バングラデシュからの風#1 バングラデシュの現在の経済状況と先行き見通し:成長に影響を与える要因分析
2025年、バングラデシュは一連の経済的困難に直面しており、その経済的地位は大きく低下しています。かつて南アジアで最も急成長している経済の一つと称されたバングラデシュは、現在、深刻な経済的混乱の時期を迎えています。過去10年間で、同国は貧困削減、工業生産の拡大、6%以上のGDP成長率の維持など、目覚ましい成果を上げてきました。以下では、バングラデシュの経済の現状を説明し、現在の経済状況に影響を与えている要因について考察します。
このグラフは、今後2年間にわたるバングラデシュの経済リスクを示しており、同国の経済成長にさらなる影響を与えることになります。 本稿では、過去数年間にわたりバングラデシュの経済状況が悪化した要因について検討します。
まず初めに、経済成長の低下に大きく寄与したバングラデシュの政治的不安定について述べます。2024年半ばに発生した「7月革命」は、クォータ制への学生の抗議をきっかけとして、バングラデシュは深刻な政治的混乱に見舞われました。2024年7月16日から8月初旬にかけての「7月虐殺」では、政府当局による大規模な弾圧により、1000人以上の抗議者が命を落としました。2024年中頃には、政治的不安や労働者の抗議の影響で、四半期ごとの経済成長率が1.8%にまで急減速しました。このような状況下で、暫定政府は経済的・制度的な課題の増大に直面しており、犯罪率の上昇、民主主義の弱体化、人権やメディアの自由に対する国際的な監視などが、政治的安定を一層損なう要因となっています。
第二の要因は、衣料・繊維分野および工業製造業に関するものです。バングラデシュの輸出の80%以上を占め、約400万人の労働者を雇用しているこの輸出依存型分野は、危機の影響を深刻に受けました。米国の関税(最大20%)の急上昇や、注文の停止、生産の中断によって、競争力と雇用に大きな打撃が及びました。また、高金利や運営コストの上昇によって工業生産も大幅に減少しました。さらに、外国直接投資は2023-24年度に約8.8%減少しました。バングラデシュのインフレ率は2023年から2024年の平均で8.56%から11.38%に上昇すると予測されており、通貨の価値下落、輸入コストの上昇、生活費の増加を通じて、経済成長に悪影響を与えています。その結果、実質賃金がインフレに追いつかず、購買力が低下しています。
これらの要因によって、私の家族や親戚もこの1年で急速に経済的不安定を経験しました。バングラデシュの深刻な経済状況により、生活必需品の価格が高騰し、産業成長も鈍化したことで、生活費が上昇しました。また、犯罪率も上昇し、多くの人々がバングラデシュで生活することを危険と感じるようになっています。
最後に、特に18歳から24歳の若者層における失業率は約15%と、過去30年間で最も高くなっており、社会不安を煽るとともに、雇用市場の構造的な問題を示しています。インフレ、失業、経常赤字といった課題は依然として深刻です。インフレと失業はGDP成長を妨げており、貿易赤字は拡大を続けています。外国直接投資は低水準にとどまり、外部からのショックも経済成長にリスクをもたらしています。
これらの要因によって、2024年7月から9月の四半期におけるバングラデシュのGDP成長率は約1.8%に落ち込み、パンデミック初期以来で最低となりました。農業、工業、サービス部門の成長率もそれぞれ0.16%、2.13%、1.54%と低迷しています。現在、バングラデシュはインフレ、財政問題、政治的不安により、過去数十年間で最も緩やかな成長しか記録していません。世界銀行の予測によれば、IMFからの支援や歳入・制度改革、インフレの低下によって、2026年度までに回復が可能になると見込まれています。
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サハ・シャルミ。1995年生まれ。
バングラデシュ出身で、現在は日本に住んで3年目。
言語はバングラ語、英語、インド語、日本語ができます。
人生のモットーは「失敗しても構わない。でも、どんな状況でも決して諦めないこと」です。趣味は旅行と様々な国の料理を食べることです。時間がある時は、バングラデシュ料理を作るのも大好きです。
*バングラデシュ、インドに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。
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