タンタル・ニオブ業界団体TIC会長、Daniel Persico博士に聞く
10月16日から19日にかけてスイス・ジュネーブで開催された第63回TIC総会(Tantalum – Niobium International Study Center)は、世界タンタル・ニオブ・サプライチェーン上のステークホルダーが集まる会議だ。
→(関連記事)タンタルニオブのTICの第62回総会 ジュネーヴで開幕!
10月16日から19日にかけてスイス・ジュネーブで開催された第63回TIC総会は、世界タンタル・ニオブ・サプライチェーン上のステークホルダーが集まる会議だ。同会議は、タンタル・ニオブに関する動向・研究開発などの最新情報が入手できる数少ない場所である。今回この会議に現地参加したMIRUでは、会場にてTIC会長を務めるDaniel Persico博士へ取材、タンタル業界の現状について話を聞いた。同博士は、日本に5年にわたる駐在経験があり、日本事情にも非常に詳しい親日家でもある。
Q1:世界のタンタル供給の動向、特にタンタルの生産能力について教えてください。
Dr. Daniel Persico:
一般的な動向についてお話ししましょう。現在、供給量については特に問題はありません。総合的には、サプライチェーンは“健全“と言っていいでしょう。もちろん、ロジスティクスにおける問題が業界へ影響を及ぼすことはあります。しかし、目下のところ、ほとんどの処理業者は、円滑に事業を進めています。生産業者も事業を行う上で、十分なサプライを確保しています。一方で、業界が軽度のリセッションに直面しているという状況もあります。新型コロナ感染症蔓延により一時世界中で在宅勤務が主流となったため、コンピューターなどの需要が急激に増加しました。しかし現在、新型コロナの感染状況は最も厳しかった時期を過ぎました。そのため、同セクターの現需要は一年前との比較では低下しています。ただ全体的には大きな問題ではありません。サプライチェーン上の在庫の量はそこまで多くないため、比較的バランスが取れている状態です。需要については、今のところ、近い将来再び急激な増加が起こることは想定していません。
Q2:タンタルスクラップの世界的な需要供給については?
Dr. Daniel Persico:
スクラップセクターに限っては、私は密接に追っていませんが、会議に参加しているExotechの担当者が詳しいと思います。タンタルスクラップは、多数のロケーションから収集されています。量については、実際の統計を集めるのは非常に難しい。リサイクラーはどちらかというと手持ち在庫についての情報を公表したがりません。またスーパーアロイの生産者はの中には、工程内のスクラップをリサイクルする技術を持っている業者もいます。こうした業者は、自社内でリサイクルする、あるいは一定のサプライヤーと共にクローズドループを設置する傾向にあり、原料が一般市場に出てくることがほとんどありません。そのため、市場のスクラップ量がどんどん少なくなっています。比較的高価格な原料であるため、この傾向は長期的に続くことが予想されます。リサイクル技術に関して言うと、コンデンサは分離処理技術が必要になりますが、これについては特に問題はありません。市場は多様なスクラップフローを扱えるように発展してきました。ただ、スーパーアロイのリサイクルについては、タンタルやニオブの含有量が少ないこともあり、処理が最も複雑になります。
Q3:紛争鉱物規制に関する業界の取り組みについてはいかがでしょう?
Dr. Daniel Persico:
これまで業界は、15年以上にわたってITSCI *と連帯し、大きな努力をしてきたと思います。このセクターを牽引する同組織との協力で、中央アフリカにおける採鉱現場の現状を把握することが可能です。同組織のメンバーは、現地における紛争など政情や人権などに関する報告を定期的に受けています。もちろん企業は、ITSCIから受けた報告データを実証するため、サプライチェーンにおける独自のデューデリジェンスを行う義務があります。しかし、現地パートナーであるPACT**と協力するITSCIスキームのような体制なしでは、コーポレートコンプライアンス義務の遂行は難しいと思います。こうした組織には、ITSCIをはじめRCSグループのBetter Miningなどがあり、企業によるデューデリジェンス義務の遂行に大きく貢献しています。もちろん、紛争防止を保障するものではありませんが、紛争によるサプライチェーン上の原料への影響を最低限にとどめることに役立っています。
* ITSCI(International Tin Supply Chain Initiative)は、OECDガイドラインのもと、中央アフリカのような紛争地域における国際サプライチェーンの透明性を支援する組織。
**PACTは、40カ国で展開する国際NPOで、人間開発におけるソリューションを構築する
Q:紛争鉱物規制における博士自身のお考えは?
Dr. Daniel Persico:
そうですね、紛争させなければ問題はないのですが。。。サプライチェーンにとって、こうした規制への対応には、コストがかかります。そのため、最終的には消費者がコストを負担することになります。また、課税が増え、採鉱で働く労働者が受け取る額もある程度削減されていると思います。業界としての理想的なシナリオは、(ITSCIのような)サプライチェーンのイニシアティブを使う必要がないことです。しかしながら、こうしたイニシアティブ無しでは、SEC*やEUガイドラインへ対応することは難しいのです。もちろん完璧ではありませんが、必要なシステムです。TICと業界はこの組織と共に、システム自体を強化するよう協力しています。そして、監視を続け改善していくことで、紛争に関わらない鉱物を顧客へ提供していくことを目指しています。
*米国ドッド・フランク法によるガイドライン
Q:最後の質問ですが、近い将来日本で弊社と共にタンタル会議開催はいかがですか?
Dr. Daniel Persico:
それには常に興味を持っています!少し前にこうしたサミットをやりましたが、非常に良い結果を得ることができました。またIRuniverseと一緒にできればと思っています。登壇者の募集など、私が協力できることも多いと思います。時期としては、そうですね、準備期間を考慮すれば、来年の後半以降がいいかもしれませんね。ただ、来年10月にブラジルのリオデジャネイロで開催される次回のTIC会議と重ならないようにする必要があります。
取材協力:
Dr. Daniel Persico:
President
Tantalum-Niobium International Study Center
(Y. SCAHNZ)
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