BatterySummit2023 at Hilton TOKYO 講演会(午後の部)
1月30日と1月31日の2日間、東京都新宿区のホテルであるヒルトン東京にてIRuniverse株式会社主催による「BatterySummit2023 at Hilton TOKYO」が開催された。
今回の記事では午後の部の講演者と内容について簡単に紹介する。
株式会社ロボデックス 代表取締役社長
貝應 大介氏
午後の一番手は株式会社ロボデックス 代表取締役社長 貝應 大介氏の「水素でドローンは進化する」という講演だ。
IRuniverse株式会社で以前取材を行った内容をご覧になった方はご存知の通り、水素燃料電池を使う大型のドローン「Aigis One」を製作した企業である。
ドローンに対するテクノロジーとしてリチウムイオン電池が用いられやすいものの、産業用途としては出力不足である現状に対し、エンジン搭載機に近い性能でありながら環境負荷に配慮をしたのが水素燃料駆動のドローンであるという。
とはいえ民間に対して降りてくる水素タンクの性能は自動車の物と比べて低く、また肝心の水素ステーションも充填量の少なさ等の理由で利用ができない。より水素燃料を利用したドローン等が活躍出来るよう、利用の間口を広げる働きかけを法律等の面でも行うべきであると語った。
FREYR Battery Japan Manager Director
Rune Nordgaard氏
FREYR Battery Japan Manager DirectorのRune Nordgaard氏は「FREYR Battery」について講演を行った。
同社が日本に進出しようとしたきっかけは、ずばりバッテリー周りの技術の高さ故であるという。
ノルウェーは自国で消費するエネルギーの大半が再生可能エネルギーで賄われており、電気自動車の生産拠点はなかったものの国策として電気自動車の周辺機器生産に全力を傾けた実績がある。
実際に同社は日本電産株式会社(Nidec)と協力関係にあり、またバッテリー生産の効率化も推し進めている。
業界をリードする為にも、よりCO2の削減と事業規模の拡大を狙いたいとの事であった。
Electra Battery Materials Vice President
Commercial PhD in Economics Mr.Michael Insulan
Electra Battery Materials Vice President Commercial PhD in EconomicsのMr.Michael Insulanは「Building a North American battery supply chain」と題された講演を行った。
カナダ発の2016年設立企業とかなり社歴は若いものの、オンタリオやケベック、アイダホなどで積極的に活動を行い地固めを行いつつある。
現在コバルトを輸入する体制にある日本に対し、同社は日本に向け出荷をしたいと意気込んでいる。その上でカナダで業務を行う際にはファーストネーション(先住民族)との対話が欠かせない。
同社はその点に対しても強いパイプを持っており、日本とカナダの間で事業を行いたい企業があれば大きな役割を果たすとの姿勢も見せていた。
Benchmark Mineral Intelligence
Mr.Andrew Miller, COO (U.K.)
Benchmark Mineral Intelligenceの英国COOであるMr.Andrew Millerは「BUILDING SUPPLY CHAINS FOR THE LITHIUM ION ECONOMY」というタイトルで講演した。
同社はリチウムイオン電池関連のマーケットに対するデータを扱っている企業である。
その事業は社内において原料をはじめとした様々な情報の専門家がいる事で支えられている。
現在リチウムイオン電池の開発においては生産側が悲鳴を上げている状態であり、採掘機材の投入が間に合っていないケースや生産の為のインフラ、あるいはそれに従事するベテランの作業員の不足といった要素が重なる不協和音の状態である。
価格上昇が続くリチウムイオン関連事業に対し、ひっ迫の傾向は決して楽観できるものではないと警鐘を鳴らした。
会場からの「炭酸リチウムについて、LME指標のような絶対的な指標というものは存在しうるのか」という質問には「コモディティとしてまだ定着していない面はあるが、あるのが望ましいと思っている」と答えた。
INTERNATIONAL LITHIUM ASSOCIATION (ILiA)
Secretary General Mr.Roland Chavasse
「The International Lithium Association: supporting the global lithium industry」というタイトルで講演を行ったのは、INTERNATIONAL LITHIUM ASSOCIATION (ILiA)のSecretary GeneralであるMr.Roland Chavasseだ。
これまで人類社会は石炭火力から化石燃料、ガスを経て現在リチウムイオン電池の開発に行き着いている。
クリーンかつサスティナブルなこの製品であるが、意外と電気自動車の保有者はまだまだ少ない状況である。
リチウム産業においてはその代表となる組織が存在せず、様々なクレームや問題に企業が個別に対応する事例が数多く存在した。
そこでILiAは一年半前に創設され、多くの企業が組織としてまとまる事でリチウムイオン電池生産に対する過剰な制限や、あるいは採掘のルールなどを調整し円滑に事業が行える様にしているのである。
現在、リチウム関連産業に携わる多くの企業がその名を連ねているとの事であった。
会場から「EUはリチウムを危険物として強い規制をかけようとしているが、それについてどんな対応をしているのか」と尋ねられ、Chavasse氏は「大変憂慮している」と返答。その上で「そうした規制はリチウムの活発な利用を妨げるものだ。それを止めるためにもILiAはもっと声を上げなければいけない」と述べ、サミット参加者にも支援を呼びかけた。
ACE Green Recycling, Inc. Business Director
Mr.Siddharth Roy
コーヒーブレイクを挟んだ最初の講演者であるACE Green Recycling, Inc. Business DirectorのMr.Siddharth Royは「Introduction to commercial modular, Emission free LIB Recycling」という講演を行った。
同社は社名通りのリサイクル事業を中心とする企業であり、リチウムイオン電池に対するリサイクルの重要性を訴えた。
現状バッテリーの生産が追いつかない状況であり、必要数を満たすためにはリサイクリングも積極的に行わなくてはならない。
しかしリサイクル向けの大規模な処分施設やスクラップ場が無いという地域も存在する。そこに対しては設営の行いやすいモジュールタイプの施設を提供する。
また処理コストが多いLFP電池に対しても、率先して事業化しているとの事であった。
SungEel HiTech Co.,Ltd. vice president
Yum Kwang Hyun氏 (韓国)
SungEel HiTech Co.,Ltd.のvice presidentであるYum Kwang Hyun氏は「A Paradigm Shift in Battery Recycling」と題された講演を行った。
リチウムイオンバッテリーのリサイクル事情は産業を大きく変える可能性があるという。
昨今ではあらゆる産業が生産と消費を直線状に行う社会から、循環型の消費社会へ移りつつある。
社会的なニーズがその行為に付随しているのを示すかの様に、年間で37%もリサイクル市場は拡大を続けているのである。
とはいえ直接リチウムイオン電池の正極だけをリサイクルするというのはあまりに環境負荷に対する配慮が無いやり方である。
湿式製錬や乾式製錬ではそれぞれ排水やCO2といった環境負荷が出る為、環境に対しより負担の少ないリサイクル方式の出現が待ち望まれているとの事だ。
Recyclekaro.com FOUNDER
Rajesh Gupta氏(インド)
Recyclekaro.com FOUNDER Rajesh Gupta氏 は「Lithium Ion Battery Recycling」という題目で講演を行った。
同社の社名であるリサイクルカロという言葉は、英語に直せば「Do recycle」といった意味合いになるのだという。
同社は2010年設立の企業であり、現在に至るまで着実に事業を拡大している。
同社は回収されたバッテリーを放電し湿式製錬を行っている。
そこでリン酸銅や硫酸コバルト、炭酸リチウムを生産しているとの事だ。
特に炭酸リチウムに関しては、バッテリーに含有されている物に近いレベルにまで製錬の精度が上がっているとのことであった。
現状インドではe-Wasteは増加傾向にあるため、まだまだ市場は拡大するとの事である。
BYD COMPANY LIMITED 日本商務部 総括部長
兼BYD Tokyo Office総代表 陳浩氏
BYD COMPANY LIMITED 日本商務部 総括部長兼BYD Tokyo Office総代表の陳浩氏は「BYD Blade Battery for Future」と題した新製品の発表講演を行った。
BYDは現在電気自動車とリチウムイオンバッテリーの双方を制作する企業として活動している。
同社が手掛けているのがNCM電池(ニッケル・コバルト・マンガン)であり、レアメタルフリーの電池として注目を集めている。
更にこの電池を細長い板状に仕上げた「ブレード電池」を開発。これは形状の細長さから自動車のシャシーに合わせた構造材としても利用する事が可能であり、それでいて従来の角型リチウムイオン電池よりもローコストであるという。
今後同社が生産する車輌に対して、「Cell to PackからCell to Bodyへ」を合言葉に逐次ブレード電池を搭載していくと語った。
EcoNiLi Inc/ CarbonX Global Group
CEO Mr.Jayden Goh
EcoNiLi Inc/ CarbonX Global Group CEO Mr.Jayden Gohは「Challenges in Japan Li-ion Recyling Industry」というタイトルで講演した。
現在日本と米国で電気自動車が伸びつつある状況ではあるが、やはり中国とEUは頭一つ抜けている状態である。
そんな中でリチウムイオン電池についてはリサイクルよりもリユース(再利用)が進んでいるとの事だ。
リチウムイオン電池を処理した際に出てくる濃残渣の「Blackmass」は再生産はもちろんリサイクル技術の研究にとっても必要なものであるが、中国では電気自動車の助成金が消滅した事でバッテリーをリユースする動きが大きくなっている。
本当に循環型社会を目指すのであるならば、使用したものを適切にリサイクルする「クローズ・ループ」型のリサイクル体制を築いていかなければならないと力説していた。
会場からは「EcoNiliが立地するインドネシアやマレーシアでは廃棄物の輸入が厳しく規制されている。ブラックマスもある種の廃棄物だが、プラントに搬入できているのか」と問われた。Goh氏は、同社は現地に多額の投資をして新たな雇用を生むなど地域経済の発展に貢献していることを強調。そうした貢献によって「特別な許可(special permit)」を得て事業展開ができているとした。
COREMAX CORPORATION(康普材料科技股份有限公司)
総経理 何柏樟(Eugene Ho)氏
COREMAX CORPORATION(康普材料科技股份有限公司)総経理の何柏樟(Eugene Ho)氏は「新時代、CoreMax はどうやって日本の電池原料産業に貢献し、サポートし続けるのか」という題で講演を行った。
同社は自動車生産業向けの素材生産企業としてIATF認証を取得している。
そんな同社は電池材料に向いた硫酸コバルトや硫酸ニッケルを取り扱っており、地金であろうが中間体であろうが加工が可能であるという。
元々2011年創業時にはこれらの素材はメッキ用途で使われており、現在の様に電気自動車向けの素材として使われるとは思ってもみなかったという。
とはいえ米国のIRA法や欧州での規制に向けた動きに対しては、日本も台湾も自動車産業の縮小と素材の輸入依存という共通項を持った存在である。その為政府が積極的に対策を打ち出す必要性があると語った。
台湾工業技術研究院(ITRI) 駐日代表 国際長
楊 馬田 博士
プログラムの最後を飾るのは台湾工業技術研究院(ITRI) 駐日代表 国際長の楊 馬田 博士の講演である「Taiwan Battery Industry and The Collaboration with Japan」だ。
ITRIが存在する台湾は九州とほぼ同じ面積であり、主な産業としては半導体や電子産業にマシナリー(工作機械)が盛んとなっている。
出荷物もそれに付随する技術であるノートPCや半導体、ネットワーク機器等が主な品目となっている。
現在までITRIは累計で210社の企業の設営に関わりがあり、積極的にベンチャー企業の育成を行っている。
派生企業として投資を行う専門企業のITICを持ち、日本の三菱UFJキャピタルと連携する事で資金面でも起業支援を行っている。
なんと話題のTSMCもITRIの薫陶を受けた企業である。
これからの社会に向けてエネルギー、インダストリー、ライフスタイル、ソサエティそれぞれにX(トランスフォーメーション)が必要であり、その為のツールとして電気自動車であったりリチウムイオンバッテリーが活躍していくのだと語った。
以上が午後の部の講演である。
多くの人が参加している会場の雰囲気
(IRuniverse ICHIMURA)
関連記事
- 2025/07/12 欧自動車ステランティス、中国合弁が破産 国産車人気にあらがえず
- 2025/07/11 PFU ビン色選別やLiB検知の廃棄物分別特化AIエンジンを開発(後)
- 2025/07/11 PFU ビン色選別やLiB検知の廃棄物分別特化AIエンジンを開発(前)
- 2025/07/11 東レリサーチセンターと積水化学 二次電池評価試験に関する連携開始
- 2025/07/11 ビスマス輸入Report#4 中国取引制限後 韓国から大阪への輸入集中
- 2025/07/11 よう素輸出Report#7 2025年輸出平均単価下落に合わせて輸出量増加
- 2025/07/11 アンチモン輸入Report#17塊粉 輸入平均単価 1年半で5倍上昇
- 2025/07/11 アンチモン輸入Report#16酸化物 2025年5月まで16か月間で輸入平均単価5倍上昇
- 2025/07/10 インドからの風:鉄鋼・資源生産は増加、製造業PMIは3カ月ぶり低下
- 2025/07/10 経済産業省の重要鉱物安定供給確保に向けた取組方針:戦略的分析と展望 その3