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TECHNO FRONTIER 2025 モータ技術展でみた東芝・ABB・Nidecが描くレアアースに頼らないモーター戦略

 

2025年5月28日から30日にかけて東京ビッグサイトにて「TECHNO FRONTIER 2025」が開催され、モータ技術を中心にパワーエレクトロニクス、センサ、計測技術、さらには製造DXや工場最適化ソリューションなど、ものづくりを支える幅広い要素技術が一堂に会した。
本記事では「モータ技術展」に焦点を当て、レアアースを使用しないSynRM(同期リラクタンスモーター)やIM(誘導モータ)の開発に取り組む企業の事例を紹介する。

 

地政学リスクを乗り越える──東芝が注力するSynRMの可能性

 


 
 東芝産業機器システムはレアアースに依存しない省資源モーターの重要性を早くから認識しており、2015年のモータ技術展においてSynRM(を参考出展した。以降、試作や評価を重ねて2019年には高効率モデルの性能を実証。2023年10月には正式に商品化を果たし、実用段階へと歩みを進めている。

 SynRMはPM(永久磁石モーター)に比べてトルク性能では劣るものの、制御性やメンテナンス性に優れており、ロシアや中国といったレアアース産出国の地政学的リスクの影響を受けずに量産できるという利点を持つ。同社では開発した高効率型SynRMのフレームサイズを従来のIMと同等のものを採用し、IMからSynRMへの置き換えがスムーズに行えるよう設計している。また、IMの標準インバータとも共用可能で、既存設備とのサイズ互換性にも優れているため現場での導入ハードルは低くなっている。

 同社のSynRMは1.5kWから7.5kWまで展開しされており、すべての機種で効率規格の最高レベルである「IE5ウルトラプレミアム」を達成している。

 レアアースを含む磁石の使用は、価格の変動や地政学リスクといった不確実性を常に抱えている。実際に同社のPM開発部門では、中国からのレアアース調達が難航しており対応に追われているという。また、2025年に改正された資源有効利用促進法により、プラスチックやレアアースを含む製品は再資源化しやすい設計(デザイン・フォー・リサイクル)が求められるようになった。PMは高速回転時の磁石の破損・飛散リスクなどを防ぐために構造を堅牢に設計する必要があるが、これが製品のリサイクル性を損なう要因となる。法規制によるデザイン・フォー・リサイクルに関する規制が今後厳しくなれば、PM設計の自由度を制限する可能性があるだろう。

 同社はPMやIMの開発を継続しつつも、将来的にはSynRMのラインナップを15kWクラスまで拡充し、さらにニーズに応じて45kWまでの拡大を見据えているとのことだ。

ABB、IE5対応SynRMで脱レアアースと高効率を両立

 


 
 スイス・チューリッヒに本社を置くABBは、2040年までに2倍に増加すると予測されるモーター由来のエネルギー消費を抑制し、持続可能な社会の実現を目指している。中でも、同社が開発に力を注いでいるSynRMはレアアースを使用しないことから資源採掘が不要で廃棄物の発生を抑えられ、環境負荷を低減できるという特長を持つた。

 ABB製SynRMは、巻線および軸受けの温度が低く保たれる構造となっており、モーター本体のみならずベアリングの寿命も延長される。これにより、メンテナンス時に必要となるグリースの使用量も大幅に削減され、環境負荷の一層の軽減に貢献している。

 

 
   
 ABBのSynRM製品は欧州市場を中心に、製品ライフサイクル全体での環境負荷を可視化・最適化する設計思想のもと「Eco Solutions」というブランドラベルで展開されている。EcoSolutionsのすべての製品には国際的な第三者認証を受けたType III 環境製品宣言(EPD)が付与されており、資源効率やリサイクル性といった循環型設計の情報が明確に示されている。

 ABBは環境規制が厳しいヨーロッパにおいてもISO 14025やISO 14040など国際的な基準に準拠したサステナビリティ評価を適切に運用し、EUの環境フットプリント規格にも適合する高い透明性と信頼性を持った製品開発を強みとしている。同社は今後もこうした技術と姿勢を軸に、環境対応製品のさらなる展開を進めていく考えだ。

 

自動車業界の地政学リスクに対応するNidecの次世代誘導モーターE-Axle 

 


 
 産業用モーターの約6割を占めるIMは、長年にわたり産業現場で主流の駆動源とされてきた。その一方で世界的な脱炭素の流れを受け、モーターの効率規制は年々強化されている。こうしたなか、Nidecはこれまで培ってきた高効率IM技術を自動車分野に応用し、レアアースを使わない磁石フリーの高出力密度・高効率E-Axleの開発に取り組んでいる。

 自動車向けIMの開発構想は2021年に始まり、2022年から本格的に本格稼働した。従来、自動車の駆動用モーターには高効率・高出力なPMが用いられてきたが、レアアース資源に依存するPMは地政学リスクの影響を受けやすい。実際、コロナ禍やウクライナ危機によってサプライチェーンの脆弱性が顕在化した。

 ただし、IMはPMと比較して出力密度や効率が劣り、大型化するという課題がある。同社はこれらの課題を克服するため、極数切替え技術によって従来比25%の出力向上を実現し、高強度・高靱性材料の開発によりギア部を約10%軽量化した。モータの小型化には、高速回転(約3万回転)の実現でも対応している。さらに、インバータ制御技術にも注力してインバータ効率を1.4pt改善するなど、多角的な改良を重ねてきた。

 同社が開発した磁石フリーE-AxleはEVやHEVの駆動輪に搭載されているPMとの代替を視野に入れているが、非駆動輪(受動輪)に採用した場合にも引きずり損の低減が見込めるという。すでに複数の自動車メーカーにこのE-Axleを紹介しており、好反応を得ていることから、現在は実車試験に向けた段階にある。

 自動車への実装には設計変更などクリアすべき課題も多いが、Nidecはこれを一つひとつ着実に乗り越え、脱レアアース時代に適応した次世代の磁石フリーE-Axleの普及を目指している。

 


 小型軽量で高効率高出力、さらに制御製に優れるPMは幅広い分野で使われている。一方で、PMの性能を上げるためにはレアアースの使用が必要不可欠であり、地政学リスクやリサイクルへの対応、資源が有限であるという課題を持つ。これらの課題を回避できるSynRMやIMは、近年その存在価値が高まりつつある。今後、コスト競争力や互換性、制御技術との親和性をさらに高めながら、産業機械から自動車まで幅広い分野で「次世代標準」としてのポジションを確立できるか今後も注視していきたい。

 

(IRuniverse Fushimi)

 

 

 

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