未来のニッケル価格はAIが決める? 米国が価格の透明性に一石、軍用材料調達の思惑も
ニッケルをはじめ重要鉱物の取引価格設定を巡る米国の取り組みが話題になっている。ロイター通信などの外電は1月30日、「米国で軍用技術の開発を手掛ける国防高等研究計画局(DARPA)が、2023年10月にAI(人工知能)を用いた鉱物価格の設定計画を発表していた」と伝えた。伝統的な市場での取引に一石を投じたとして改めて注目されている。
■軍用技術の開発機関が計画を発表
DARPAの発表文書:Increasing Transparency in Critical Materials Price, Supply, and Demand Forecasts (darpa.mil)
DARPAが10月に発表したのは「DARPAオープン・プログラム」と題する計画。米国地質調査所(USGS)と提携し、重要原材料の価格と供給、需要予測について透明性を向上することを目指す。発表文書によると、計画では「ファンダメンタルズ(基礎的条件)やコストといった情報を分析することで、透明な構造的価格予測を構築し、時系列予測、経済モデリング、機械学習の進歩を使用して、正確な需要と供給の予測を作成する」としている。
ロイター通信が、DARPAが11月に行ったプレゼンテーションの内容として伝えたところによると、計画では1社以上の民間請負業者を雇い、AIによって各種の分析を行う。民間請負業者の選択はすぐにも進められるとの消息筋の話も伝わった。
■LMEのニッケル事件などが引き金か
DARPAは10月の発表文書の中で、「今日の重要な材料の価格設定は不透明で、需要と供給の予測は多くの場合、タイムリーでないか不正確だ。市場の不透明化は、サプライチェーンの混乱を引き起こし、国防総省の準備状況を低下させ、企業と消費者の両方に経済的コストを課す可能性がある」と指摘した。
ロイター通信はこの指摘について、「2022年にロンドン金属取引所(LME)が引き起こしたニッケル価格に関するトラブルなどが米国の懸念の背景の1つになったのではないか」と伝えた。また、2021年にマグネシウム価格が高騰したことや、ランタンの購入に中国の占有などが障壁になっていることも、こうした取り組みを引き起こした可能性がある。
しかし、数十年にわたって売り手と買い手の需要と供給によって金属を取引してきた関係者らにこうした取り組みがどう受け止められるかは未知数だ。ロイターの取材に対しては、多くの取引所運営業者が口をつぐみ、LMEは「(銅取引所の扱う金属価格は)世界の需給とファンダメンタルズを反映させた決済価格になっている」と説明したという。
■スーパーアロイ価格の高止まりが危機感を煽った可能性も
もう1つ、うがった見方をすれば、米国の取り組みは軍用物資の安定供給を目指したものの可能性がある。DARPAは言うまでもなく米国の国防組織であり、文書の中でも市場に任せる現在の金属取引の不安定さは「国防総省の準備状況を低下させる」としている。
足元では、兵器を含む航空機などの材料となるスーパーアロイ向けの鉱物価格が堅調だ。地域紛争が多発していることが需要を下支えしている上、「兵器向けは長期契約を結ぶ顧客が多く、価格変動が起きにくい」(レアメタルを扱う中堅商社の幹部)といい、金属相場全体が値下がりする中でも高止まりしている。調達する側としては、価格引き下げが難しいことになる。
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さらに、前述のランタンのように、重要鉱物市場では中国の存在感が大きいことが背景にありそうだ。例えばコバルトにしても、中国の洛陽モリブデン業(チャイナ・モリブデン、CMOC)がコンゴ民主主義共和国(DRコンゴ)での増産を進めてコバルト生産で世界首位になったが、その一部は中国政府が購入しているようだ。レアアースなどでも中国は採掘から加工までのシェアが世界トップクラス。資源調達で劣勢になりがちな米国が縋るのが、AIなのかもしれない。
(IR Universe Kure)
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