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2024年問題 ― トラックドライバー不足

 トラック運送業界での2024年問題とは、働き方改革関連法に伴い2024年4月1日から施行される、ドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限されるために生じることが懸念される様々な問題を言う。

 

 ドライバーの雇用主が時間外労働時間の上限規制に違反した場合には罰則が設けられ、6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科される恐れがあり、雇用主としても上限を守らねばならない。

 

 上限となる年間960時間(月換算でおよそ80時間)は一般則の上限720時間より多いものの、既に深刻なドライバー不足に陥っているトラック運送業界のドライバーの置かれている現状と対応策の主だったポイントを国土交通省、厚生労働省、全日本トラック協会等の公開資料をもとに以下のようにまとめた。

 

 本稿の最後には陸上、鉄道、海上輸送の3輸送モード間でこの問題を少しでも緩和できないものか「モーダルシフト提言」としてみた。

 

問題点

 

 ドライバー不足

 令和4年6月時点でのトラックドライバーの有効求人倍率は2.01で、全職業の1.09の約2倍と高い。2030年度には約30万近くのドライバーが不足するとの予測もある。トラック運送事業者の99%は中小企業によって構成されており、その担い手のほとんどが中高年で、若手人材の確保・育成が大きな課題となっている。

 

  低賃金

 トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者で約5%低く、中小型トラック運転者で約12%低い。年間賃金を年間労働時間で単純に割ると全産業の時給は2,315円になるが、大型ドライバーは1,820円、中小型では1,735円にしかならない。

 

 長時間労働

 トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者で432時間(月36時間)、中小型トラック運転者でも384時間(月32時間)と長い。

 

 過酷な労働環境

 厚生労働省の発表だと、2021年度に国内で企業や官公庁などに雇用されている労働者は6千13万人で、脳・心臓疾患での労災認定は172件あり、業種別の内訳では、トラックドライバーら190万人が所属する「道路貨物運送業」が最多の56件で全体の32.5%を占め、雇用者に対する認定割合は全業種の平均の10.3倍。その背景には長距離運行が多い大型トラックドライバーの不規則勤務や長時間労働に起因する過酷な労働環境がある。

 

問題解決に向けての取り組み

 

ドライバー不足への対応

 ドライバーの待遇改善(全産業平均並の賃金の実現に向けた給与体系の見直し)、週休2日制の導入、有給休暇の取得促進、またドライバーから主任ドライバー、内勤の運行管理者、最終的には営業所長や支店長などに昇格していくという明確な将来像(キャリアパス)の明示を官民挙げてアクションプランとして策定・推進中。

 

 また、女性、高齢者のみならず外国人など多様な人材が活躍できる職場環境作りとそれを周知徹底する広報宣伝活動を官民連携による特設サイト、SNS上、また相談窓口などを設置して啓蒙している。

 

労働環境の改善 ― 待機時間の解消

 荷待ち時間や手荷役作業の削減等を通しての労働環境の改善。荷物の積み込みや積み下ろし時に発生する待機時間がドライバーの長時間労働を助長しており、荷待ち以外にも「朝8時必着」のような荷主の時間指定のある荷物が近年増えていることも不規則で長時間労働を助長する一因とされている。

 

 入出庫時の待ち時間を減らすには、荷主と連携したトラック予約受付システムの活用、手荷役作業の労力と時間を削減するには積荷のパレット化とフォークリフトやロボット(パワード)スーツなどの省力・アシスト機器の活用。

 

 手作業で直積みする場合とパレット積みのフォーク荷役では、積み卸し時間が 2 時間以上も異なるケースが見られるとのデータもある。但し、積載量の点では、パレット積みは直積みに比べて一車に積載できる貨物量が少ないというデメリットもあるので、短距離日帰り運行か長距離運行か、更に労働時間全体に占める荷役時間の割合が高いか低いかの総合判断が求められる。

 

労働生産性の向上

 上記の労働環境の改善に加え、以下のような方策と技術を通じての労働生産性の向上も無視できない重要な課題である。

 

1)適切な運行計画づくりと時間管理の徹底

2)荷主以外の倉庫等との協同による待機時間の削減

3)都市内共配の促進

4)共同宅配ボックスの設置利用

5)中継輸送の利用

 トレーラ・トラクタ方式、貨物積替え方式、ドライバー交替方式の3方式があり、特に長距離輸送の泊付き運行の分野において、労働時間や運転時間の短縮に役立つ。長時間労働となる1つの運行を複数のドライバーでワークシェアし、ドライバーの負担軽減に役立つ。

6)将来的には新しい車両技術の導入、例えば、1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」やトラック隊列走行などが長距離輸送の運行効率を上げ、省人化策として有望視されている。

 

法令遵守の徹底

 業界団体を通じてトラック運送事業者自らの法令遵守、安全対策の徹底をしつつ、悪質な事業者根絶に向けての努力。そのための業界団体と関連省庁によるパンフレット作製・配布と特設サイト等も既に開設されている。

 

荷主や一般消費者への理解の促進と協力

 安定的かつ健全な事業継続に必要な適正な運賃料金(「標準的な運賃」、燃料サーチャージ)の収受に向けて荷主と協議し理解・協力を得ることと。同時に改正標準運送約款に基づいた契約の書面化により、荷待ち時間、積み卸し作業、高速道路料金などを項目として盛り込み、別建てで収受することが可能。トラック輸送に関わるあらゆる項目の記録化、見える化により適正取引の推進が図られている。

 

 令和元年より貨物自動車運送事業法が改正され、荷主はトラック運送事業者が法令を遵守して事業を遂行できるよう、必要な配慮をしなければならない旨の責務規定が新設された。国やトラック協会では、荷主向けパンフレットを既に作成・配布している。

 

筆者の提言:モーダルシフト

 

 ドライバー不足に頭を悩ませているのはトラック運送業界だけでなく、港湾運送(港運)業界も同じである。港を出入りする船舶のみならず、コンテナなどの海上貨物の荷役に携わる港運労働者、コンテナを牽引輸送するドライバーも近年高齢化し、若年ドライバー不足に直面している。

 

 モーダルシフトとは陸上輸送をより環境負荷の少ない鉄道、海上輸送(フェリー等)に切り替えることで旧運輸省時代から長らく提唱されているが未だ大きな進展が見られず、依然として陸上トラック輸送に物流が大きく依存している。

 

 モーダルシフトが進まない原因は幾つかあり、「言うは易く行うは難し」の典型例だが、長距離トラック輸送が現在よりもう少しの割合で鉄道やフェリー等の船舶を利用した海上輸送へと転換できれば、ドライバー不足の解消にも効果があり、大都市圏での交通渋滞、地球温暖化がクローズアップされる現在では二酸化炭素(CO2)削減対策としてもある程度の効果が期待できる。

 

 国土交通省を旗振り役に官民挙げてモーダルシフトを推進する協議会が荷主団体、物流事業者団体、地方自治体、経済産業省をも巻き込んで存在しており、モーダルシフト等推進事業も多少あり、補助金も支出されているので、今後の進展がおおいに期待されるところである。

 

 米国の場合、日本と国土の広さでは比較にならないが、鉄道が港に乗り入れ、コンテナ船から降ろされたコンテナを鉄道貨車に積み替え内陸輸送を過去何年にも渡り実施している。欧州ではコンテナ輸送トラックがフェリーを使い国境を越え頻繁に行き来している。

 

 最後に

 ドローンや自動運転技術を駆使した荷物配送の実証実験も官民の協力の下で行われており、それが社会実装されるのはそう遠くない未来かもしれない。

 

 他の業界と同様トラック運送業界でも今後デジタル技術を駆使した業務の効率化・標準化、所謂デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められ、それによって書類や手続きの電子化すなわち迅速化が進み、ひいてはブロックチェーンを活用した物流・商流データ基盤の構築と社会実装をもが期待される。

 

 物流業界大手一部で始まっている共同輸配送、ドローン配送、貨客混載、インテリジェント倉庫内での自動ピッキング、無人部品搬送車導入等々の関連ノウハウと技術が中小トラック業者に導入されるにはまだ多くの時間を要すると思われるが、未来予測は確実に効率化・自動化・省人化に向かっている。共同輸配送やドローン配送などは高齢化が進む過疎地域では今現在すぐにでも導入し効果を発揮してもらいたいものである。

 

 Eコマースが当たり前の昨今においては、事業者のみならず一般消費者としても「送料は決して無料でない」という意識改革をすることにより、再配達の削減に向け、例えばコンビニ宅配受け取りや自宅での受け取りポストの設置などへの協力も2024年問題解決に向けての大きな一歩となるであろう。

 

 

(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現材はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

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