テクノベンチャー キノテックの電炉灰“アルカリ浸出亜鉛電解”

東京大学工学部・大学院工学研究科を拠点にカーボンニュートラル技術開発へ挑戦しているテクノベンチャー企業㈱キノテック(代表取締役社長母里修司)が2年間に及ぶ電気炉ダストから高純度亜鉛を再生するリサイクル基礎研究で、実験室試験レベルで革新的なキノテック法(“アルカリ浸出・亜鉛電解法”)の研究成果を公開した。今春NEDOの支援を得て、実証試験プラントの設計段階に入り、24年度パイロットプラント建設、25年度実証試験を開始する予定だ。
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キノテックが開発したアルカリ浸出亜鉛電解方式の亜鉛製錬法は、鉄鋼の電気炉ダストに含有される高濃度亜鉛を直接亜鉛をアルカリ浸出し抽出し、浄液後、アルカリ亜鉛電解で高純度電気亜鉛を製造する。既に大手電気炉メーカ6社の電気炉ダストから高純度亜鉛が製造できる事が実験段階で証明している。
世界的には電炉ダストから粗酸化亜鉛を生産する設備が44基あり、うち40基がウエルツロータリーキルン炉を使いコークス揮発還元で粗酸化亜鉛を生産し、再度還元揮発による亜鉛精製の2段階で高純度亜鉛地金を生産している。しかしキノテックプロセスは、電気炉ダストから電気亜鉛がワンステップで直接生産される為、アルカリ浸出・浄液・電解するキノテックプロセスの温暖ガス削減効果は大きい。
2050年までにカーボンニュートラルを達成する為、鉄鋼分野でも高炉-転炉方式から電気炉法や高炉で水素還元などへの検討が日本でも始まっている。
出典:RITE:2015年時点でのエネルギー原単位の推定、鉄と鋼、105(2019)pp.567-586、乾式プロセス、4.2鉄スクラップの処理
写真:左から原料の電気炉ダスト、電着亜鉛粉、2次浸出残渣
高炉-転炉方式で粗鋼1トン当たりCO2排出量は2.00トン、電気炉方式ではCO2排出量0.67トンとなり、高炉-転炉方式の約3分の一まで削減できる。
鉄鋼生産で電気炉のシェアーは2017年で日本は約25%だが、欧州では電気炉依存度は40%、米国は58%であり、更に電気炉へシフトした場合、電気炉ダストの亜鉛回収技術の改革要求度は高まると思われる。
国内の鉄スクラップ発生量は、自家発生約1,500万トン、市中調達スクラップが2,500万トン~3,800万トンのレベルで推移し、約4,000万トンのスクラップから鉄鋼が再生され、鉄鋼生産全体の原料リサイクル率は約40%である。
電気炉ダストは約45万トン生産され、2011年から2018年の間に約7.6万トンから11.4万トンの亜鉛がリサイクル原料から回収されている。鉄スクラップ4,000万トン全量が電気炉の増強処理された場合、電気炉ダスト量は現在の約2倍の約80万トン、亜鉛含有率を25%と仮定すると亜鉛含有量は20万トンに相当する。
2022年国内亜鉛生産量は約52万トンで、亜鉛鉱石から生産される亜鉛約40万トンと推定すると、電気炉ダストの亜鉛量が2倍相当となり、海外鉱石の依存度は半減し新たな革新的な亜鉛リサイクルビジネスチャンスが生まれる。
世界で鉄鋼を生産している国は90ヵ国に及ぶ。1,000万トン以上を生産するくには中国、印度、日本、米国、ロシア、韓国など19ヵ国、300万トン以上を生産する国は、21ヵ国、300万トン未満の鉄鋼を生産する国は何と50ヵ国もある。
300万トン未満の鉄鋼生産国は電気炉法でスクラップ鉄から鉄鋼を生産している仮定したら、電気炉灰はどの様に処理されているのであろうか。日本でも埋めたてられている電炉灰はあるかも知れないが、小規模の鉄鋼生産国の電気炉灰がもし埋め立てられているとしたら、この電気炉灰から電気亜鉛が生産される可能性が出てきたら、アフリカや中東やその他の国の環境問題の解決に寄与するのではないだろうか。
(IRUNIVERSE 片桐)
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