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Steel World鳥瞰図 21年末特別号 2022年の世界鉄鋼市場を大空から望む

 

 

 久々のSteelWorld、沈黙を破って久々の投稿がクリスマスイブに入りました!

 

 2021年の鉄鋼相場は激動であった。昨年のパンデミックから引き続き市場は混乱したまま今年も暮れようとしている。来年を占う前に、少し振り返ってみよう。

 

 鉄鋼マーケットにおいては常に中国が震源地であるのだが、COVID-19の徹底的な封じ込めでいち早く経済活動が再開し、鉄鋼需要も急回復した。するとそれまでの大輸出国が半製品や製品を輸入することになり世界市況を押し上げた。一方世界のその他地域の生産活動は滞ったままで回復が遅れた。特にインドや東南アジアではハードロックダウンにより夏場の生産活動はほぼ停止した。ところが先進国ではコロナ需要ともいうべき自動車、家電など消費財の売り上げは急速に回復しており、その結果、世界の工場としての中国一極に注文が集まった。

 

 中国の輸出高は10月に前年比3割増え、輸入は2割増えた。世界第二の経済規模になった中国の貿易が激増すれば当然グローバル物流は混乱する。輸出向け先で最も増えたのはトランプなきアメリカである。中国製品を満載にしたコンテナが一方通行でアメリカに向かってしまい、受け入れサイドの港湾能力を超え滞船が長引いた。その結果、世界中のコンテナが逼迫した。このことはバルク船にも影響し、海上運賃は天井知らずに上昇した。さらには中国都市で散発的に感染が発生した際には、港湾当局も港湾労働者、船員に対して、待機や交代など強行措置をとるため中国の各港において荷役能力が著しく低下し滞船長期化を招き、船運賃上昇に拍車をかけた。

 

 

米国国内ホットコイル価格の推移 1年

グラフ

 

 

 その間、鉄鋼市況は上がり続け、232条適用によって輸入を制限したアメリカではホットコイルで2000ドルを超える空前の大相場となった。息をつく暇もないほどのめまぐるしい動きのまま鉄鋼市況は上昇したまま今年は終わるのかと思いきや思わぬ反転が待っていた。物流の混乱やロックダウン、消費活動の再開などが相まって、鉄鋼と並ぶ産業のコメである半導体供給難が深刻化を引き起こした。 あおりをうけた自動車会社が相次いで減産を余儀なくされた。自動車会社にとって誤算だったのは、鉄鋼不足であればメーカーは自動車向けを再優先して供給するのだが、半導体業界の中では自動車は数ある高収益需要分野の一つでしかないため、価格値上げ受け入れに素早く対応できずに後手にまわった。供給不足の影響は短期間の調整で終わるという予想もあったが年末の今も混乱は続いている。

 

 自動車産業は裾野が広く、世界の主要鉄鋼ミルは自動車用鋼板に下工程品需要の多くを依存している。特に日本におけるサプライチェーンの各ポイントでは在庫を常に低水準で運用するジャストインタイム体制を敷いているため、急な需要減を吸収できるバッファが少ない。自動車工場への部材納入が滞り各地の倉庫や加工センターに在庫が積み上がり今も大混乱している。自動車会社自体は多くのバックオーダーを抱えており、半導体供給が流れ出せば増産することができるとされるが、いまだにその見通しは立っていない。

 

 一方で中国でも劇的な変化が起きている。

 

 今年の前半戦は貿易の急増で生産活動は絶好調であったのであるが、それを支えるためには原材料である鉄鋼も当然たくさん造った。それが資源の高騰を招いた。中国政府はカーボンニュートラルへ向けた構造変革に向けて最大CO2排出セクターである鉄鋼産業の大規模なリストラを進めている最中であり、本来なら今年の粗鋼生産量は前年比で減少させる予定であった。

 

 しかし世界的な需要増加により上半期は大幅な増産となってしまい、メンツを失った中国政府は強行措置にでて、各ミルに対して減産命令と監視を行なった。その目的は、まずは海外に大きく依存している資源の高騰を抑えること。その資源を使った鉄鋼製品を付加価値のないまま、操業維持のために輸出しないことである。各ミルには輸出上限枠が課せられているという。中国経済の安定成長にとって資源の海外依存は経済安全保障上の弱点であり、資源を無駄に使ってはならない。輸入量も減らさなければならない。対豪州の石炭輸入制限は早くから仕掛けたが、その行き過ぎもあり、石炭が高騰してしまった。資源要因の「悪いインフレ」を起こすなどもってのほかだ。石炭は燃料炭にもインパクトを与え、供給難から電力不足、あげくは大規模停電まで招いてしまった。

 

 加熱した経済はいつか破裂する。COVID-19で拡大した財政支出の手仕舞い、つまり出口戦略、いわゆるテーパリングが各国で議論されている。中国は今、海外需要へ向けた物の輸出が絶好調のうちに、アメリカに先んじて国内経済過熱の沈静化を行いたかった。不動産バブルを抑制すべく金融引き締め、擬似総量規制、固定資産税の限定的導入など手を打った。一方で中国の鉄鋼過剰生産問題は世界のCO2問題と同義であるから、イギリスでのCOP26開催前に思い切った生産削減に打って出た。

 

 中国の粗鋼生産は世界の6割を超えているわけだから世界の鉄鋼業界は需給タイト化を期待した。最大生産国の中国が大減産をする。輸出も大幅に削減する。市場はタイトになるに違いないと。そこでスペキュレーションが動いた。特に半製品を中国に輸出する動きが大きくでた。ところが結果は逆の目がでた。大減産により鉄鉱石、石炭価格が急落し、鉄鋼ミルのコストダウンとなることから先安感が強まり、中国の先物市場が大暴落したのだ。それに伴い、スペキュレーションの玉が行き場を失い彷徨ってアジア市況は下落し始めた。中国国内市場は下落を続け、輸出還付税が無くなっても国際相場で販売する方が、国内向けよりメリットがあったため、中国国内在庫玉などが安値輸出に動いた。国内安値に嫌気を出したミルも後に続いて安値オファーがでた。こうなると世界的に先物を仕込む動きが止まる。安値は出るが成約は進まない、サプライチェーンでは在庫の流動化が起きている。

 

 絶好調だったアメリカ市況も下げに転じ、毎週インデックスが下落している。新しいミルの立ち上がりによる供給増を懸念した動きである。いくら232条で輸入材から守られたアメリカ国内市場であっても中国の影響は免れない。鉄鉱石市価の下がったブラジルはスラブオファーを下げる。これは232条除外項目だ。国際比価で突出して高い米国には当然輸入が増えている。アメリカのCRUなどのインデックスも継続して下落し始めた。

 

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 さあ世界は来年どうなるのだろうか?

 

 まずはっきりしているのはアメリカとヨーロッパの間では232条の適用が終わる。4月以前には撤廃されることが決まっている。そのかわりに数量枠制限が課せられる見込みだ。韓国との間のスキームと同じようなものだろう。続いて同盟国日本も除外国となると予想されている。ただ日本の場合はアンチダンピング税問題があり、かつ自主規制もなされるだろうから需給バランスに大きな影響は出ないだろう。

 

 電炉薄板の新規ミル稼働がここ数年相次ぐが輸入国である米国は輸入数量をセーフガード的に設定するので大幅に需給が乱れることはないだろう。電炉鋼比率が70%を超えているアメリカでは生産調整が容易であることから採算ラインをわる市況下落は考えにくい。又、統計も明確なインディケーターとなる。流通の在庫量、販売量はタイムリーに発表されるし、ミルの品種ごとのリードタイムも何週間といった数字で出てくる。

 

 つまり購入サイドも需給バランスをタイムリーに把握しつつ購入計画を立てられる。リードタイムが短くなれば輸入材の購入を控える。するとすぐにバランスが取れる。市場が機能しているといえる。さらにはユーザー向けの販売価格もスクラップなどの原料とリンクさせた価格設定も多く、合理的価格でオープンだ。こうした環境は日本市場と大きく異なる。日本高炉メーカーのユーザー向け価格は常に闇の中であるし、流通向けリードタイムなど常に不安定であり、明確なものはない。メディアも正しい市場分析をせずにメーカーサイドの広報機関のようなものだ。つまり日本国内市場は需給調整がつきにくい。米国は内需も堅調だ。経済成長は底堅いし、金利の上昇はあるだろうがあくまでインフレを制御するためのもので健全な利上げといえる。バイデン政権のインフラ法案も可決された。鉄道、橋梁、EV化などインフラの一新が鉄鋼需要を押し上げる。

 

 ヨーロッパは輸入に対してはセーフガードがあるし、輸出においては世界一の市場アメリカが開放されるのであるから、高値販売が可能になり、域内ではすでに底堅い動きがでている。ただトルコのリラ安などの懸念で買い手は今のところ慎重だ。欧州主要ミルは半導体の不足による自動車減産の影響を引きずっているが、カーボンニュートラルに向けた大手ミルの投資費用は事業採算性を揺るがすレベルであることから、一定マージンを保ったままでいることが肝要ゆえ、自らマーケットを崩す方向には動かない。むしろ反対に値上げしなければいけない事業環境となる。欧州では炭素国境調整措置のようなカーボンニュートラルに向けた規制がますます明確化具体化する年になる。規制が及ぼすコスト増加を顧客に転嫁するカーボンサーチャージなどの方策が多くなるだろう。このことはグリースチールへの需要増加と鉄鋼設備のグリースチール化(電炉、水素還元鉄などへの転換)が促進される。

 

 さて最大の撹乱要因である巨象中国であるが、中国はまだまだ高炉が中心であり高炉が9割を占める。本来なら需給調整がつけにくいはず。しかし中国は国家が強烈である。減産しろといったらミルは従うしかない。11月粗鋼生産はなんと前年比23%減だ。政府がその気になれば簡単に需給調整がついてしまう。ただし市場を通していない急激な措置は必ずハレーションが起きる。今回は原料安と先物安を招いた。しかし長引かないだろう。世界最大の生産国で減産があれば世界需給はタイト化する。少なくともオリンピックまでは減産は続く。冬場の石炭需要もあるので、青い空のためには石炭鉄鋼は無駄に造れない。しかし需要サイドの環境は依然厳しい。不動産への引き締めは続き、固定資産への課税などは不動産開発へのモチベーションを削ぐことになり、これまで長年鉄鋼需要を牽引してきた固定資産投資は期待できない。

 

 新しい牽引車であった自動車も半導体不足などで頭を抑えられる。それでも今年、輸出産業は良かった。外需が引っ張ってきた。アメリカFRBの金利引き上げまでは好調が続くだろう。

 

 しかしアメリカなどがテーパリングに入ることが明確となった時点では外需が冷え込むことになるため、その時期が来れば反対に中国が内需刺激を開始するだろう。金融緩和はすでにスタートした。

 

 北京オリンピック明け、つまり春節明けにはなんらかの政策が出てくる。内需を刺激すると中国では自然に鉄鋼需要は増える。要するに来年も大きな崩れはなさそうだ。というか春先には反転上昇するだろう。中国からの輸出が大きく増えることはない。増えれば輸出税が課される。これは目先の政策ではなく2060炭素中和へ向けた構造転換なのだからマクロな動きには変化がない。多少のさざなみが立つだけだ。しかしこの小波もこちらにとっては大きいけれど。しかしこの小波を見て大きな流れを見誤ってはいけない。カーボンニュートラルの潮流を俯瞰して見る、これ大事。

 

 

(Cho Guevaro)

 

 

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