ステンレス鋼鋼材 暦年輸入量分析 22暦年は前年比10.1%増、過去最高に
ステンレス鋼の輸入動向を経済産業省のモニタリングシステムを用いて調査した。2022暦年のステンレス鋼輸入量(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)は28.8万トンと21暦年(26.2万トン)比10.1%増と、2014年以来の最高量となった前年を更に上回った。台湾、中国、タイ及びインドネシアからの輸入量が増加した。
鉄鋼連盟が2022年1月30日に発表したステンレス鋼鋼材輸入量世界計(速報)では、30.9万トン。前年同期比で10.1 %増。
財務省の貿易統計によると、2022暦年のステンレス鋼材(鋼板類、条鋼類、鋼管類、線材・鋼線)の輸入量は33万3,525トン。前年比9 %増。
本モニタリングシステムでは鋼板類計、棒鋼類、線材及び形鋼の4鋼種に分類となるが、ステンレス鋼の仕入れ先の動向をほぼ把握できる。鉄鋼連盟が現在明らかにしているステンレス鋼仕入れ先は、中国、韓国、台湾及び世界計であるので、その他の国からの輸入量の動向を簡便に知るには、便利なシステムといえる。
下記をご参照ください。
輸入動向を調べる(モニタリングシステム) (METI/経済産業省)
経産省の業界別輸入モニタリングシステム(鉄鋼編)では、企業や業界団体の皆様が生産・販売実態に即した輸入動向の把握ができるために作成されたもので、誰でも使うことができる。
アイアールユニバースでは、ステンレス鋼鋼材の過剰輸入を懸念して、本システムを使用して仕入れ先別輸入量推移を、独自に注視して情報を発信してきた。
例えば、下記内容で記事をアップしている。
ステンレス鋼鋼材 暦年輸入量分析 21暦年は前年比30%増 | MIRU (iru-miru.com)
ステンレス鋼(鋼板、棒鋼、線材など)仕入れ先別輸入量推移 2022年11月実績 | MIRU (iru-miru.com)
上記、記事を御覧いただけた方はお分かりと思いますが、MIRU.comは有料サイトであり、会員登録していただけると多くの記事をお読みいただけるシステムである。
今回、ステンレス鋼の暦年の輸入量の動向については、多くのかたが関心のある内容であるので、特別にアイアールユニバース棚町社長にお願いしてFREEで、エッセンスをアップさせていただくこととした。
《経済産業省のモニタリングシステムによる集計結果から》
<主要国のステンレス鋼(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)暦年輸入量推移 図1>
図1に、主要国のステンレス鋼(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)暦年の輸入量推移を示す。モニタリングシステムでは、2014年以降のデータを入手できる。
図1 主要国のステンレス鋼(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)暦年(2014年〜2022年)輸入量推移
暦年の輸入量及び輸入額は、21暦年に過去最高となったが、22暦年は更に上回り、2014年以来の最高値となった。特徴としては、韓国からの輸入量が減少した一方、中国、台湾、タイ及びインドネシアからの輸入量が増加した点である。
<輸入量>21暦年比で増加した国を赤字としている。
2022暦年の輸入量は中国は10.9万トン、韓国は9.5万トン、台湾6.7万トン、タイ1万トン、インドネシア756トン、ベトナム580トン、スウェーデン1,867トン、アメリカ1,068トンなどであった。世界計は28.8万トン
2021暦年は中国4.7万トン、韓国は15.9万トン、台湾4.9万トン、タイ908トン、インドネシア296トン、ベトナム155トン、オーストリア719トン、フィンランド431トン、スウェーデン1,483トン、アメリカ1,094トンであった。世界計は26.2万トン
<輸入額>
2022暦年の輸入額は中国は388.9憶円、韓国は416.8億円、台湾304.5億円、タイ46.4億円、ベトナム3.2億円、スウェーデン21.7億円、アメリカ26億円などであった。
2021暦年は中国148.7億円、韓国は460.2億円、台湾156.1億円、スウェーデン14.8億円、アメリカ17.2億円などであった。
図2に主要国のステンレス鋼(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)月別の輸入量推移(2019年1月〜2022年12月)を示す。
世界合計(茶色・折れ線グラフ:右軸)の推移をみると、2021年から増加傾向にあることが分かる。8月から急激に減少しているがこれは、特殊要因のため、下記で説明する。
図2 主要国のステンレス鋼(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)月別推移(2019年1月〜2022年12月)
注目すべきは量的にはまだ少ないもの、タイからの輸入材が2022年5月に1,000トンを上回って以来、7月、8月及び11月にも1,000トンを上回る一方、22年4月からは500トン超えを継続し、定常化ている点である。
中国材は、2021年から増加傾向を示し、2021年12月から急増していることが分かる。9月からの上昇は、特殊要因である。
直近9月からの中国材上昇は、主に韓国ポスコの浦項製鉄所が台風による冠水被害を9月初旬に受けた影響で、ポスコ主力代替ソースである、ポスコ張家港不銹鋼からの輸入が増えたことによる。特に11月及び12月には、中国材が1万トンを超え輸入量の半数を占めた。
<韓国鉄鋼協会>
韓国鉄鋼協会によると、22年11月の韓国のステンレス熱延鋼板の生産量は8,355トンで前月比12.4%減、前年同月比95.5%減となった。販売量は1万6845トンで前月比29.5%減、前年同月比82.3%減となった。台風による被害は11月までは影響していることが分かる。
これにより1-11月累計のステンレス熱延鋼板の生産量は、137万2474トンで前年同期比29.1 %減少、販売量は72万5172トンで前年同期比25.3 %に減少した。
このうち国内販売量は40万5,963トンで前年同期比15.9%減少、輸出量は31万9,209トンで前年同期比34.6%の減少となった。
参考値として、日本の1-11月累計のステンレス熱延鋼板の生産量は224万トンで前年比6 %減であった。
<輸入量注視の必要性>
図3には鉄鋼連盟統計における特殊鋼及びステンレス鋼の月平均の輸入量推移を示す。暦年、年度及び四半期の数値は月平均としている。
特殊鋼鋼材全体の輸入量(青棒グラフ)は減少傾向にある中、ステンレス鋼鋼材の輸入量(茶色 折れ線グラフ)は2021年より増加し、2022年には急増していることが分かる。
図3 特殊鋼及びステンレス鋼鋼材の輸入量推移(月率換算)2016年度~2022年12月
<輸入量 急増の背景>
2019年以降、ステンレスメーカーが統合したことを受け、一部商社、流通、ユーザーが価格、数量面で、国内材の調達に不安を覚えて、輸入材を活用する流れが形成された。日本国内ではメーカーの減産などもあり、供給に限りがある中で、特に、SUS304冷延薄板の2B材を中心に、一定量の輸入材を必要とする市場構造となった。
日本の不足分を補うだけの適正量の輸入であれば問題無いが、ソースもベンダーも多様化するにつれて、“許容量を超えかねない”との懸念が強まっており、これについては経産省も注視及び仕入れ先国に向け、協力を求めている。しかし、一部の商社・流通では、国内市場の健全性を軽視するような販売姿勢が見受けられることもあって、SUS304冷薄市況をめぐり国内材と輸入材の『二重価格構造』が指摘はされてはいるものの、この状況が継続している。
安価な輸入材の大量輸入は、日本国内での製造を断念させることにもつながる。フェロシリコンが国内の製造を断念せざるを得なくなったトリガーは、ある商社が安価なフェロシリコンの大量輸入を10か年契約したことによる事例もある。
浦項製鉄所は年産200万トン級の世界屈指の総合ステンレス生産拠点であり、台風による下工程の冠水のグローバル市場への影響として、クロム系冷薄やニッケル系厚板の供給不安への懸念が高まっており、11月及び12が宇輸入材においては、台湾材及び中国材の過剰輸入が懸念されていた。台湾材はそれほど増加しなかったが、中国材は増加した。
図4には、鉄鋼連盟が発表した世界計及び主要国のステンレス鋼月別輸出入量推移[2021年12月〜2022年12月(輸入は速報)]を示す。世界計では、輸出量はおおよそ7万トンと、輸入量の約3万トンを超えるが、台湾及び韓国からの輸入量が日本からの輸出量を上回る月が多いことがわかる。
韓国からの輸入量が日本からの輸出量を下回ったのは、2022年3月、5月、11月及び12月の4か月のみ。11月及び12月の逆転は、台風の被害の影響である。
また、台湾においては、2021年12月、2022年2月、3月、10月のみあった。
図4 主要国別 ステンレス鋼月別 輸出入推移(左:輸入、右輸出)
鉄鋼連盟統計による22暦年における、仕入れ先からの輸入量、日本からの輸出量の比較
韓国:輸入量(10.1万トン)対 輸出量(9.2万トン)比では、輸入量が1.1倍。
台湾:輸入量(7.3万トン)対 輸出量(4.3万トン)比は、輸入量が1.5倍
中国:輸入量(11.1万トン)対 輸出量(13.8万トン)比は、輸出量が1.2倍
<参考>
鉄鋼連盟統計による21暦年における、仕入れ先からの輸入量、日本からの輸出量の比較
韓国:輸入量(16.4万トン)対 輸出量(10.7万トン)比では、輸入量が1.5倍。
台湾:輸入量(5.4万トン)対 輸出量(6.1万トン)比は、輸出量が1.1倍
中国:輸入量(5.0万トン)対 輸出量(16.7万トン)比は、輸出量が3.4倍
<主要国の鋼板類計 暦年輸入量推移 図5>
図5 主要国のステンレス鋼(鋼板類計)暦年(2014年〜2022年)輸入量推移
鋼板類計が、ステンレス鋼板輸入量を占めることが分かる。スウェーデン以外は、ほぼ図1[主要国のステンレス鋼(鋼板類、棒鋼類、線材及び形鋼 合計)暦年(2014年〜2022年)輸入量推移]と同じ傾向を示している。
<輸入量>
2022暦年の輸入量は中国は10.5万トン、韓国は8.3万トン、台湾6.2万トン、タイ1万トン、インドネシア754トン、ベトナム580トン、スウェーデン701トン、アメリカ805トン、オーストリア607トン、ベトナム580トン、フランス360トン、英国150トンなどであった。世界計は、26.4万トン。
2021暦年は中国4.3万トン、韓国は14.7万トン、台湾4.3万トン、タイ821トン、インドネシア296トン、ベトナム155トン、オーストリア719トン、フィンランド431トン、スウェーデン877トン、アメリカ901トンであった。世界計23.8万トン
<輸入額>
2022暦年の輸入額は中国は367.9憶円、韓国は359.4億円、台湾267.8億円、タイ45.6億円、スウェーデン12.2億円、アメリカ16.4億円、インドネシア3.0億円、フランス2.2億円、英国0.9億円などであった。
2021暦年は中国132.2億円、韓国は417.3億円、台湾129.8億円、スウェーデン11.2億円、米国12.4億円、タイ4.4億円、ベルギー0.6億円などであった。
<輸入単価の推移>
図6に主要国のステンレス鋼(鋼板類計)暦年平均輸入単価(円/kg)推移を示す。2022暦年は、2022暦年平均輸入単価は21暦年比で、1.4倍〜1.6倍となった。タイ材は20%減となり、台湾及び韓国材に近づいた。主要4か国平均単価は420円/kg
図6 主要国のステンレス鋼(鋼板類計)暦年平均輸入単価(円/kg)推移(2014年〜2022年)
・米国、台湾、韓国、及びタイの22暦年平均単価は㎏当たり400円〜450円、中国は最も安価で350円。
・台湾及び韓国及び中国の21暦年平均単価は㎏当たり280円〜300円、タイは540円であった。
これにより、国内材と輸入材の『二重価格構造』が生じている。
<主要国の棒鋼 暦年輸入量推移 図7>
22暦年のステンレス棒鋼の輸入量は、21暦年並み1.24万トンなった。21暦年及び22暦年には中国からの輸入量が増加した。
2014年以降の最高値は19暦年の1.5万トンで韓国、台湾及びオーストリアからの輸入が多かった。20暦年は1.16万トン。
図7 主要国のステンレス鋼(棒鋼)暦年(2014年〜2022年)輸入量推移
<輸入量>
2022暦年の輸入量は韓国は4,222トン、台湾3,498トン、中国は2,009トン、スウェーデン745トン、オーストリア580トン、スペイン258トン、アメリカ253トン、フランス171トン、タイ112トン、などであった。世界計は、1.242万トン。
2021暦年は韓国は4,087トン、台湾3,301トン、中国は2,110トン、スウェーデン487トン、オーストリア672トン、タイ82トン、スペイン236トン、アメリカ185トン、フランス276トンなどであった。世界計は、1.240万トン。
<輸入額>
2022暦年の輸入額は中国は13.3憶円、韓国は20.99億円、台湾26.45億円、オーストリア5.31億円、イタリア2.83、ドイツ1.5億円、フランス1.57億円、英国1.1億円、スペイン1.21億円、、タイ0.71億円、スウェーデン6.51億円、アメリカ4.41億円、などであった。
2021暦年は中国10.43億円、韓国は16.26億円、台湾17.09億円、オーストリア4.24億円、イタリア2.73、フランス2.58億円、ドイツ1.54億円、スウェーデン2.90億円、米国12.4億円、タイ0.43億円などであった。
<輸入単価の推移>
図8に主要国のステンレス鋼(棒鋼)暦年平均輸入単価(円/kg)推移を示す。2022暦年は、2022暦年平均輸入単価は21暦年比で、1.2倍〜1.5倍となった。フランスのみ、21暦年並み。主要3か国平均 640円/kg
図8 主要国のステンレス鋼(棒鋼)暦年平均輸入単価(円/kg)推移(2014年〜2022年)
2022暦年のステンレス鋼 棒鋼の輸入単価(単位 円/kg)
韓国497円、台湾756円、中国662円、米国3,629円、スウェーデン873円、オーストリア915円、タイ634円、イタリア967円、タイ634円、フランス913円
2021暦年のステンレス 棒鋼の輸入単価(単位 円/kg)
韓国298円、台湾518円、中国494円、米国2,382円、スウェーデン597円、オーストリア630円、タイ531円、イタリア702円、タイ531円、フランス935円
<主要国の線材 暦年輸入量推移 図9>
図9に主要国のステンレス鋼(線材)暦年輸入量推移を示す。世界計(茶色 折れ線 右軸)は、減少傾向にあるものの、21暦年及び22暦年では増加した。、韓国材が増えたのが要因。線材の市場規模は年間8.4万トン程度と言われている。既に海外材が一定のポジションを確立していることが分かる。
図9 主要国のステンレス鋼(線材)暦年(2014年〜2022年)輸入量推移
<輸入量>
2022暦年の輸入量は韓国は7,461トン、台湾1,909トン、中国は1,682トン、スウェーデン421トン、タイ10トン、フランス2トンなどであった。世界計は、1.242万トン。
2021暦年は韓国は7,204トン、台湾2,407トン、中国は1,927トン、スウェーデン119トン、フランス10トン、インド6トンなどであった。世界計は、1.240万トン。
<輸入額>
2022暦年の輸入額は中国は7.38憶円、韓国は35.56億円、台湾9.29億円、スウェーデン3.02億円、アメリカ0.01億円などであった。
2021暦年の輸入額は中国は5.92憶円、韓国は25.63億円、台湾8.21億円、スウェーデン0.62億円、フランス0.13億円などであった。
<輸入単価の推移>
図10 主要国のステンレス鋼(線材)暦年平均輸入単価(円/kg)推移を示す。2022暦年は、2022暦年平均輸入単価は21暦年比で、1.3倍〜1.7倍となった。約470円/kg
図10 主要国のステンレス鋼(線材)暦年平均輸入単価(円/kg)推移(2014年〜2022年)
<主要国の形鋼 暦年輸入量推移 図11>
22暦年のステンレス鋼 形鋼の輸入量は、減少傾向にあり、世界計で23.6万トンと21暦年(28.2万トン)比16.2 %減。20暦年から中国からの輸入量が激減した。
2014年以降の最高値は中国の輸入量が78万トンあった2018暦年(107.9万トン)であった。
図11 主要国のステンレス鋼(形鋼)暦年(2014年〜2022年)輸入量推移
<輸入量>
2022暦年の輸入量は韓国は122トン、台湾52トン、中国は47トン、アメリカ10トン、タイ4トン、イタリア1.3トンなどであった。世界計は、236.5トン。
2021暦年の輸入量は韓国は172トン、台湾70トン、中国は16トン、アメリカ8トン、インド6トン、タイ5トン、ドイツ4トンなどであった。世界計は、282.1トン。
<輸入額>
2022暦年の輸入額は中国は0.388憶円、韓国は0.845億円、台湾0.975億円、アメリカ0.460億円などであった。
2021暦年の輸入額は中国は0.191憶円、韓国は0.986億円、台湾1.009億円、ドイツ0.089億円、フランス0.009億円などであった。
<輸入単価の推移>
図12 主要国のステンレス鋼(形鋼)暦年平均輸入単価(円/kg)推移を示す。2022暦年は、2022暦年平均輸入単価は中国材の単価が下がり、韓国、中国、タイでは平均で714円となった。21暦年における同平均は790円。一方、台湾の単価は上昇している。
図12 主要国のステンレス鋼(形鋼)暦年平均輸入単価(円/kg)推移(2014年〜2022年)
2022年12月実績については、別報といたします。
(IRUNIVERSE tetsukoFY)
関連記事
- 2025/05/11 海外のホットコイル価格(5/9)
- 2025/05/11 最近の米国内の鋼材価格(5/9)
- 2025/05/11 最近の中国鋼材輸出価格(5/9)
- 2025/05/11 アジアと欧州のステンレス価格(5/9)
- 2025/05/11 最近の主要国の鉄スクラップ価格推移(5/9)
- 2025/05/11 最近の主要合金鉄価格動向(5/9)
- 2025/05/11 最近の一般炭と原料炭の価格推移(5/9)
- 2025/05/11 最近の石炭契約価格とスポット市況(5/9)
- 2025/05/11 最近の鉄鉱石契約価格とスポット市況(5/9)
- 2025/05/11 最近の中国内電極価格(5/9):弱含み傾向続く