慶應義塾大学ハプティクスセンターが提案する遠隔操作技術
本記事ではCEATEC2023における慶應義塾ハプティクスセンターのブースを紹介する。
リアルハプティクス®技術は何か?
「ハプティクス」とは、元来言語に依存しないコミュニケーションを指す言葉で、力触覚の伝送や記録に関する理工学的分野として発展した。
世界中で研究や開発が進む感覚通信の最先端技術だ。
慶應義塾大学は2002年に世界に先駆けて鮮明な力触覚伝送に成功したことをきっかけに、関連研究のさらなる高度化を目指して2014年にハプティクス研究センターを設立した。
感覚は心の中にあり、定量的に扱うのは難しい。そこで、感覚を生じる刺激を物理量として計測し、伝送する方法がある。例えば、音圧の変化を計測して遠方に通信することは電話の仕組み。
しかし、力触覚は機械的な接触によって生じ、その刺激を定量的に扱う方法は長らく不明だったが、最近では具体的な説明がされつつある。
実世界、および仮想世界あるいはその両方に存在する対象との接触により生じる力触覚刺激を定量化して利用する技術を総称してリアルハプティクス®という。
リアルハプティクス®は、実世界および仮想世界で対象との接触によって生じる力触覚刺激を定量化し利用する技術を指し、本センターの主要な研究分野となっている。この技術の確立により、仮想空間での対象との接触に生じる力触覚を扱うことが可能になる。
本ブースではその多彩な応用例の紹介が行われていた。
どのような仕組みでハプティクス技術は成り立っているのか?
感覚は主観的で定量化できない。しかし、感覚を引き起こす刺激は定量化可能だ。
リアルハプティクスでは、対象から感じる反作用力を自分の速度で割った物理量を力触覚の刺激信号と考え、定量化する。これにより、遠隔デバイスが取得した作用力を手元デバイスで再現できる。
リアルハプティクス®を使用することで、対象の質量、粘性、剛性などの情報もリアルタイムに取得できるのだ。
簡単に言えば、リアルハプティクスは遠隔デバイスで物体を押した際の変形量に基づき、手元デバイスで触覚を再現する技術だ。例えば、マシュマロのような物体を遠隔デバイスで押すと、その剛性や変形量を手元で感じることができるのだ。
山岳トンネル掘削作業における自動火薬装填システムの開発
このシステムはリアルハプティクス技術を使用し、遠隔地から火薬の装填作業ができるようになっている。力触覚を伝えることで、遠隔からでも直感的に操作可能で、火薬の挿入や押し込み作業が円滑に行える。
また、遠隔装填技術のデータを使用して作業者の動作を再現し、自動化することで生産性向上が期待される。
今後は自動結線システムの要素試験を進め、さらにトンネル掘削作業の無人化を目指す予定だ。
ハプティクスセンターホームページより
廃棄物発電設備 ガス化溶融炉 炉前作業ロボット
廃棄物発電設備のガス化溶融炉で、従来は人が行っていた出湯口の溶融物清掃作業が、遠隔操作のロボットによって実現された。
この作業では、鋼製の突き棒を使用するが、煉瓦の損傷を防ぐため、作業員の触覚を頼りに微妙な力加減で作業が行われる。
新しいシステムでは、ロボットを自在に操作する「リアルタイム制御技術」と、オペレータの操作レバーにロボットが受けた反力を伝送する「リアルハプティクス技術」を組み合わせ、遠隔で微妙な触覚を感じながら作業を行うことが可能となった。
従来では熟練の作業員が炉の目の前で危険を冒しながら作業をする必要性があった。しかし本システムによって、離れた場所から遠隔での作業が可能となった。
21世紀は少子高齢化が進み、生活の質(QOL)を向上させ、充実した生活を実現するためには、ロボットのような人工的な存在を産業、医療、福祉など、社会のさまざまな分野に導入する必要があるのは明らかだ。リアルハプティクス®は様々な場所や物とを離れていてもつなぎ合わせる技術であり、その技術が果たす社会的な役割は増えてゆくだろう。
慶應義塾大学ハプティクス研究センターでは、ほかにも様々な応用が研究されている。今後本技術が私たちの身の回りにやってくる日は近いだろう。
(IRUNIVERSE IMAHOKO)
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