リチウムSpecial①リチウム争奪戦はOEMによる直接投資の時代へ(前編)
1月31日、筆者が新宿ヒルトンホテルで開催されたIRuniverse主催のバッテリーサミットに参加していた同日、アメリカ自動車メーカーであるGMがリチウムの開発をする鉱山会社Lithium Americaに出資をするという大きなニュースが飛び込んで来た。
業界内にいればこうしたOEMによる上流直接的な関与は最近見られた動きであり驚きはないのかもしれない。フォルクスワーゲンやストランティスが地熱由来のリチウムを開発するVulcan Energyとリチウムの引取契約を結び、TeslaはPiedmont Lithiumと似通った引取契約を持っている。しかしその金額である。なんと6億5千万ドルである。日本円にして約850億円もの巨額を自動車メーカーがバッテリー素材の一つでしかないリチウムを確保するために拠出したのだ。Lithium Americaはここ数回の四半期決算説明会のたびにネヴァダのThacker Passプロジェクトの開発パートナーを探しているという話があったのでGMの名前は『あーそうか 良いパートナーを得たな』と思ったのだがこの金額にはさすがに驚いた。
GMが6億5千万ドルの出資の引き換えに得たのは前出のプロジェクトから生産される予定の炭酸リチウム8万トンである。予定というのには理由がある。それを説明する前にリチウムソースのおさらいをしておきたい。
リチウムは大別して3つの資源ソースがある(地熱を含めると4つだが高温高圧化での商業生産が可能なのかまだわからない部分が多いので本稿では割愛する)。
まず塩湖である。これは塩湖の水を汲み上げて東京ドーム何個分といったような広大な敷地に作られたポンドと言われる蒸発池で1-2年天日干しにし、6%程度に濃縮したものを精製して主として炭酸リチウムを作る(水酸化リチウムも作れるが精製の順序として炭酸リチウムを作った上で水酸化リチウムを作るのだがこの工程は不可逆の関係にある)。チリとアルゼンチンが主なロケーションでリチウムでは老舗のAlbemarleやSQM、化学品メーカーのFMCからスピンアウトしたLiventなどが主だった生産者でこの3社はリチウムでは鍵となる電池グレードのリチウムを作ることができる数少ないリチウムの主要なプレイヤーだ。
2つ目に通称スポジュメンと呼ばれるリシア輝石がある。これは塩湖の水とは大きく異なり『輝石』の文字通り鉱石である。塩湖がチリやアルゼンチン、アメリカのグレートソルトレイクや中国の青海などに偏在するのに対して輝石は世界に広く分布しておりオーストラリアを筆頭にカナダ、アメリカ、ブラジル、マリ、DRC、ジンバブエなど各地でプロジェクトが立ち上がっている。ただ注意しなくてはいけないのは車載電池に使われる99.5%以上の電池グレードと呼ばれるリチウムは鉱石を生産している国で作られるわけではなくほぼ中国のみで寡占的に生産されていることだ。裏返しに言えば鉱石を生産している国はリチウムを精製する技術がないのだ。従って下記のリチウム生産国のチャートを見てみるとオーストラリアが世界一のように見受けられるが実は中国がオーストラリアと中国の合算分を生産しているので中国が圧倒的な生産量を誇るリチウム大国になっていることに注目してもらいたい。中国はコンバーターと呼ばれる鉱石を不純物の少ない水酸化リチウムに仕上げるプロセスに圧倒的に強く、鉱石由来のリチウムを精製することにかけては右に出るものがいない。
この塩湖と鉱石がリチウムの実績のある二大ソースなのだがいずれにしても車載電池に使用される電池グレードの炭酸リチウム/水酸化リチウムを作れる会社は世界中を探しても何社もいないことに注目してほしい。これまでEV自体の市場がなかったことが主因で塩湖にも鉱山にも開発資金が投下されて来ず、従ってリチウムを精製する技術にも大きな進展が得られなかった経緯がある。
炭酸リチウム相場の推移 USD/kg
2023年2月の時点ではいまだにトン当たり7万ドル(キロ当たり70ドル)以上の高値をつけているリチウムだが2020年11月頃までは中国のスポット取引で4500ドルでも買い手に困るような時代があった。
たった3年間のことだが価格差にして15倍。嘘のような本当の話である。長期契約は当時12000ドル前後が主流だったと記憶しているが2万ドルで買っている日本の会社もあった。リチウムは取引価格が非公表の相対取引が主流なので実際の価格を詳細に知るのは難しいがそれにしても6倍近い価格差がある。Elon Muskがお金を自分で刷るほどリチウム事業は儲かると言ったのはこの利益マージンの大きさにあるのだ。
→②に続く
https://www.visualcapitalist.com/visualizing-25-years-of-lithium-production-by-country/
英語記事はこちら
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(株)Resource Play代表取締役
(株)UMCリソーセス スーパーバイザー
千村 央
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