2023年国際電池リサイクル会議、スペイン・バレンシアで開幕①
今年も国際電池リサイクル会議(ICBM)が、本日6日から8日までスペイン・バレンシアで開催される。プログラムは2日にわたるプレゼンテーション・展示会と3日目のワークショップによる構成だ。9月とはいえ、日本の夏を思わせる湿気と暑さである。オレンジやパエリアで知られるバレンシアは、街の各地に歴史的建造物が散らばる美しい観光地でもある。そんなバレンシアから、今回も会議の全容を報告する。
スペインは近年電池生産計画を打ち出し国内への投資誘致へ注力しているが、今回の会議では、スペイン国王フェリペ4世が名誉会長となったことが発表されており、国家における電池産業の重要度が窺われる。
今年のICBRは世界各国から参加者580人とかつてない数字を記録、展示ブースも満員となった。展示スペースには、MTB・Promat・Fortum・ Hitachi・Glencore・ Li-Cycleなど多数の業者が所狭しと並ぶ。参加者にはICBRではすでにお馴染みの企業に加え、今回は電池リサイクルやリサイクルラインメーカーなどのスタートアップ、電池生産・リサイクル施設プロジェクトを散策する投資家などが新たに加わった。会議パートナーは、TES・ Veolia・ Accurec・Siemens・Umicore、アウディなど。メディアからはMIRUをはじめ8社が参加し、地元バレンシアからはテレビ局の姿も見られた。
初日のプログラムは、まず7月に施行となった電池規則について、欧州委員会担当者からキイとなる要件の概要とその意図について説明があった。電池規制は施行となったが、今後は多数の委任法法令が段階的に発表される。詳細な数値や計算法をはじめ、委任法令を待つ要件は多岐にわたるため、欧州委員会の担当者は業界に対し、欧州委員会のサイトを通じ今後も意見表明を行うよう奨励した。また、EUにおける新規制が導入されたことを受け、オーストラリアやアメリカにおけるEU規制の影響や地元の規制整備動向についてのトークもあった。米国では、州政府ごとに電池リサイクル関連規制の整備状況に大きな違いがある。
午後の部でも引き続き、電池規則をめぐるテーマでプレゼンテーションが行われた。欧州の二次電池業界団体であるRECHARGEからは、現在提案されているREACH規則によるPFAS規制(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)が、欧州の電池業界へもたらす影響についてのプレゼンテーションが行われた。PFASは、電池部品の接合剤などで使用されているが、もしREACH規則により使用が禁止された場合、現時点では代替品がない。そのため、電池バリューチェーン上に先行きの不透明さを作り出すことになり、業界にとっては大きな問題となる。加えて現在の提案内容では、PFASは電池使用における使代替品がないにも関わらず、除外対象としての認識もされていない。RECHARGEは現在、この問題について欧州委員会へ働きかけていることを明らかにした。
午後最後のセッションでは、電池規則がもたらす機会と障壁についてパネルディスカッションが行われた。スピ ーカーは、欧州委員会の研究機関JRC、電池回収組織Eucobat・ 電池業界団体Eurobat・ 電池リサイクル業界団体 EBRA ・Umicoreからそれぞれ代表者が意見を述べた。そのなかで、デューデリジェンスやカーボンスッとフリントなどの電池規則要件への順法について、欧州域外における業者の監査や検査の難しさが挙げられた。産業用やEV用・軽移動手段用電池を対象とする再生材含有ターゲットについては、リサイクル業界は電池ループの構築を牽引するものとして、歓迎していると電池リサイクル協会のVassart氏は述べた。一方で、規制で定められた期間までにリサイクラーの準備が整う可能性については、現状ではまだ不透明であると付け加えた。また、新規則が欧州域内の業者を市場で有利にするのか、あるいは域外業者に対し不利な立場に追いやることになるのかという質問がモデレーターである仏Saftのde Metz氏から投げかけられた。これはかねてより業界が懸念してきた事項である。そのなかで、米国が導入したインフレ抑制法が欧州電池業界へもたらす影響が挙げられ、米国における規制による業界の牽引方法とEUにおけるそれが大きく異なることも指摘された。
引き続き明日の内容をレポートする。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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