5月19日16時半、三菱マテリアルは中期経営戦略(26~28年度)進捗説明会を開催した。説明に使われた資料はこちら。説明は田中CEOが行った。


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〇基本方針と外部環境の認識
同社の基本方針は「資源循環ビジネスで未来を創る企業へ」。 現在の事業環境では、脱炭素や資源安全保障を背景とした域内循環ニーズの拡大、地政学リスクの高まり、重要鉱物の囲い込み、E-Scrap(電子機器廃棄物)発生量の増加、銅精鉱の低TC/RC(製錬受託手数料)の継続といった構造的な変化が進んでいる。これらの資源制約・環境規制が高まる中で、資源循環ビジネスへの転換は単なる環境対策ではなく、社会価値と企業価値を同時に高める重要な成長戦略として位置づけられている。
〇経営モデルの転換と26/3期の進捗
「量」から「質」への経営モデル転換を掲げ、資源循環ビジネスを中核とした事業構造への転換、収益性と資本効率を重視したポートフォリオの再構築、キャッシュ創出力と財務規律の向上による財務体質の強化を進めている。
26/3期は、計画策定にとどまらず実行を前倒しで進めた。具体的な進捗として、銅精鉱処理量の縮小と関連製錬設備の稼働停止決定、希望退職の実施といった構造改革を進めるとともに、投資規律(ROICやフリーキャッシュフローを軸とした判断)を組織に浸透させた。また、北米リサイクラーへの資本参加や欧州での二次原料製錬所建設計画の初期調査完了など、将来の成長に向けた布石を打った。25〜26年度を「変革する」期間として構造改革を加速させ、27〜28年度で効果を発現させ、29年度以降に資源循環ビジネスの収益貢献を本格化させるシナリオを描いている。
〇財務目標(KPI)とキャピタルアロケーション・株主還元
●財務目標(KPI)
28年度の目標として、ROIC 7.0%以上、ROE 8.0%以上(29年度以降は10.0%以上)を目指す。また、財務規律の維持として、ネットD/Eレシオ0.5倍以下、ネット有利子負債/EBITDA倍率3.5倍以下を目標。26年度は構造改革推進により一時的に減益を見込むものの、投下資本の圧縮等によりROICの改善は継続する計画。
●キャピタルアロケーション(26~28年度累計)
キャッシュイン約5,000億円に対し、マテリアル領域に重点的に配分。割合としては、成長投資に30%、維持更新投資に30%、株主還元・有利子負債返済等に40%を充てる方針。
●株主還元方針
構造改革期においても安定的な還元を実施するため、DOE(株主資本配当率)2.5%を目途とした方針に変更した。自己株式取得については、キャッシュフロー状況や財務規律を踏まえて機動的に検討。
〇事業別概況と今後の取り組み
●マテリアル領域(製錬・資源循環)
一次原料(天然鉱物)から二次原料(リサイクル原料)製錬への転換を進める。小名浜製錬所での銅精鉱処理を縮小し(27/3期末停止決定)、直島製錬所ではE-Scrap処理能力を約30%増強。米州では、北米のE-Scrapリサイクラー(Elemental USA E-Waste & ITAD社)へ資本参加し回収ネットワークを強化するとともに、ReElement Technologies社への出資を通じてレアアース・レアメタル分野の資源循環モデル構築に向けた事業化検討(FS)を行う。タングステン事業では、欧州でのW-Scrap集荷ルートの構築、国内外(日本新金属・H.C. Starck)でのリサイクル増処理体制の整備を進め、安定供給体制を強化。
●マテリアル領域(伸銅品)
xEV向け無酸素銅条やAIデータセンター向け製品などの高付加価値品へのシフトを加速。また、堺工場と三宝製作所の組織統合(「大阪製作所」の始動)による生産効率改善を進め、資源循環ループの確立にも取り組む。
●プロダクト領域(超硬製品)
タングステン原料のリサイクルを活用した調達により安定供給体制を構築する。航空宇宙産業や医療などの高付加価値分野への製品ポートフォリオ最適化を進めるとともに、拠点集約や組織・人員のスリム化による構造改革を実行する。
●プロダクト領域(高機能製品)
不採算であるフッ酸事業からの撤退を決定。一方で、三菱電線・熊谷第二工場を建設し、半導体製造装置向け等の高付加価値シール製品の提供に向け、自動化とDXを活用したスマートファクトリー化を進める。
●資源事業
チリのマントベルデ銅鉱山における拡張工事(MV-O)を推進しており、27年初頭の本格稼働を予定。これにより選鉱処理能力が現在の32,000トン/日から45,000トン/日に増加し、27年度以降の大幅な増益とROIC向上(28年度以降30%以上)を見込む。
●再生可能エネルギー事業
安比地熱における落雷対策などの既存発電所の強靭化を図るとともに、鳥の奥発電所などで自社拠点への自己託送による電力供給を開始・拡大していく。追加生産井の掘削等を通じて収益基盤を強化する。
〇経営基盤の強化(Appendix)
●人事戦略
資源循環ビジネスの推進を支えるため、次世代経営人材の育成、意思決定層における多様性(女性、外国人、経験者採用など)の確保、従業員のエンゲージメント向上を推進。
●開発戦略
コーポレート開発とディビジョン開発の役割を明確化し、資源循環(CE)やGHG削減技術、新規事業開発などの戦略領域へリソースを集中させる研究開発体制の再編を行った。
●デジタル戦略
自社デジタルプラットフォーム「MEX(Mitsubishi Materials E-Scrap Exchange)」を活用した、リサイクル原料の回収・可視化の仕組みを構築し、26年度中の使用済み製品回収開始を目指す。また、社内業務での生成AI活用と、高度デジタル人材の計画的な育成を推進。
※同社は「タングステンリサイクル率100%」を中期経営戦略における重要な成長戦略の一つとして掲げ、以下の取り組みを通じて実現を目指している。
1. グローバルなスクラップ集荷ネットワークの構築 欧米およびアジアでの集荷体制の構築を進める。
・欧州でのW-Scrap(タングステンスクラップ)集荷ルート構築:オランダのMMメタルリサイクリング社(MMMR)をスクラップ集荷センターとして活用し、E-Scrapリサイクラーからの集荷ルート確立に向けたトライアルを実施している。また、取扱いに必要な関係当局への許可申請も進めている。
・米国でのリサイクル事業展開:米国内にリサイクル拠点を新設し、事業展開を図る方針。
2. リサイクル処理能力の大幅な増強 鉱石資源の偏在や各国の資源囲い込みリスクに対応するため、自社拠点での処理能力を拡大。
・日本およびドイツでの増処理体制構築:日本の日本新金属(秋田工場)およびドイツのH.C. Starck社において、超硬スクラップの増処理体制の構築を推進。特にH.C. Starck社ではタングステンリサイクル量を1.5倍に拡大する計画。
・国内の供給体制整備:日本新金属では約80億円の設備投資(CAPEX)を行い、28年から29年の立ち上げを目指して国内のタングステン循環強化に向けた供給体制を整備中。
・高純度製品の生産増強:電子産業などで需要が増加している高純度タングステンや酸化タングステンについても、26年度の立ち上げに向けて生産能力の増強に着手。
3. デジタルプラットフォーム(MEX)を活用した回収・再投入プロセスの整備
・自社のデジタルプラットフォーム「MEX(Mitsubishi Materials E-Scrap Exchange)」を活用し、グローバルかつ24時間体制での使用済み製品の回収・可視化の仕組みを構築し、26年度中の開始を予定。
・E-Scrapの集荷ネットワークと連動させることで、リサイクル原料の安定確保と、タングステン製品への再投入プロセスを整備へ。
これらの施策を連携させ、タングステン原料のリサイクルを活用した調達を行うことで、超硬製品などの安定供給体制を強化し、タングステンリサイクル率100%の達成に向けた取り組みを進めている。
(IRuniverse 井上 康)