シップリサイクル ー 鉄の優位性
1月27日付け英国海事メディアMaritime Advocateが伝えるところによると、バルチック海運取引所の委託により、米国の海事コンサルタント会社Zuoz Industrial LLCが行ったドライバルク船(ばら積み船)(注1)の価値に関する調査は中古ドライバルク船の投資家にとっては歓迎すべき内容、つまり最近のリサイクル鉄価格の高値安定だ。
その調査では、長期的なシップリサイクル価格の上昇が中古船価(船齢5年)に与える潜在的な影響について分析した。リサイクル鉄は、バージン鉄と比較してカーボンフットプリント(CFP)が低いことから、ますます人気の選択肢となっており、鉄のリサイクル価格の上昇が長期的傾向であるかどうかを論じている。2022年4月の高値から20%下落したものの、軽量鉄鋼の価格は520ドル/ldt(注2)で、2009年以降の平均の2倍以上となっている。
「ここ数年にわたる高値傾向が真に需要に基づいたものであれば、特に昨今の軟弱な運賃市場において、中古ドライバルク船への投資リスクは減少したことになる。」と調査報告執筆者は述べている。
バルチック海運取引所は、バルチック海運指数(Baltic Dry Index)(注3)に加えて、主要なドライバルク部門の投資家向けインデックス、Baltic Exchange Investor Indices (BII)も発行しており、その中には、リサイクル価値に対する船舶の残存価値の比率であるバルチック残存リスク指数、5年間の定期用船契約に基づいて収益を確定、運用コストを加算することにより、船齢5年の船舶の評価損を数値化したバルチック残存価値指数などがある。投資家に対して、ドライバルク船(ケープサイズ、パナマックス、スープラマックス、ハンディサイズ)の各船型別の情報を提供している。
以下はZuoz Industrial LLCによる報告書本文の要旨部分の筆者による仮訳。英語原文(4ページ)をご希望の方はnagai@iruniverse.co.jpまでご一報ください。
ネット・ゼロの追求により、リサイクル鋼材の価値は引き続き上昇し、残存リスクも低減する可能性がある。
リサイクル鋼板は比較的低いカーボンフットプリントであるため、需要は堅調に推移する可能性がある。
リサイクル価格の持続的な上昇は、長期的に残存リスクを低減する可能性がある。
ドライバルク市場はここ数年非常に低迷しており、バルチック・ドライ・インデックスは2月8日現在603。これは歴史的な低水準に近づいた2020年以降で最も低水準。一方、2021年第4四半期から市場の下落傾向が始まったものの、ドライバルク船の資産価値は2021年夏まで安定上昇した。資産価値は、2022年夏にかけての緩やかな運賃の改善によって支えられたことに加え、ドライバルク船の発注量が数十年来の低水準にあることも資産価値を支えている。このような運賃市場の低迷が続く中、ドライバルク船の資産価値はここ数カ月で下落した。
シップリサイクルの単価(LDT)は、2022年4月の高値圏から20%以上下落したが、現在のリサイクル価格は520ドル/ldtと、2009年以降の歴史的平均値(主要リサイクル市場のバルカーの平均値)の2倍以上である。
(注1) ドライバルク船:鉄鉱石・石炭・穀物といった乾貨物(ドライカーゴ)を運搬する外航不定期船(ばら積み船)のこと。この運賃指数がバルチック海運指数。
(注2) LDT はlight displacement tonの略で軽貨排水トン数を意味し、スクラップの単位に使われる。本船そのものの重量(装備品、ボイラーなどを含み、バンカー、貨物、食料などの貯蔵物、水などを除いたもの)で、主に本船で使用されている鋼鉄の重量に等しい。
(注3)バルチック海運指数(Baltic Dry Index、通称: BDI)は、ロンドンのバルチック海運取引所が発表する外航不定期船の運賃指数。海運会社やブローカーなどから鉄鉱石・石炭・穀物といった乾貨物(ドライカーゴ)を運搬する外航不定期船の運賃を聞き取り、結果を取りまとめて同指数を算出、発表。基準となる1985年1月4日を1,000として算定している。
英語記事はこちら
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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