MIRUグローバルチームは、7月28日から30日にかけて、台湾のステンレス、電炉、電炉ダスト処理および産業廃棄物リサイクル産業を対象としたプラント視察ツアーを実施した。日本からはMIRUジャーナリストチーム3名に加え、レアメタル・リサイクル関連商社、鉛精錬メーカー、金属リサイクラーなど、総勢9名が参加した。
本稿では、7月29日に台湾南部最大の重工業都市・高雄を拠点として訪問した、老舗電炉メーカー「海光鋼鐵(Hai Kwang Steel)」と、台湾を代表するステンレスメーカー「唐栄鉄工(Tang Eng Iron Works)」での視察の模様をお届けする。
なお、本ツアーの実施にあたっては、株式会社サンクト様よりスポンサー協賛を賜った。スポンサータオルデザインには注力領域がデザインされている。
また、現地では高雄のトレーディング会社 Benzene Group Limited(本音股份有限公司) の代表を務める Ken Wu 氏をはじめ、台南市に拠点を置く台湾最大級の食品グループ・統一實業股份有限公司(Ton Yi Industrial Corporation) に属する Kei Tu 氏、さらに日台両国で事業を展開する 長瀬昆妮 氏より、訪問先との調整や移動手配など、多岐にわたるご支援・ご協力をいただいた。

■ 訪問先①:海光企業股份有限公司(Hai Kwang Enterprise Corp)
〜日本のモノづくりへの敬意と、国内シフトを進める電炉トップメーカー〜
視察初日の午前は、地元を代表する電炉(EAF)メーカーである海光企業を訪問した。工場のダイナミズムを肌で感じながら、現在の操業状況や市場のセンチメントを直接ヒアリングする貴重な機会となった。
現場でまず目を引いたのは、電気炉や連続鋳造設備など、歴史を感じさせる旧型の日本製設備(三菱重工製)である。長年同社の生産を支えてきたが、老朽化が進んでいるため、今後は台湾の国内製設備へリニューアルしていく計画とのことだ。随所に日本のモノづくりへの深いリスペクトが感じられたのが印象的であった。

【主な議論点・市場動向】
現在の生産量は、ビレットおよび丸棒(鉄筋)を合わせて月産約3万トン。原料となる鉄スクラップの比率は、国内調達が7割、海外からの輸入が3割という構成である。
販売面では、台湾国内における建設需要の伸び悩みが課題となっている。生産されるビレットも丸棒もほぼ全量が国内向けであり、輸出マーケットには出していない。
また、近隣のアジア市場で懸念されている「安価な中国材の流入」について尋ねたところ、「現在のところ影響はない」との回答であった。その背景には為替要因があり、人民元高の影響で中国品が相対的に割高になっているため、結果として国内市場への流入を抑え込めているという実態が浮かび上がった。

■ 訪問先②:唐栄鉄工廠(Tang Eng Iron Works Co., Ltd.)
〜創立85周年の老舗ステンレスメーカーが直面する現実と、生き残りをかけた高付加価値化〜
午後は、台湾で最も深い歴史を持つ鉄鋼メーカーであり、台湾初のステンレスメーカーでもある唐栄鉄工廠(tang eng iron works)を訪問した。
創立85周年という輝かしいレガシーを持つ同社であるが、現在の事業環境は極めてシビアである。汎用品(SUS304など)の市場では、圧倒的な価格競争力を持つ中国やインドネシアからの輸入材に押され、現在の生産量は10年前と比較して「10分の1」の月産3,000トンにまで激減しているという厳しい現実を目の当たりにした。こうした輸入材に対して、当然、台湾は中国、インドネシアのステンレス鋼材にAD関税を課しているかと思いきや、「政府は全く動いていない。我々(唐栄鉄工)も政府には常々陳情申し立てているが、動いてくれない」とのことだった。


生き残りをかけた構造改革と戦略転換
こうしたステンレス・普通鋼の生産事業だけでは経営維持が困難となったため、同社は2006年頃から実質的な国営化(公営化)の道を歩んだ。現在、株式の約50%を台湾最大手の中国鋼鉄(CSC: China Steel Corporation)が保有しており、役員も8名中4名がCSCの出身者で占められている。
現在の経営を支える大きな柱となっているのが不動産事業である。国営化される以前にグループ会社などが保有していた広大な土地や建物を貸し出すことで、安定した不動産収入を得て会社を維持している。年間およそ10億円。
今後のモノづくりにおける生き残り戦略としては、「ボリュームゾーンである304系では中国・インドネシア勢に勝てない」と割り切り、汎用品から距離を置いている。代わって注力しているのが、ハイニッケル系の特殊鋼や新素材の開発である。同社ならではの技術力を活かした「高付加価値製品」への挑戦が、今後の復活の鍵を握っている。
Day 1の視察を通じ、汎用鋼材市場における為替の防波堤効果と、ステンレス市場における輸入材の猛威という、台湾鉄鋼業界のコントラストの効いた「リアル」を深く学ぶことができた。明日のDay 2レポートに続く。
■ 前夜祭の一コマ:台湾の文化と熱気を肌で感じる充実のキックオフ
視察に先立ち、まずは現地でのネットワーキングからスタートした。今回の高密度かつ非常に生産的なスケジュールが実現したのは、現地コーディネーターのKen氏、その友人のKei氏、そして長瀬氏の多大なるサポートとスムーズな手配のおかげである。心より感謝申し上げたい。
現地の温かい歓迎を受け、台湾ならではの文化と熱気を肌で感じながら、翌日からのハードな現場視察に向けた士気を高める素晴らしい前夜祭となった。
