ変化する可能性があるという。
こうした変化に対応するため、Yang氏は海外回収拠点や中継倉庫、港湾加工基地を組み合わせた多層的物流ネットワークの構築が必要だと強調。海運、陸運などを組み合わせた複合輸送や保税物流を活用した高含有原料の分割供給によって、輸送リスク低減と供給安定化を図る重要性を共有し、発表を締め括った。
◼︎The New Landscape of Global Recycling Metals Trade & Investment Hotspots A Middle East Perspective(世界の金属リサイクル貿易の新たな構図と投資注目地域 ― 中東の視点から):BMR(Bureau of Middle East Recycling:中東リサイクル局) 副会長、Muzammil Gadawala氏
Gadawala氏は冒頭、金属リサイクル産業は単なる補完的な産業ではなく世界の工業発展を支える基盤産業になりつつあると強調。統計によれば、世界全体で鉄鋼の約45%、銅の約40%、アルミの約33%がリサイクル由来となっているという。
近年、循環経済政策の強化、中国のスクラップ輸入政策変更、脱炭素化、電炉(EAF)拡大などが世界の金属リサイクル需要を押し上げている。特に、東南アジアではベトナム、タイ、マレーシア、インドなどが消費・加工拠点として成長しており、グローバルスクラップ市場の中心地として存在感を高めているという。
一方、中東は東西を結ぶ物流拠点として戦略的重要性が高まっている。UAEは自由貿易区域を活用した取引ハブとして機能しており、中国、インド、日本、ベトナムなどへ金属リサイクルを供給している。特にサウジアラビアでは「Vision 2030」を背景に建設・インフラ需要が急拡大しており、アルミや鉄スクラップ需要が増加している。また、UAEでもネットゼロ政策や循環経済推進策が進み、AIを活用した原料管理やグリーンアルミニウムなど、新たな低炭素型リサイクル産業への投資が加速している。
世界の金属リサイクル市場では各国の輸入規制変更、品質基準の厳格化、物流混乱、地政学リスクなど不確実性も高まっている。特にEUの炭素国境調整措置(CBAM)やインド・ベトナム・インドネシアの輸入制度変更は市場へ大きな影響を与える可能性があるという。
Gadawala氏は「世界は単に金属をリサイクルしているのではなく、産業構造そのものを再構築している」と強調し、政策、インフラ投資、市場需要が次世代の金属リサイクル産業を形成していくとの考えを示して発表を締め括った。
◼︎パネルディスカッション
本セッションの発表者が参加するパネルディスカッションでは、金属リサイクル原料の前処理技術の高度化や、東南アジア各国における輸出入制度、物流ネットワーク構築の課題について議論がなされた。近年、各国で原料の前処理や品質管理への関心が急速に高まっており、設備メーカーによる選別・加工ラインの高度化も進んでいる。こうした流れを受け、今後の金属リサイクル貿易では単純なスクラップ輸出ではなく、現地での選別・加工能力や品質保証体制を備えた企業が優位性を持つとの見方が示された。
また、金属リサイクル産業を支えるには原料の発生源、中間加工、最終需要地まで含めた産業全体の流れや、各国の輸出入制度を深く理解する必要があると指摘された。特に、東南アジアでは各国ごとに制度や産業成熟度が大きく異なり、金属リサイクルや電子スクラップ関連制度は依然発展途上にあるという。例えば、マレーシアでは許認可制度や検査システム整備が進められている一方、ライセンス取得や運用面では未整備な部分も残っている。インドネシアでは配額制が導入され、バタム島の経済特区を活用した事業展開が進む一方、運用面では課題も残る。フィリピンでは過去に輸入制限や法規制上の問題が発生したが、現在は港湾周辺で工業団地整備が進み、徐々に環境改善が進んでいると説明された。
さらに、タイについては大型工場建設や産業集積の条件は整いつつあるものの、政策運用の細部ではなお不透明感が残るとされた。ベトナムは従来型のスクラップ輸入だけでなく、溶解や製品化など下流工程への発展を志向しているという。また、ラオスやカンボジアでも電池や金属リサイクル関連の認可制度整備が始まりつつあり、新たな投資候補地として注目されていることが紹介された。
東南アジア市場では制度整備、環境対応、業界団体による政策提言、事業者側の自主規制を同時に進める必要があるとの意見も出された。そのうえで、金属リサイクル産業は単なる原料取引ではなく低炭素化と資源循環を支える産業へ変化しており、今後は物流、加工、通関、品質保証を一体化した地域型サプライチェーンを構築できるかが、企業競争力を左右するとの認識が共有された。
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今回のセッションでは他のセッション同様、金属リサイクル産業が単なるスクラップ取引から、脱炭素化と資源安全保障を支える「戦略産業」へと位置付けが変化していることが繰り返し強調された。その中で、中国の再生アルミ拡大政策や東南アジア各国における加工・物流機能の強化、中東のハブ化戦略などを通じて、世界の金属循環網が大きく再編されつつあることが浮き彫りになった。
印象的だったのは、UAEでAIを活用した原料管理やグリーンアルミニウムなど、低炭素型リサイクル産業への投資が進み始めている点だ。従来、中東は資源輸出国として語られることが多かったが、今後は再生資源の流通・加工・投資を担う新たなプレイヤーとして世界市場に影響力を持つ可能性があると感じた。
今後は東南アジア各国における制度整備の進展や、中東を含めた新たな物流・加工拠点形成の動向、さらにAI活用や高品質選別技術を取り込んだ次世代型リサイクルサプライチェーンの構築について注視したい。
(IRuniverse Midori Fushimi)