第2回 オンラインセミナー その1 ベトナムの鉄鋼・スクラップ事情
カーボンニュートラルで、鉄スクラップはこう変わる! ~各国電炉の状況共有~
鉄リサイクリング・リサーチ主催による第2回オンラインセミナーが2023年2月28日(火)に、開催された。今回は、電炉業に視点をあてたセミナーとなった。国内の電炉企業である共英製鋼、千代田鋼鉄工業に加え、中国からは徐州金虹鋼鉄、及び米国からはニューコア社が登壇して、現状や展望について講演した。
真の循環型経済社会の実現をサポートする鉄リサイクリング・リサーチ社長、林 誠一氏は開催にあたり「さまざまな業界から参加登録があり、約850名が参加登録したこと、前回(2022年9月13日に開催した。)のアンケート結果を踏まえ、主体的に鉄鋼循環に取り組む既存の電炉メーカーに焦点を当てた。」と挨拶した。
本セミナーの運営協力は、第1回と同様に鉄鋼総合商社メタルワンが、司会は、Eversteelの佐伯氏が担当した。当日はカメラの故障により講演者の姿を見ることはできなかったのは残念であったが、オンラインでは約350名の参加を確認した。ニューコアのご発表は、日本時間では16時20分であったが、米国では午前1時20分とのことだったが、熱量ある愛社精神にあふれた講演であった。アイアールユニバースでは、本講演を聴講させていただいたので、講演内容を紹介させていただく。
この講演は無料であり、アンケートに答えることで、のちほど当日の資料もいただける有意義なセミナーであるので、今回聴講できなかった皆さまには、次回こそは聴講されることをお薦めします。また、中国ミルの見学会も今後予定されているとのことでした。
米国午前1時20分から、ご登壇されたニューコア社の堀切氏は、日本語が話せるので選ばれたと自己紹介されたが、海外からのご登壇となり、オンラインが本格的に有効活用されつつあることの証明ともなった。
ニューコア社は、現在米国粗鋼生産第1位であり、電炉業における鋼板製造の先駆者である。2020年の粗鋼生産量は2700万トンであった。
米国の鉄鋼業は1970年代をピークに、欧州や日本の鉄鋼メーカーに比べて競争力が低下するなどしたが、ニューコアは「ミニミル」と呼ばれる小規模な電炉で、環境負荷の少ない鉄鋼製品を効率的に生産。鉄鋼生産の主流の高炉法とは異なるミニミルに特化し、製品の幅を徐々に拡大することで、利益率が高く市況に左右されにくい収益体質を作ってきた。
傘下に鉄スクラップの米デイビッド・J・ジョセフ・カンパニー(DJJ)を持ち、低コストで安定した原料調達ができている。産業用機械、建設、石油・ガス、鉄道、自動車など幅広い市場向けに生産をしている。
第2回オンラインセミナーは(株)鉄リサイクリング・リサーチ 林氏による開催の挨拶によりスタートした。
共英製鋼(株)海外事業部海外事業課長 梅地氏 日本時間 15:05-15:30 (25 分)
<共英製鋼グループの取組とベトナムの鉄鋼・スクラップ事情について>
共英製鋼(株)は、1947年に設立され、大阪に本社を持つ、国内最大の鉄筋棒鋼メーカーとして地産地消の鉄リサイクルを実施している電炉メーカーである。また、電炉の高熱を利用し医療器具等の産業廃棄物無害化処理を行っている。
登壇者の共英製鋼海外事業部海外事業課長梅地氏は、ベトナムの子会社ビナ・キョウエイ社に出向し、2014年〜2020年までの6年間、購買担当を経験されて、年間約60万トンのスクラップ調達に関わられていた経験から「共英製鋼グループの取組と、ベトナム市場に関する動向や日本の鉄スクラップに対する要望など」について講演された。大阪本社からのオンラインによる講演となった。
・共英製鋼グループ、海外鉄鋼事業では、
業界に先駆け1960年代に最初の海外進出を果たしており、ベトナムに3社、カナダに1社、アメリカに1社の鉄鋼事業会社を持ち、日本を含めた世界3極体制を構築し、
ベトナムで150万トン、北米で50万トン、計200万トンの圧延能力を有している。
・ベトナムの状況市場については、
鉄鋼消費量は、230kg/1人であり、日本の高度経済成長の時期に当たる。
ベトナムの鉄筋、線材を中心とする条鋼需要は、コロナ禍のあった2020年、2021年も全体では微減にとどまり、年間、約1,100万トンの需要がある。人口も1億人に迫っており、継続的経済成長への期待も高く旺盛な需要が継続している市場である。
・ベトナムの重要な点としては、
中国をはじめ海外製品の流入がすくないことである。2016年から条鋼及びビレットに対してセーフガードを実施しており、海外の輸入がほとんどない。
・面白い特長としては、
欧米や日本の技術に対するブランドイメージが高く、純粋なローカル会社にも拘わらず、ベトナムドイツ、ベトナムフランス、ベトナムアメリカ、ベトナム日本などの企業名が多いことである。
・特に注目されるべき、珍しい特長としては、
ベトナムでは、一般住宅の施主が鉄筋メーカーを指定する慣習があり、鉄筋メーカーがテレビコマーシャル放映をしたり、巨大広告でPRをしている点であった。
筆者も持家を建てた際、ハウスメーカーに、どこの鉄骨を使用するかお聞きしたことがあるが、回答は得られなかった。一生に一度のものでもあり、サステナブル社会では日本も鉄筋メーカーを指定する動きがあってもよいかもしれない。
ベトナムでは、小規模な鉄筋メーカーが乱立しており、厳しい競争にある。
・ベトナムの粗鋼生産能力は、
年産2,900万トン近いが、ミニ高炉を含む高炉が1,700万トン超えで約6割を占め、次いで誘導炉が670万トンで23%、電炉はわずか16%程度に留まる。
誘導炉は28工場もあり合計10万トンの小規模工場も乱立している、一方、電炉に迫る規模のものもある。
2021暦年の粗鋼生産量は2,000万トン、1,400万トンがビレット、ブルーム・スラブが800万トン
・条鋼圧延能力は、
1,700万トンと、需要の1,100万トンを大幅上回っており、厳しい競争環境にある。生産実績1,232万トン。内3割が高炉鋼となっている。
・ベトナムの注目ミルとしては、
Hoa Phat社(ミニ高炉中心に製鋼の能力700万トン超、圧延の能力550万トン超)拠点数3か所(北部2、中部1)ベトナム最大の生産能力を持つ。ベトナム国内1/4を超える条鋼シェアを持つ。
ギソングループ(大規模誘導炉を持つグループ:製鋼能力274万トン、圧延能力200万トン弱)拠点数5か所(北部1、中部2、南部2)。
ベトナム鉄鋼連盟非加盟ミルであるが、年間270万トンのすべてを誘導炉が占める。日本から大量の鉄スクラップを輸入している。2021年の鉄スクラップ輸入実績は196万トン(日本から80万トンを輸入)であり、スクラップマーケットでの存在感と影響力で要注目のグループである。
・鉄スクラップ事情については
ベトナムはまだ国内に鉄を蓄積している状況にあり、発生が増えるのはまだ先。むこう10年間は輸入に頼る状況が続く。
2021年にベトナムは576万トンの鉄スクラップを輸入。内、日本産スクラップ輸入量は227万7千トンで全体の4割を占めた。
スクラップ消費量は約1,070万トン、ベトナム国内屑発生量は333万トンと推定した。
日本産のスクラップに関する評価は厳しく、安定的に供給されること、品質は良くはないが、バラツキが小さいことが評価されているようで、全体的には土砂及びコンクリート片などが多く、鉛も多い。日本の鉄鋼ブランドに反して、ベトナムへ送られる鉄スクラップ品質には乖離があるようであるのは、残念な評価である。
危険物や密閉物が少ない点は信頼されているが、薄いものが多いとし、メーカーとしても不純物除去に頭を悩ませているとのこと。これには、後にご紹介するEversteelのAI を活用したスクラップ等級判定・異物検出システムが貢献しそうである。
ブレーク
<ベトナム豆知識>
経済面:GDP成長率は5年間で平均6.5 %〜7.0 %(2020年は2.9%)
・一人当たりのGDPは米ドル 2,715ドル(2019年)
社会面:農業就業者割合25 %、訓練を受けた労働者の割合70 %
2021年上半期の概況
輸出:1,583億3,524万ドル(前年同月比29.0 %増:2019年同期比29.2 %増)
主要品種:電話機・同部品、コンピュータ電子製品・同部品、機械設備・同部品の順
主要国・地域別:米国、中国、韓国、日本の順。日本へは100億6,359マンドル
米国向け最大の輸出品目は機械設備・同部品、中国向けは電話機・同部品
輸入:1,593億2,794万ドル(同比36.3 %増:2019年同期比31.8 %増)
主要品種:コンピュータ電子製品・同部品、機械設備・同部品、電話機・同部品の順
主要国・地域別:中国、韓国、日本の順。日本へは106億8,123万ドル
貿易収支は9億9,270万ドルの赤字となった。
2018年の日本からの鉄鋼輸入は15億9,064万ドルとなった。
2017年には約19億ドル、2020年には14億と減少傾向にある。
ベトナムの銑鉄生産量は約1千万トン、粗鋼生産量は1,950万トン。
鉄スクラップ消費量は9,314千トン(2020年)
《鉱業・エネルギー》
ベトナム国内には、銅、鉛、亜鉛、チタン、ボーキサイト、金、ニッケル、タングステン、レアアース、アンチモンなでお、多種多様な鉱物資源が埋蔵されている。
2020年の工業生産量は同期比13.9%減となった。
鉄鉱石 5,239千トン
アパタイト鉱石 4,389.5千トン
その他の講演内容については、次報にて紹介させていただきます。
(IRUNIVERSE tetsukoFY)
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