台湾電池材料業界の対日関税問題に迫る―Mechema(美琪瑪)インタビュー
現在、日本に輸入される硫酸ニッケルには、3.9%の関税が課せられているが、FTA・TPP・RCEPにより、多くの国が免税となっている。そんな中、どの貿易協定にも属することができない台湾だけが取り残されているというのだ。私がこのことを知ったのは、8月31日に開催されたMIRU主催のBattery Summit来場者のK氏とのやり取りの中であった。電池材料業界の台湾企業に取材し、ぜひこのことを日本に向けて伝えてほしいということで、Mechema(美琪瑪國際股份有限公司、メケマ)を紹介していただき、9月22日、副社長である蔡文勲(Leselie Tsai)氏と会長の息子で商務部部長の厳文志(Nick Yen)氏へのインタビューが実現した。
写真左から、蔡文勲(Leselie Tsai)氏、記者、嚴文志(Nick Yen)氏
まずは、今回のインタビューが実現したことについて、K氏及びMechema側でお二人につないでいただいた商務部製品部長のBetty氏に感謝の意を申し上げたい。
現在の台湾おかれる国際政治的な位置づけについては、誰もが知るところだろう。台湾は、「国として独立しているか」という政治上の問題だけでなく、産業・ビジネス面でも様々な問題を抱えている。
台湾電池材料業界のおかれる状況とは
冒頭でも述べたが、貿易協定に入っていない台湾からの硫酸ニッケルには、依然として3.9%の関税がかけられている。それによって何がおこっているのか。
例えば、LME Nickelが$21/kg、硫酸ニッケルの中のNi含有量22%、硫酸ニッケルの加工賃$0.50/kg とすると、非課税の場合の価格は、CIF Japan = ($21 x 0.22 ) + $0.50/kg =$5.12/kgとなる。一方でそこに3.9%が課税されると、$5.12 + 輸入税 $5.12 x 0.039 =$5.32/kg となり、この価格差はニッケル価格が上がるとさらに顕著になる。価格差$0.20/kgを埋めるには、加工賃$0.50/kg (世界的に通用しているレベル)から$0.20/kg、つまり40%もの値引きをするしかないという状況だというのだ。以下、正確を期すために一問一答式でお伝えしよう。
Q:日本の硫酸ニッケルの3.9%の関税についてどのようにお考えですか?
A; 日本向けの硫酸ニッケルに輸出に関しては、2021年より台湾以外の多くの国が免税になった中、台湾だけが取り残されています。その結果、昨年の日本向けのニッケル販売量は、少しではありますが減少しました。最近はまた持ち直していますが、関税の問題がこのまま続くことで、取引量がどんどん減少してこないか、心配しています。
Q:関税の差額を穴埋めすべく、加工賃を値引きしているとのことですが。
A: そうです。関税が平等な状況においては、台湾の硫酸ニッケルは価格競争力がありました。しかし、3.9%の関税がかけられることで、価格面での競争力は弱まってしまっています。特に、2021年より韓国もRCEPに加盟していることで免税になりました。大きな影響を受けているのは、この韓国の免税です。
Q:この問題について、政府や各貿易協定機関への抗議などは行いましたか?
A: はい。台湾については、このような動きがあるとわかった段階で、当社から国貿局に意見を伝えてきました。台湾からも、各貿易協定機関に対して意見は伝えてきたと思います。早く対策がとれるように、事前に情報も伝えられていました。しかし、台湾は貿易協定自体に入ることができていないので、意見を伝えることはできても決定されたことについてはどうすることもできません。これは国と国との問題なので、例えばFTAに入っていないとFATの内部のことに台湾は口出しできないのです。日本の政府や各貿易協定機関に対しても、当社の取引先から意見を伝えていただき、継続して働きかけを行っていると聞いています。しかし、今のところ現状を打開することは難しいのではないかという印象です。
Q:関税の問題が出てきてから、Mechemaの貿易相手国に変化はありましたか?
A: 特に変化はありません。当社の主要な製品はPTA酸化触媒と電池材料ですが、電池材料については過去から今まで、ずっと日本が最大の販売相手国です。品目にもよりますが日本向けが30-40%を占めています。今後も、主要な販売先が日本ということは変わらないと思います。PTA酸化触媒については、全世界に向け販売しています。
Q:関税の問題を解決するため、何か打開策を考えていますか?
A: 現在、タイには触媒の工場があります。もし、今後関税の問題が解決できないとすれば、タイの工場に電池材料の設備投資を行い、タイで製造した硫酸ニッケルを日本に輸出するという形をとることも検討しています。ただし、電池材料設備には大きな投資、コストが必要となるため、現在台湾から提供しているものと比較すると、製品自体のコストが上がってしまう可能性もあります。やはり価格競争力のある製品を期待されますので、慎重に検討しています。
Q:硫酸ニッケルの関税について、日本の政府・関連企業に伝えたいことはありますか?
A: 台湾だけに関税がかけられている今の状況は、日本市場において、単純に台湾製の硫酸ニッケルの価格が高いだけではないということです。どういうことかというと、他の免税になった国、いわゆる当社の競合企業ですね。そのような企業が、台湾からの硫酸ニッケルには関税がかけられていることを加味して、値段を吊り上げるということが起こっています。本来であれば、日本企業は免税になったことで関税分の3.9%安く購入できるはずですが、台湾には3.9%の関税がかかるので2%は上乗せして販売しても売れるだろう、となっているのです。
これは日本の市場にとっても、デメリットではないでしょうか。現在、電池材料の需要は高まっており、原料の調達は国の産業全体の課題となる部分です。台湾の硫酸ニッケルの関税がなくなりこれまで通り価格競争できるようになれば、日本の電池業界全体のコストダウンにつながり、競争力を高め、産業の発展にもプラスになると考えます。ただ単に、台湾から輸入する硫酸ニッケルの値段が高いという単純な問題ではなく、市場全体のコストに関わっているということを、ぜひ日本政府・関連企業の方にもご理解いただきたいです。
ここまで台湾電池業界の関税問題に着目してきたが、ここで改めて、Mechemaという会社について紹介したい。Mechemaは台湾北部の桃園市観音区の工業エリアに立地している。
Mechema本社 i.YUKO撮影
前身はイギリス企業の台湾子会社であり、1992年に現会長により、投資・買収され、100%台湾の会社として設立された。2001年には台湾株式市場に上場している。主要な業務内容はPTA酸化触媒で世界のトップシェアを誇る。この触媒には多くのコバルト金属を使用するため、創業以来コバルト関連の製品を独自研究開発してきた。
その後、磁性材料、電池の正極材料の取り扱いも始め、最近では電池材料に関する部分が大きくなり日本との取引も増え、注目を集めている。電池業界では、硫酸コバルト、硫酸ニッケルといった最も上流の原料を提供しており、日本が売り先の1位となっているということだ。
公式ホームページによると、現在の主要なソリューションは、「電池材料」「リサイクル技術」「酸化触媒」「コバルト関連製品」「ニッケル関連製品」となっているが、この5分類は、大きく「電池材料」と「酸化触媒」に分けることができ、現在の利益は、ほぼ同じになっているという。「リサイクル技術」では、酸化触媒を提供している企業に対して技術的なアドバイスを行い、使用済みの触媒をMechemaに回収し、リサイクルして製品にまで仕上げ返送する、という形をとっている。電池スクラップのリサイクルも行っており、回収したコバルト・ニッケルは、触媒・電池材料の両方に使用されている。
本社は台湾だが、韓国、タイ、インドネシア、マレーシア、中国にも酸化触媒の工場を持っている。これは、液体の酸化触媒は運搬が難しいので、提供先の国に工場を建設し現地で販売しているためということだった。
インタビューの最後では、今後の会社の目標や、方向性について語っていただいた。
「今後は、これまで通りの事業を発展させていくと共に、特にリサイクルには力を入れていきたいと考えています。現時点で、原料のうちリサイクル原料が占める割合は、およそ30%で、残りの原料はニッケル金属、コバルト金属を輸入することで賄っています。今後、リサイクル原料の割合を増やしていきたいですね。それが、製品のコストダウンにもつながると信じています。リサイクル原料はスクラップ回収業者を通じて主に工場から発生するバッテリースクラップを回収していますが、将来的には自動車メーカーから直接電池を回収することなども手掛けていきたいと考えています。
Mechemaは単純なサプライヤーではなく、顧客に問題があれば一緒に解決していけるような存在でありたいと考えています。これから先、リサイクルは多くの顧客にとって重要な問題になってくると思います。酸化触媒のリサイクル・電池リサイクル共に、力を入れていきたいです。」
応接室には色鮮やかな製品サンプルが展示されていた i.YUKO撮影
Mechemaには継続的に取材を行い、今後も最新情報をレポートしていく。ぜひご期待頂きたい。
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i.YUKO
IRuniverse取材記者、フリーライター、フリーランス通訳/翻訳者(日‐中)
2017年より台湾在住。3児の子育てをしながら、手作り食品の販売等、さまざまな活動を行う。
趣味は、手芸、石鹸作り、台湾料理研究、旅行。
*通訳、翻訳および台湾案内等のご要望は、MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話よりお問い合わせください。
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