リチウムSpecial②リチウム争奪戦はOEMによる直接投資の時代へ(後編)
前回記事:リチウムSpecial①リチウム争奪戦はOEMによる直接投資の時代へ(前編)
最後のソースとして挙げられるのが粘土だ。ここで言う粘土というのは化粧品のファンデーションに使われるような非常に細かい粒子の文字通り粘土のことだ。立ち上がっているプロジェクトとしてはアメリカ ネヴァダ州とメキシコ ソノラ州が挙げられる。
今回GMが出資すると発表したLithium AmericaのThacker Passプロジェクトはその中でも一番生産に期近で北米では最大の埋蔵量を誇る最も有望と言っていいプロジェクトだ。リチウムに詳しい読者であれば聞いたことがあるかもしれないがトヨタ自動車とパナソニックが共同出資するプライムプラネットエナジー&ソリューションズが昨年7月末にリチウムの引取契約を結んだIoneer社もネヴァダで粘土リチウムのプロジェクトを開発している有力な企業だ。Teslaも同様にネヴァダにプロジェクトを保有しており、さらには粘土から『塩』を使用したプロセスでリチウムを回収するフローシートのパテントまで持っている。
さて、筆者が本稿①の序段でGMとLithium Americaのプロジェクトで『生産する予定だ』と言った理由を説明する。
まずLithium Americaはネイティブアメリカンを中心とした住民の反対を受けており係争状態にある。1月頭に裁判所のヒアリングがあり、向こう2ヶ月で結審するとの談話が判事より出ているので3月頭には裁定が下りるものと思われる。住民側に有利な裁定が下ればさらなるプロジェクトの遅延になる。注意しなくてはいけないのがプロジェクトの近くに実際に居住している住民は賛成の立場をとっていることだ。従って住民の反対と言っても鉱山の開発によって直接的に影響を受ける住民が提訴している当事者ではないことには留意してもらいたい。
筆者はLithium Americaを買収したWestern Lithiumの社員であったので(Western Lithiumは買収後にLithium Americaに改名した)実際に現場を訪問し自分の目で確認しているがプロジェクト予定地の近くには鉱山開発を制限するようなものは散見されない。Winnemuccaという人口8000人ほどの街が近郊にあるが基本は薄っすらとした草が生えている特段なにもないところだ。古くから金の採掘で鉱山フレンドリーと言って差し支えないネヴァダ州で水力・電力・道路・線路と鉱山開発に必要なABCが全て揃っているThacker Passプロジェクトが開発されないとなると今後アメリカでの他の新規鉱山開発にも影響が出てくるのではないかと思料する。
https://www.usgs.gov/media/images/winnemucca-nevada-grassland
次に技術的な問題がある。Thacker Passプロジェクトは古くはオイルのスーパーメジャーの一角であるChevronが保有していて彼らは独自にリチウムを精製する方法を開発しパテントを取得している。当初Thacker PassプロジェクトもChevronに似た製法を検討していたが現在は硫酸で溶かす方法に変更している。これはLithium Americaの株主でありアルゼンチンで同社が開発するCauchari-Olarozプロジェクトのパートナーでもある中国のGanfeng Lihitumの技術支援によるところが大きいが、粘土からのリチウムの商業生産実績は過去一例もないのだ。もちろんパイロットプラントでの精製には成功していて電池グレードが生産できるとプレスリリースでも喧伝しているがパイロットプラントから商業生産規模のスケールアップをして実際に電池グレードの炭酸リチウムが作れるのかどうかはやってみないとわからないのだ。
以上2つの理由により筆者は『生産する予定』だと冒頭に言ったのだが紆余曲折しながらも近い将来に電池グレードの精製には成功すると思っている。また成功しなればいけない。
周知の通りバイデン政権はIRA、通称インフレ抑制法を制定したのでアメリカでEVを販売にするには一定の原材料を米国内ないしは米国と深いつながりのある西側の国から調達しなくてはならない。Thacker Passはその埋蔵量の大きさからしてアメリカのEV産業を支える重要な役割を担わなくてはならないのだ。
リチウムはElon Muskが言うように世界中にあり埋蔵量を不安視するようなコモディテイィではない。しかし本稿で触れたように電池グレードと呼ばれる99.5%以上で且つ残りの0.5%にもマグネシウムなどの電池の故障につながるような金属不純物を取り除いた高純度のリチウムは簡単には作れない。またLithium Americaの例をとってみればプロジェクト開始からすでに15年もの月日が経過している。もちろんEV市場がなかったためにプロジェクト運営が難しかった時期もあるが鉱山開発は一般人が想像するより圧倒的に時間がかかることは覚えておく必要がある。
OEMが次々とバッテリーのギガファクトリーの新設を発表しているがギガファクトリーの建設に2年かかるとして原材料のリチウムはどこから調達するのか。リチウム価格が高騰したおかげで開発サイドのインセンティブが働き世界中でリチウムプロジェクトが立ち上がったのは事実だが実際にすべてのプロジェクトが滞りなく立ち上がることはあり得ない。ギガファクトリーの立ち上げスピードと鉱山のそれでは比較にならない時間差があるのだ。
この問いをOEMの中でも深く理解した結果が今回のGMのアクションなのだろう。GMはLithium AmericaだけでなくSalton Seaで地熱由来のリチウムプロジェクトを手掛けるControlled Thermal Resourcesにも出資している。出資ではないがリチウム以外でも豪州でQueensland Pacific Metalsとニッケル及びコバルトを、韓国Poscoとは人造グラファイトを、カリフォルニア州Mount Pass鉱山を原料にするMP Materialsとは磁石に使用するレアアースを、其々戦略的提携のような形で数量を確保できる契約を結んでいる。
鉱山は採掘許可に始まり採掘・発見・鉱量・開発プラン・インフラ(電力・水力・輸送)・技術リスク・住民の同意・当該政府の開発許可・開発融資と生産に至るまでのハードルはとても多くまた容易ではない。実際にRio Tintoは長らくセルビアでリチウムプロジェクトを開発していたが住民の反対に遭い撤退せざるを得なくなった。SQMも現在リチウム精製に使用している水の使用量を近い将来半減させなくてはならない。生産を開始していても安穏とできないのが資源開発の常であることを理解し、少なくとも一つのプロジェクトが開始されて生産に至るまで10年前後掛かることを考慮に入れれば今回のGMのLithium Americaへの出資は当事者からすると当たり前だったのかもしれない。今後こうしたOEMの鉱山開発サイドへの直接投資による原材料確保の動きは加速していくように思われる。日本勢では豊田通商やプライムプラネットアース&ソリューションズに阪和興業などが頑張っているが是非こうした世界の競争に遅れずに頑張っていただきたい。
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さて、筆者は今回はじめてBattery Summitに参加したのだが会場は立ち見が出るほどの盛況であった。ノーベル賞を受賞された吉野先生をはじめNorthvolt創業メンバーである阿武氏のグリーン調達についてのプレゼンテーションや首都大学東京の金村先生の負極材の改変による電池容量の拡張のお話など非常に面白いカンファンレンスであった。欲を言えば日本のOEM各社の原材料調達の方針やリチウムメジャーと言っても良いようなSQMやAlbemerle、中国のTianqiやGanfengによる市場見通しやプロジェクト開発についても聴くことが出来たらとても面白いと思うがこうしたカンファレンスを日本で開催し継続していくことは日本の業界にとても大切なので関係者のご努力に感謝申し上げたい。
英語記事はこちら
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(株)Resource Play代表取締役
(株)UMCリソーセス スーパーバイザー
千村 央
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