7月15日から17日までの3日間、東京ビッグサイトで「TECHNO-FRONTIER 2026」が開催された。TECHNO-FRONTIERはモータや電源、EMC、制御、熱設計、部品設計・加工などの要素技術から、工場全体の見える化・最適化を実現するDXソリューションまでを網羅する国内有数の展示会である。
本稿では同時開催された第44回モーター技術展、第5回パワーエレクトロニクス技術展にて展示された、省ネオジム磁石モーターに関する技術動向について紹介する。
ABB:レアアース非依存の高効率モーターとデータセンター冷却分野への展開
スイス・チューリッヒに本社を置くABBは、電動化およびオートメーション分野において140年以上の歴史を持つ老舗グローバル企業である。モーターは世界の電力の45%以上を消費しており、2040年までにその稼働台数は約2倍になると推測されている。同社はモーターの効率化によって世界の電力消費量を最大10%削減する可能性があると提唱しており、特に磁石を用いない誘導モーター(IM)、および同期リラクタンスモーター(SynRM)に強みを持っている。これらのモーターは2011年から本格的にラインアップに展開されており、販売当初はIE4に対応していた。
IE(International Efficiency)とはモーターのエネルギー効率を示す国際規格であり、国際電気標準会議(IEC)が定めている。効率はIE1からIE5までの区分が設けられており、数字が大きいほどエネルギー効率が高い。IE1は標準効率、IE2は高効率、IE3はプレミアム効率、IE4はスーパープレミアム効率、IE5はウルトラプレミアム効率に位置付けられる。省エネルギー化や脱炭素化への要求が高まる中、近年はIE4やIE5といった高効率モーターの採用が進んでおり、消費電力やCO2排出量の削減に貢献している。現在、同社は同期リラクタンスモーター+永久磁石+小型インバータ搭載型のモータを中心にIE5クラスの高効率モーターを展開しており、その生産拠点はフィンランド、中国およびアメリカにある。
誘導モーターおよび同期リラクタンスモーターは永久磁石を使用しないため、ネオジムやジスプロシウムなどといったレアアースを必要としない点に特長がある。同社は従来からレアアースへの依存度が低いモーター製品を展開しており、中国によるレアアース輸出規制によるネオジム磁石への依存を見直す動きが広がる中で、競争上の優位性を持つ。
2025年の展示ではIE5に対応した同期リラクタンスモーターの環境性能が主に紹介されていた。同社の同期リラクタンスモーターは巻線や軸受の温度上昇を抑える設計となっており、モーター本体やベアリングの長寿命化に寄与する。これにより、保守時に使用するグリースの量やメンテナンス頻度を抑え、運用段階における環境負荷の低減にも貢献している。

これに対し、今年の展示ではIE5対応の同期リラクタンスモーターに加え、AIデータセンターなどの冷却ファン用途となる「IES5] インバータ搭載したアウターロータ型の同期ブラシレスECモーター」を紹介していた。同社のIESクラスは「モータ+インバータ」の一体での効率クラスを表しており、本モーターは回転子(ローター)が固定子(ステーター)の外側に配置される構造であり、外周部の回転子にファンを直接取り付けて回転させることができる。本構造では回転半径を大きく確保できるため、低速でも高いトルクを得やすく、大径ファンの駆動に適している。また、ベルトや外部の伝達機構を必要としない直結構造とすることで、装置の小型化、高効率化、低騒音化、部品点数の削減が可能となる。
さらに、インバータを一体化することで、冷却負荷に応じてファンの回転数を細かく制御できる。常に一定速度で運転する方式と比べて必要な冷却能力に合わせた省エネルギー運転が可能であり、大量の電力を消費するAIデータセンターの冷却設備に適した構成である。さらにインバータ盤の設置が不要となる為、省スペースにも寄与する。
昨年の展示が同期リラクタンスモーターの環境性能や製品ライフサイクル全体でのサステナビリティを中心としていたのに対し、今回はこれに加えてレアアース非依存という従来の強みを維持しながら、AIデータセンターという成長市場に向けた具体的な用途提案まで踏み込んでいる点が大きな差異であった。
Nidec:磁石フリーE-Axleの量産化を見据えた展示
京都府京都市に拠点を置くNidec(旧日本電産)は、レアアースを使用しない磁石フリーE-Axleの開発を進めている。E-AxleとはEVやHEVの駆動に必要なモーター、インバーター、減速機などを一体化した電動駆動ユニットである。従来は個別に搭載していた部品をまとめることで小型・軽量化や省スペース化を図れるほか、車両への搭載や配線を簡素化できる。E-Axle化によって高効率化による航続距離の向上や、開発・製造コストの低減にもつながるため、電動車の普及を支える主要技術の一つとなっている。
自動車の駆動用モーターにはネオジム磁石を用いた永久磁石モーター(PM)が主流であるが、レアアース資源への依存や地政学リスクを背景に、同社では磁石を使用しない駆動システムの実用化を目指している。2025年の展示では磁石フリーE-Axleの開発コンセプトと、その実現に向けた技術開発が中心であった。誘導モーターの課題である出力密度や効率の改善に対し、極数切替え技術による出力向上、高速回転化(約30,000rpm)、高強度材料による軽量化、インバータ効率の改善など、多方面から性能向上に取り組んでいることが紹介された。また、磁石を使用しないことで、レアアース価格の変動やサプライチェーンリスクへの対応を図るとともに、EV・HEVへの適用を目指して実車評価の準備段階にあることが示されていた。
今年の展示では、開発中であった磁石フリーE-Axleを実車に搭載したモニュメントを展示し、技術コンセプトから実用化段階へ移行したことを強く印象付ける内容となっていた。展示機はNEDOプロジェクトの成果として開発されたもので、中国へのレアアース依存を回避する磁石フリー技術の有効性を訴求していた。搭載された誘導モーターは最高回転数32,000rpmであり、高速回転化・高出力密度を達成している。また、本モーター体格は従来の誘導モーターと比較して約1/2まで小型化されており、磁石を使用しない構成でありながら、EV用駆動システムとして十分な性能を実現できることをアピールしていた。

同社の磁石フリーE-Axleの開発フェーズは既に完了しており、現在は量産化に向けたフェーズへ移行している。昨年の展示が要素技術や開発の方向性を示す内容であったのに対し、今年は実車搭載による完成度の高さと量産を見据えた実用性を前面に打ち出した展示となっており、磁石フリーE-Axleの市場投入が現実的な段階に入ったことを示す内容であった。
長岡パワーエレクトロニクス:SynRM駆動技術による磁石フリーロボットを展示
新潟県長岡市を拠点とする長岡パワーエレクトロニクスは、パワーエレクトロニクス技術の受託開発企業である。長岡市には長岡技術科学大学が立地し、日本を代表するパワーエレクトロニクス研究室が5研究室集積しているほか、関連企業も数多く存在する。こうした地域の強みを活かすため、2022年には同大学の伊東教授を中心として「長岡パワーエレクトロニクス研究会」が設立された。研究会ではコア技術の高度化や人材育成を通じて地域産業の発展を目指しており、長岡パワーエレクトロニクスも会員企業として産学官連携の一翼を担っている。
同社は長岡パワーエレクトロニクス研究会の一員である長岡モーターディベロップメント株式会社、長岡技術科学大学と共同開発した同期リラクタンスモーター(SynRM)の採用した磁石フリーロボットを展示した。本ロボットは中国へのレアアース依存を回避することを目的に、永久磁石を用いない同期リラクタンスモーターを採用している。これは長岡技術科学大学で研究・開発された同期リラクタンスモーター技術を応用しており、永久磁石モーターと同等の効率を実現しながら、レアアースを使用しない駆動システムを実現している。
一方、同期リラクタンスモーターは永久磁石モーターに比べてトルクリプルが課題となるため、同社がインバーター制御技術を担当し、その問題に対応。一般的な三相インバーターではなくHブリッジインバーターを採用し、制御技術によってトルクリプルを抑制している。また、SiCインバーターとFPGAを組み合わせることで、高速化・多極化が進むモーターにおいても、インダクタンスの小さいモーターで発生しやすい電流リプルを低減できており、磁石フリーモーター向けの高性能な駆動技術を提案していた。

2025年の展示では磁石フリーモーターについての紹介がなかったが、今年は「サプライチェーンリスクがより顕在化しているので、これまでの技術を応用して実用化段階まで漕ぎ着けた。モーターは資源リスクに応じてトレンドがあるので、永久磁石モーター、同期リラクタンスモーター双方の技術開発を進め、適宜採用していく必要がある」と述べていた。
今回の展示会で紹介した磁石フリーロボットについては、モーター関係の製品を扱うメーカーより引き合いが多く、今後市場展開していく予定とのことだ。

また、展示会ではパワーエレクトロニクス技術だけでなく、長岡市の魅力を発信する取り組みも実施された。長岡パワーエレクトロニクス研究会が中心となり、市内15蔵の日本酒を用いた振る舞い酒を企画し、最終日の17日15時から来場者へ提供した。昨年も同様の振る舞い酒を実施しており、この取り組みは3年目であるとのこと。技術展示だけでなく、地域の食文化も合わせて発信することで来場者との交流を深め、長岡市ならではの魅力を伝える展示となっていた。
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(IRuniverse Midori Fushimi)