提案型蓄電ソリューション企業への変身 カーボンニュートラル時代の成長戦略――エナジーウィズ

鉛蓄電池一筋に歩みを続けてきた企業がある。昭和電工マテリアルズ(現:レゾナック)から分離・独立する形で2021年にスタートを切ったエナジーウィズである。その源流はたどれば100年余り前に遡る。日本の蓄電池産業の歴史と共に会社の歴史を刻んできた。時代の風であるカーボンニュートラルが迫る再生可能エネルギーへの転換は蓄電池需要のすそ野を大きく押し広げようとしている。新たな成長機会をどうとらえていくのか、主要プレーヤーとして描くその事業戦略を探った。
提案型蓄電ソリューション企業――。これまでの主軸事業である鉛蓄電池の製造・販売である「もの」売りから、施工から保守点検までの一貫したサービスを提供する「こと」売りへ。新たなスタート地点から、その先に見据える事業モデルである。鉛蓄電池関連産業には構築された完成度の高いリサイクルループがある。その舞台で、培ってきた技術蓄積を生かしてユーザーの求める最適解を提示できれば、顧客との距離感を縮めながら、パラダイムシフトの進む蓄電池市場で新たな地平を切り開けるとの読みがあるのだろう。
1916年、日本蓄電池製造として発足したのが始まりだ。60年に日立製作所が資本参加、2012年に日立化成工業の完全子会社となった後、16年に同社と合併し、20年に昭和電工が日立化成を子会社化したことに伴い社名を昭和電工マテリアルズに変更。21年にエナジーウィズとして新たなスタートを切った。一連の変遷を概括すればそうなる。
下図は現在の事業領域を製品ベースでみたものである。エネルギー転換に欠かせない電源システム、デジタルトランスフォーメーション時代の到来でデータセンター向けなどに需要急増が見込まれる産業用蓄電池などが並ぶ。電池の劣化状態を定点観測できる蓄電池監視システムも多用途での応用が見込まれそうだ。
エナジーウィズ公式HPより
足元、蓄電ソリューション事業の展開領域としては、電源システムやゴルフカートを念頭に置いているという。定置・移動型の両事業領域でノウハウを蓄積しながら、新たな展開を目指す段取りを描いているとみた。CO2の排出抑制につながるとしてヒット作になったアイドリングストップ車向けバッテリーの開発などを通じ、つかんだ確かな感触が「提案型蓄電ソリューション企業」への道だったということなのだろう。
成長シナリオを実現するうえで、原料の安定調達ルートの確保も一段と重要度を増してきた。LME鉛在庫状況は10月以降大きく改善しているが、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻と非常時モードが続く中、ここ数年低水準が続き、供給不安からその相場は高値圏で推移してきている。
産業用鉛蓄電池の製造・販売を手掛ける台湾や⾃動⾞⽤バッテリー・産業⽤鉛蓄電池の製造・販売のタイの拠点では独自に調達しているという。ただ、足元の国内鉛バッテリースクラップのサプライチェーンでは混乱が続いている。輸出を手掛ける中華系の集荷力がアップし、スクラップの品薄が常態化してしまっているためで、それが鉛合金需給に波及してもおかしくないだろう。ここにきて若干緩和の兆しが見え始めたが、この「輸出」問題、季節要因の需給変動と絡んで今後とも波乱の芽として残る。
提案型蓄電ソリューション企業への変身という販売面での改革とあわせ、原料調達面でのリスク管理の徹底というバックヤード問題のハンドリングが、成長シナリオを実現する上でのカギを握ってきそう。
閑話休題
〜私(棚町)と新神戸電機の思い出〜
エナジーウィズの前の前の前は新神戸電機という社名で高品質の鉛バッテリーを製造していた。当時、埼玉事業所の設計部長は森本佳成氏。森本さんは電池工業会に出向し、主に鉛バッテリーリサイクルの問題に取り組み全国を奔走していた。2004年に新たな鉛バッテリーリサイクルプログラムが産構審で決まり、SBRA(鉛蓄電池再資源化協会)が立ち上がったころ、私は森本さんと知り合う。
そして鉛バッテリーリサイクルの歴史について学び、鉛バッテリー、さらにはリチウムイオン電池のことも学ばせてもらった。その発展形でMIRUのほうに森本さんのコラム、YOSHIの独り言、というシリーズを2017年から2021年まで続けてもらった。それはのちにbattery todayというタイトルに変わっても続いた。当時、毎月、上野の居酒屋でコラムの打ち合わせを行っていたことを昨日のように思いだす。
そこからバッテリーサミットへと発展していったのだが、その森本さんも2022年4月に75歳で逝去された。埼玉事業所にも行かせてもらい、海外の国際バッテリー会議に私が行っていたときにもアドバイスの電話をかけてくるような方だった。バッテリーとともに生きたバッテリーマンが森本さんだった。
(IRUNIVERSE YT & G・Mochizuki)
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