資源鉱山トリビアシリーズSeason3#3 金, 銀, 銅メダルはどこから?
1.東京2020オリンピック競技大会メダルの概要
新型コロナウイルス蔓延の影響で、東京2020オリンピック競技大会が1年延期されることが決まりました。
しかし、ここでは東京五輪(オリンピック・パラリンピック)のメダルに関する話を進めます。金、銀、銅メダルの金属はリサイクル材も入っておりますが、そもそも金、銀、銅はどこから得られるのか?という資源教育ばりに、小学生にもわかるように説いていきます。
1.1.東京2020オリンピック競技大会のメダルの条件
2019(令和元)年7月24日(水)に東京2020オリンピック競技大会メダルのデザインが公表されました。
コンセプトは「光や輝き」だそうです。
オリンピックのメダルについては、オリンピック憲章に次のように示されています。
●大きさ、直径60mm以上
●厚さ、3mm以上
●形、原則として丸型
●その他の条件
・1位・2位のメダルは銀製で、少なくとも純度1000分の925であるもの
・1位のメダルは少なくとも6グラムの純金で金張りまたは金めっき
というかなり範囲が広い設定となっています。
1.2.東京2020オリンピック競技大会のメダル
一方、JOCは東京2020オリンピック競技大会のメダルをオリンピック憲章の条件内で、下記のようにしました。
●サイズは、直径85mm、
●厚みが最大部分で12.1mm、
●重量は金メダルが約556g、銀メダルが約550g、銅メダルが約450gとされている。
東京2020オリンピック競技大会のメダルは約5千個(金メダル、銀メダル、銅メダルそれぞれ1,666個ずつ)必要とされ、そのための材料として金が約10kg、銀が約1.2トン、銅が約0.7トンを必要としています。
写真-1 東京五輪2020メダルのデザイン
出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HP
この必要量を、「都市鉱山から作る! みんなのメダルプロジェクト」と名付けられた都市鉱山活動で賄われました。
2.金、銀、銅はどのようにして得られているか
2.1金
金鉱石は微小の金粒が石英脈の中に存在しており、大型の金鉱山では、これを粉砕した後にシアン溶液にタンクの中で混ぜて金を溶解し活性炭に吸着させて回収し電解採取(Electro-Winning)で金を濃集するCIPと言う方法が使われています。
写真-2 CIPプラントの一例 写真-3 電解採取(EW)操業風景
(最終工程には盗難防止柵が設けられている)
(写真-2,-3 ともに1994年3月筆者撮影)
例外は、世界最大の埋蔵量(推定の金埋蔵量は250t)を誇り最高品質(40g/トン)の金鉱石を採掘している住友金属鉱山の菱刈鉱山(鹿児島県)で、採掘した高品位の鉱石はCIPなどの濃縮工程を経ずに直接東予銅製錬所で製錬処理されます。
希に、大きな粒が河床に存在し、昔は、川に入って椀掛けして(panning:パンニング)濃集した金粒を含む重鉱物に水銀を混ぜて金と水銀との合金(アマルガム)を作り、液状化したアマルガムを濾布で濾し採って他の土砂から分離した後、この金水銀アマルガムを加熱して水銀を揮散させて金を回収していました。
写真-4 左 椀掛け(パンニング)風景、右 水銀蒸気を水中に導き冷却回収する自家製レトルト装置
写真-5 左金・水銀アマルガム、中アマルガム焙焼風景、右焙焼で得られた金粒
20年ほど前に世界中でゴールドラッシュが起こり金ブームとなったことがありますが、現在でも、中南米や東南アジアの発展途上国では、椀掛けとアマルガメーション法が行われており、アマルガムを火であぶって水銀を飛ばして金を得るなどの不法行為が行われおり、水銀汚染の原因の一つとなっています。
アマゾンの奥地では、河川・湖沼の金がありそうな粘土質の堆積層にむけて高圧水を噴射するモニタリングと呼ばれる方法で泥水化(土砂をスラリー化)し、底に毛布様の厚手の生地(ブランケット)を敷いたネコ流し(Launder)と呼ばれる樋に流し、布目に取り込まれた重鉱物を集める大量処理方法が行われています。
写真-6 モニタリング・ネコ流し風景及び重鉱物を捕獲したブランケット回収風景
2.2銀
銀は、主に硫化鉛鉱物(方鉛鉱PbS)に包含されて採掘され、選鉱工程で浮遊選鉱(フローテーション)法によって濃縮精製されて鉛精鉱として製錬所へ送られ高純度の金属鉛と金属銀に分けられます。
鉛精鉱にビスマス(Bi)その他の金属が含まれている場合はそれらも副産物として回収されます。
写真-7 浮遊選鉱場(Flotation Plant)(左箱形[従来型]、右コラムセル)
2.3.銅
銅は銅鉱物から得られますがその種類は多い。大別して硫化銅と酸化銅(炭酸塩を含む)の二種類あり、硫化銅(黄銅鉱CuFeS2など)は方鉛鉱と同様浮遊選鉱で濃縮精製されます。一方, 酸化銅(赤銅鉱Cu2Oなど)は採掘した鉱石を粗砕した後野積みにして、硫酸溶液を散布して銅を溶解(ヒープリーチング)して有機溶媒で抽出して電解採取するSX/EW(Solvent Extraction & Electro Winning)と言う手法で回収精製する方法が一般的に行われています。
写真-8 ヒープリーチング風景(左:ヒープへの散布状況、中:浸出液回収風景、右:浸出液[Pregnant Sol.]貯留)
(1990年3月30日著者撮影)
3.「都市鉱山から作る! みんなのメダルプロジェクト」
メダルは「都市鉱山から作る! みんなのメダルプロジェクト」と名付けた都市鉱山活動で賄われました。
3.1.都市鉱山
一般に資源開発は、山間僻地(高山)にある鉱石(金などppmオーダーの低品位)を、探査à採鉱à選鉱à製錬と言う流れで膨大な初期費用と時間を掛けて回収されています。
都市鉱山とは、スマホ、ガラ携、PC等の小型家電の中に利用されている高品質の貴金属や希少金属を回収するリサイクル方法で、まるで都会にある鉱山だと言うことから、こう呼ばれるようになりました。
図-9 携帯電話の基板や外装に使用されている資源(NIM SURLより)
小型家電リサイクルの回収金属量の変化を表11)に示します。
表-1 小型家電リサイクルの回収金属量の変化
出典:産業構造審議会廃棄物・リサイクル小委員会(2019.2.15)
3.2.「みんなのメダルプロジェクト」活動
(1)みんなのメダルプロジェクトについて
みんなのメダルプロジェクトは「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」として東京2020オリンピック競技大会の公認プログラムが2017年4月に開始されました。
(2)活動結果
活動結果が以下のように報告されています。
- 開始当初の協力自治体は624だったのが最終的に1621(全自治体数の93%)に達し、集まった7万9千トンの携帯電話を含む小型家電から金約32kg、銀約3,500kg、銅約2,200kgが回収できた。
- 目標(必要量)は、金が約1kg、銀が約1.2トン、銅が約0.7トンだったので、金は約32倍、銀は約3倍、銅も約3倍が回収できたことになる。
- 個人の協力はもちろん, 自治体だけではなく、携帯電話、パソコン、小型家電など種々雑多な機器類を選別、分解、金属と非金属との分別、製錬・精錬など多くの企業の参画があった。
- 各地方自治体の協力の下2019年3月までの丸2年間実施されて東京五輪に必要な金、銀、銅各1666個の合計約5千個のメダルに必要な金属量を確保することができた。
- リサイクル金属で五輪メダルを作った前例は、前回のブラジルで、銀と銅メダルの約30%がリサイクル金属でつくられたそうだ。しかし、金メダルはリサイクルでなく、水銀が使われていない環境に配慮して作成したそうだ。
- しかし、全国民が参加して100%リサイクルでメダルを作る取り組みは今回が初めての試みなのだが、1年延期となっても呼称は「東京2020オリンピック競技大会」が維持される。
4.金、銀、銅の物性
メダルに使われる各金属の物性を表-2に示す。
表-2 金、銀、銅の物性
一般に銅メダルは、銅(Cu)に錫(Sn)を混ぜた青銅(bronze)が使われるが、東京2020オリンピック競技大会の銅メダルは約5%の亜鉛(Zn)が混ぜられた赤みが強い丹銅(red brass)と呼ばれる合金で作られる。
銅メダルは英語でBronze Medalと呼ばれている。そうであれば、 金メダルはGold MedalではなくGolden Medalと呼ぶべきではないだろうか?
5.SDGsとの関係
メダルを100%都市鉱山のリサイクル金属で賄うと言うことは、SDGsの17の目標の中で次の項目が関係すると考える。
- 「目標6 全ての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。」の項目6.3~6.5の「水質改善と管理」
- 「目標12 持続可能な生産消費形態を確保する。」の項目12.2 「2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用の達成。」, 項目12.4 「2020年までに、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出の大幅削減。」及び項目12a 「開発途上国への、より持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化の支援。」
- 目標15の「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失の阻止。」
6.金、銀、銅にまつわる逸話
6.1.金にまつわる逸話
金と言えば、紀元前数千年にメソポタミア文明の担い手であるシュメール人は金を自在に操る技術を持ち, エジプトで金の装飾品を扱っていた。
写真-10 マスタバの墓(前ピラミッド)、ギザのピラッミド群とツタンカーメンの黄金の面
一方、時代はかなり下がるが、プレインカ時代の南米でも金が使われていた。コロンビアの首都ボゴタにMuseo del Oro(黄金博物館)と言うのがある。展示品はこれでもかとばかりに多種多様の目を奪うばかりの金細工が展示されているが、インターネットで紹介されている展示品に金製の埴輪(宇宙人という人もいる)や飛行機のような形の飾り物(宇宙船と噂されていた)が展示されているのが注目されていない。このような形を創造で作るよりは何か見本があったと考える方が夢があるように思える。中南米には紀元前から16世紀のスペイン人侵略までアステカ、マヤやインカの金細工技術があったようで、現在も考古学調査と発掘が続けられている。
写真-11 黄金博物館展示の一部、左2面、飛行機型金細工、中、トビウオ?それとも飛行機?、右、黄金の筏
(左2面は2000年10月筆者撮影、中及び右の写真はインターネットから借用)
6.2.銀にまつわる話
ボリビアのアンデス山系の中央部にポトシという同国第三の都市があり、町の北東部にポトシ山が聳えている。
「16世紀頃、グアルパというリャマ飼いがリャマを追ってポトシ山の頂上付近まで来て疲れて岩に腰掛けて休んでいるときに足下に何かキラッと光るものを見つけた。」と言うのがポトシ銀山発見の逸話で、自然銀だった。これを聞きつけたピサロがポトシ銀山を開発し大量の銀をスペインに送り16世紀のスペイン銀貨の7割を占めるほどの権勢を誇っていた。
当時は、被征服者のインディオ主体の原住民が鉱山労働者として過酷な採掘作業にこき使われていて、ポトシ山の麓一帯は鉱山労働者の住居、離れたところに支配者層のスペイン人住居地区として、ベルリンの壁宜しく石積みの仕切り塀が設けられていた。現在も、行き来する関所のような通行門が残っており遺跡となっている。
写真-12 ポトシ鉱山とその裾野に広がるポトシの町(鉱山労働者居住区とスペイン人居住区)
(1997年4月25日筆者撮影)
なお、ポトシの町に当時の造幣局跡が博物館となってのこっており、この詳細は本項第1章(その2)に詳しい。
6.3.銅にまつわる話
銅には殺菌効果がある。金魚やメダカなどの小魚を飼っている水槽に10円硬貨を入れておくと、うろこの表面にカビが生えたりすることが無くなり、長生きする。昔、ある非鉄金属会社が銅の細線を織り込んだものを水虫防止靴下として販売したが2~3回履いたら破れて長持ちせず失敗したという逸話がある。しかし、靴の先に10円玉を入れて水虫予防するなどの手っ取り早い方法もある。最近は、新型コロナウイルス騒動で、公共交通機関利用の際につり革や取っ手に引っかけて体を支えたり、エレベーターのボタン押しに使える抗菌グッズとして、金属銅製のアシストフックなど売りだされている。台所用品に結構抗菌グッズがでている。銅製たわしや銅製排水口など。一方、銀にも殺菌効果があり各方面で活用されており、イオン化しやすい金属の効用が歌われている。
7.終わりに
自然界に存在する金、銀、銅の魅力的な輝きがオリンピックのメダルに採用されるゆえんと思われる。その金属を、全量都市鉱山活動で省資源、環境汚染軽減の「都市鉱山から作る! みんなのメダルプロジェクト」活動で達成したことは記念すべきことである。その、東京五輪2020が延期されたことは極めて残念である。今夏に向けて調整してきた選手達やまだ最終選考されていない選手達の無念さと準備不足が延期で余裕が出てきた選手達など悲喜こもごもの様相を呈している。
(OHKI HISAMITSU)
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