タカトリ(6338)高機能素材Week2023、23/9Q3メモ SiC向け拡大でポジティティブ
23/9期56.5%増収62.8%営利増予想と連続最高益、24/9期SiC向け続伸で収益拡大期待
株価5150円(10/6) 時価総額282億円 発行済株5491千株
PER(23/9期DO予15.4X)PBR(3.8X)配当(23/9会予)40円 配当利回り:0.77%
要約
・展示会では各種テープ貼付装置中心にパネル展示、実物では大型パネル向け装置を実機展示
・10/2にSiCパワー半導体向け新型大口径ワイヤーソー、13.36億円海外から受注獲得
・23/9期56.5%増収62.8%営利増予想と連続最高益、24/9期SiC向け続伸で収益拡大期待
22/9Q1は49.7%増収、営利2.0倍、受注は6.3倍と伸長、受注残高は2.5年分に膨れる
精密ワイヤーソーを主力事業に半導体製造、LCD製造向け機器も手掛ける。特にシリコンなどと異なる化合物半導体(SiCは高硬度、GaNは高脆性、へき開性などの特性を持つ)などの難加工材向けマルチワイヤーソーで世界シェア高90%近いシェアを有する。
10/4から幕張で開催された高機能素材Week2023では、各種半導体、FPD製造用貼付、分離装置の展示がなされた。実機としては車載機器向け大型曲面真空貼合装置MODEL:TPL-1300が展示されていた。同実機はワークのサイズが幅1,300mm、奥行き1,200mm、厚さ100mmまで対応、真空状態でワークを加圧するため、曲面や複雑な形状の接着も可能で、大型ディスプレイにも対応できるとしている。同社は半導体ワイヤーソーのイメージが強いが、半導体製造工程では前工程でレジストフィルム貼付装置、後工程では保護テープ貼付装置、剥離装置、ウエハマウンタ装置など、幅広く手掛けており、今後、半導体の2.5D、3D化に伴う需要増に期待している。
ディスプレイ向けでは従来、小型パネル向け中心の事業展開であったが、今回、大型パネルにも適応、曲面対応の機器を投入、ARやVR向け等での需要拡大などが期待される。
10/2にSiCパワー半導体向け新型大口径ワイヤーソー、13.36億円海外から受注獲得
今回の展示会はフィルムなどが中心で、ワイヤーソーについては展示ブースの影になるところにパネルのみ置かれていた。しかし同社に対する現在の注目は化合物パワー半導体、とりわけ世界シェア90%を握ると言われるSiCワイヤーソーになる。実際、10/2には海外向けに13.66億円の新型大口径SiC材料切断加工装置の受注獲得がアナウンスされている。
従来の研削装置は、研磨砥粒が付着した砥石を回転させて、研削対象の表面を削り取る方式が一般的で、この方式では研磨砥粒が研削対象の表面に残り品質に影響を与える可能性があった。同社は研磨砥粒を回転させるのではなく、研磨砥粒をパウダー状にして研削対象の表面に噴射する方式を採用、パウダー状の研磨砥粒は研削対象の表面に残りにくく品質の向上が可能となった。また研磨砥粒の噴射力を調整することで、研削対象の表面の粗さコントロールができ、研削対象の表面の平坦度や粗さに応じた最適な研磨が可能となっている。具体的には100μのワイヤを800km巻いたリールからSiCインゴットヘワイヤを高速揺動振動で動かし500μ厚みのウエハに揺動円弧切断する。なおワイヤ線速は最大1500㍍/分搬出(時速90㎞)される。但しワイヤだけではダイヤモンド、CBNに次いで硬いSiCは切断できず、同時開発したYAIBAという潤滑油とダイヤモンドパウダーを混ぜて加工砥液として噴射する。SiCインゴットの切断では6インチで約130時間要するが、時間経過とともにダイヤが沈降し均一にオイルと混ざらない課題があり、長時間ダイヤが沈降しないオイルが必要視されていたが、この問題をオイルメーカーと共同開発し克服した。
同社は2020年にSiC専用ワイヤーソーを開発したが、6インチ対応機MWS-SiC6は2月より本格製造を開始、当面月産50台体制、受注残高として約1年分を確保している。10/2の開示分については展示会場で新機種対応とのことで、MWE-SiC8、8インチ対応機の受注とみられる。なお同社はSiC以外のGaN、Ga2O3などの切断も取り組んでおり、実際、GaNについてはノーベル賞受賞者の中村修二教授と加工技術の開発に成功しており、昨今のGaNデバイスの急拡大でも注目が集まろう。
但し最近はディスコがKABRAプロセスとして、レーザを連続的に照射することで、分離層(KABRA層)を任意の深さに形成し、このKABRA 層を起点に剥離・ウエハ化するインゴットスライス加工の受注で注目を浴びている。同プロセスは単結晶(4H・6H・半絶縁性)、多結晶のあらゆるSiC インゴットに適用できるとしている。ワイヤーソーでは切断部分の素材ロスが多く、インゴット1 本あたりの取り枚数の少なさの課題から、量産のために多数台のワイヤーソーが必要で量産におけるコスト高の要因があり、これを解消できるとしている。具体的には6インチSiCウエハ1枚が10分、6インチインゴット当たり31時間と、ワイヤーソーの1/4に短縮、しかもワイヤーソーでは切断部分の素材ロス(カーフロス)がウエハ1枚あたり180 μm 程度でるが、切断時点での素材ロスが出ず、インゴット当たり1.4倍のウエハ取り出し枚数が可能としている。また7月にはGaN対応も発表している。今後、KABRAプロセスが大きなライバルとなるとみられるが、価格差が多分30~40倍異なる(KABRAは10億円超?、NWSシリーズ6、8で2000万円~3000万円?、何れも非公表)と見られ、今後同社は線速をさらに2500~3000m/分(最大2倍)に高め、芯線直径も100~200μだったものを80μまで細線化も進めており、生産規模やライン構成によって共存していくとみられる。
23/9期56.5%増収62.8%営利増予想と連続最高益、24/9期SiC向け続伸で収益拡大期待
23/9Q3業績は売上高45.52億円(同期比2.25倍、Q2比22.2%増)、営利7.95億円(同3.5倍、同43.0%増)と電子機器、とりわけSiCワイヤーソーの拡大で収益上伸となった。なお受注は17.43億円(同84.5%減、同18.9%減)、受注残高は155.06億円(同17.5%、同15.4%減)と前Q2で大口受注91.35億円の反動減(これを除くでは同期比14.9%減)、受注残高は部材調達の正常化などで受注残高の消化が進んだことによる。
事業別では売上の98%と大半を占める電子機器が売上高44.72億円(同2.26倍)、営利8.29億円(3.2倍)、受注16.83億円(同85.0%減)、受注残高152.01億円(同18.6%減)となった。電子機器の売上げ明細開示はないが、Q3までの累計では新素材加工機器でSiC切断加工装置が高シェアを維持し内外で伸長した。一方、半導体製造機器はパワーデバイス、ディスクリートデバイスメーカー向けは活発な投資継続で堅調に推移もスマホ不振でロジック、電子部品向けが低調で、全体として微減収に。またディスプレイ製造機器はウエラブル機器用貼り付け機を販売も、主力の中小型ディスプレイ用偏光板貼付け機、真空貼り合せ機の不振で減収となった。利益面ではSiCワイヤーソーの増収効果で営利率が5.4ポイント向上し18.5%となり、営利上伸に。
なお23/9期予想に変更はなく、売上高160億円(56.5%増)、営利22億円(62.8%増)に変更はなく連続最高益更新予想。Q3累計での進捗率は売上高で67.6%、営利で73.6%となっているが、部材調達の遅れ等の解消で受注残高の消化が進むとみられ、会社計画並みの売上が確保、利益は計画を上回って着地したと推定する。なお受注は中国でのインゴット供給遅れ、工場建設の遅延があるものの引合いは旺盛で、国内はSiC設備投資のラッシュ、相次ぐ増額がアナウンス、既に10/2の海外受注等含め再拡大が始まったと見られる。
24/9期についてSiCワイヤーソーは6インチに加え8インチの設備投資も具体化が相次ぎ、受注回復とともに豊富な受注残高の消化も進み、新素材加工機器の収益上伸が続こう。また半導体製造機器もスマホの底入れ、データセンタなどの設備増強、さらにはAI等の拡大で半導体の薄化に伴う張り合わせ、剥離装置の需要回復も見込まれる。全体として増収効果、SiCワイヤーソーの構成比アップが続き、収益の拡大、最高益更新が続こう。
株価はSiC切断加工装置で大口受注が継続したことで昨年11月には9760円の高値、位年間で16倍の驚異的な株価上昇となった後、中国での大型受注一服などで材料出尽くし感もあり23/9Q2発表の5/12前の5/2には3905円の年初来安値を付け、Q2実績が上振れした事もあり再度上昇、7月に7000円大台回復した後に下落、Q3発表で一瞬上がったものの緩やかな下落を続けている。現在会社予想EPS293.02円に対しPER17.6倍は東証スタンダード機械平均PER13.0倍に対し割高となっているが、東証プライム機械平均PER16.5倍並み、今後SiCスライシングで競合となるディスコのコンセンサスPER39倍に対し割安となっている。パワー半導体、とりわけSiCパワー半導体関連事業で売上構成が最も高い企業と見られること、ディスコの台頭で今後シェア90%は下落するとみられるが、SiCに加え、GaN等の設備増強も加速しており、化合物パワー半導体関連銘柄の代表としてポジティブ継続としたい。なお23/9期本決算は11/10に発表予定。
(H.Mirai)
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